ノルウェーの最南端の街クリスティアンサンで毎年9月に行なわれるPunkt というフェスティバルがある。

“live remix”、ライブ演奏された音源を生っぽいままリミックスするという手法で、このフェスティバルを主催するJan Bang とErik Honoré が得意とする。2005年に始まったこのフェスティバルや彼らの作品を通してその手法はいくらか知られていたけれど、この年、初めてこのフェスティバルを訪れて、このアイディアの解釈は人それぞれ、もしくは理解度が様々、のように感じられた。

あるアーティストが演奏した音源を、すぐ近くの別のスペースで他のアーティストが別の音楽として再現するのがこのフェスティバルでの基本。場所の移動があるのは音楽的な理由でなく、器材の準備の都合だろう。別の音楽として再現、というのは、録音した音源をアレンジしたり、音を加えたりするわけだが、普通に演奏するよりはるかにセンスが問われる。しかも直前の音源は実際どういうものになるのか予測がつかないため、究極の即興でもある。

Maja Ratkje はヴォイスパフォーマーであり、現代音楽の作曲家としても注目される存在で、音楽性も表現手段も幅広い。数度彼女のパフォーマンスを目の当たりにして、ライブ演奏という場は幅広い彼女の表現力が遺憾無く発揮される場なのだということを感じていた。

このフェスティバルで Maja Ratkje はライブリミックスの方に登場した。音源となるのはエストニアのコーラス隊の合唱。観客はまず合唱を聴き、終演後、ぞろぞろと隣のスペースに移動。普通のライブミックスの場合は観客の移動が終わってから客電が落ちリミックスが始まるのだが、この時は既にそこから他とは違っていた。移動して来た観客を誘導するように、すでにライブリミックスの演奏が静かに始まっていたのだ。先の音楽の印象が薄れないうちに新しい音楽に導入する秀逸なアイディアだが、容易なことではない。

思えば、自身もヴォイスパフォーマーなので「声」に対する感覚は特別なのだろう。音源のコーラスを、原型が辛うじて分かるところまでバラバラにし、自身の声と演奏を絡めて全く別の音楽に仕立て直したそのパフォーマンスは、実のところそれまで今ひとつよく分からなかったライブリミックスという手法の面白さを知らしめてくれるものだった。

被写体としての Maja Ratkje は比較的撮りやすく、写真映えもする。マイクや手元の機材の都合からあまり体が動かないのでポイントが絞りやすく、迷うとすればピントは手先か顔か、くらいだろう。普通シンガーは難しいが、彼女の場合大きな口を開けて朗々と歌うわけではないので楽器奏者と難易度は変わらない。そして、彫りの深い美貌と、この1枚では写っていないがとても大きな目を持つ魅力的な被写体でもある。

2010-09-03 / Punkt Festival, Agder Teater Biscenen, Kristiansand, Norway / Nikon D300 / 70-200mm F2.8 / 116mm / F2.8 / 1/30s