東北の紅葉のハイライトの1つ、蔦沼。あちこちで写真を見かけ、てっきりこの色は彩度上げ上げなんだろうと思っていたが、そうではなかった。

蔦沼のハイライトは短い。足早に来て去る北国の紅葉に拠るため、10月下旬の1週間余りに限定される。雨はもちろんNG、風が吹かないこと、朝焼けが起こること(快晴もダメということだ)ーその全てが揃った時にオレンジ色に色づいた木々が赤く染まり、それが水面に反射してこの景色になる。

この日は夜明け前というより夜半過ぎからスタンバイしたが、小雨が降ったり止んだりで、夜明けとともに諦めて帰るカメラマンも。しかし6時、風こそ少し残ったものの雲の隙間から突然日が差し、オレンジが赤に変わり、粘ったカメラマンから歓声が上がった。あまり絵になる角度ではなかったが、私を含めごく一区画にいた人からはうっすらかかった虹まで見えた。そして5分も経たないうちに何もなかったように赤はオレンジに戻ってしまった。

この写真を見返していつも思い出すのは、自然の起こす気まぐれなサプライズと、沼のこちら側の人間模様ー夜中2時3時から場所取りをし、時に和やかに見知らぬ者同士談笑し、時に場所取りの小競り合いをし、夜明けとともにあっという間にいなくなる150人とも200人とも言われる人々ーの対比だ。美しい沼はいつもそこにあり、静かに水を湛え木々を映しているのに。

2015-10-22 06:04 / 蔦沼(青森県十和田市)/ Nikon D4 / 24-70mm F2.8 / 70mm / F14 / 3s