last updated: 31 January 2004
● 最初はびっくりしたけれど、ハマると深い。
Merriwinkle // Sidsel Endresen / Christian Wallumrød / Helge Sten (2004; Jazzland; 0602498650362)
Sidsel Endresen (voice), Christian Wallumrød (el-key, ac-key), Helge Sten (audiovirus, electronics)
人間の内側にあって、普段は決して表には出ない「何か」を形にしてみせるかのような Sidsel Endresen のボイスパフォーマンス。静寂と凶暴性を背中合わせにしたその音楽は、安易に聴かれることを拒絶する。何度か聴くとその前衛性の内側にすうっと入り込めるような気になるのが不思議だ。Christian Wallumrød はこの音楽をきちんと消化しミニマルなサポートに徹する。彼もまた、演奏そのものは確かに彼らしいものだけれど、自身のリーダー作とは全く違った表情も見せる。録音は3回に分けて行われており、最後のセッションで初めて加わったという Helge Sten は13曲中5曲で参加。日常からかけ離れたこの音楽の深みへと聴き手をいざなう彼の手腕が素晴らしい。その音は彼のソロアルバムの音に近く、それもまた別世界の音だ。赤/白ベースに銀色の文字を配した美しいデザインのアートワークとこの音楽の取り合わせは絶妙。 (2004/01/31)
● 誰かこの2曲目にそっくりな歌謡曲知りませんか?
Changing Places / Tord Gustavsen Trio (2003; ECM 1834)
Tord Gustavsen (p), Harald Johnsen (double-b), Jarle Vespestad (ds)
ノルウェーの有名なシンガー Silje Nergaard のバックを務める3人 (参加アルバムは "Port of Call" (2000), "At First Light" (2001), "Nightwatch" (2003)) によるトリオでこれがデビューアルバム。レインボースタジオの音響が最大限に活きるようなリリカルなピアノトリオ。#3 がアップテンポなほかはほとんどミディアムかスローで、それぞれの楽器は音数も少なく、点と点で接触しバランスを保っている。特筆すべきは Tord Gustavsen のメロディーセンスで、#2 / #12 "Graceful Touch" を筆頭に数曲で、まるで日本の古い歌謡曲のような(悪く言えばベタな)メロディーが出てきてびっくり。このメロディーを現地のリスナーはどうとるのだろう。ドラムがトン、と静かに鳴り、ベースが静かに低音を鳴らし、ピアノの音がポロンと入る、その研ぎ澄まされた瞬間に彼らの美学のようなものを感じる。2003年、ノルウェーで最もヒットしたジャズアルバムの1枚。 (2004/01/28)
● いつも Rune Grammofon のアートワークは秀逸だけれど、このアルバムはまた格別。
Fabula / Skyphone (2004; Rune Grammofon; RCD2033)
Keld Dam Schmidt, Thomas Holst, Mads Bødker
デンマークのトリオ編成のユニットのファーストアルバム。レーベルのプレスリリースでは Alog や Phonophani が引き合いに出されているけれど、もっと近いのは同じデンマーク出身の Opiate 、それに部分的にはスウェーデンの Tape あたりだ。ギターなどのアコースティックな音とグリッチ音などの電子音の柔らかな融合。彼らのサウンドを特徴付けているのは、比較的はっきりしたメロディーライン。その丸みを帯びたメロディーはこのレーベルにしてはとてもポップな印象だけれど、どこかポップになりきらないところは「らしい」のかもしれない。ここちよく、優しく、無邪気なようでそしてどこか少し謎めいている。 (2004/01/27)
● Moserobie の手抜き紹介は以上。
Nacka Forum / Nacka Forum (2002; Moserobie; MPCD005)
Jonas Kullhammar (as, ts, bs), Goran Kajfes (tp, flh, pocket tp), Johan Berthling (double-b), Kjell Nordeson (ds)
スウェーデンの現在のシーンの実力者4人によるユニット。アヴァンギャルド系のメンバーの顔合わせの中、クラブ寄りというのか、ラウンジ系にも通じるリーダー作 "Home" (2000; Kaza / EMI) で知られるトランペッター Goran Kajfes のみやや色合いが異なる気もする。このアルバムでは非常によくコントロールされたトーンのトランペットを吹いていて、大らかなテナーを吹く(Moserobie のレーベルオーナーでもある) Jonas Kullhammar とは対照的。Ken Vandermark や Mats Gustafsson といったところとの共演で知られる Kjell Nordeson は意外と目立つ演奏をしていて、一方の Johan Berthling の演奏は安定感があり、相変わらずアルコ弾きが素晴らしい。音楽はこのレーベルらしいラフな手触りのアヴァンギャルドジャズ。 (2004/01/24)
● Magnus Broo 絡みの新作をもう1枚。
Moksha / Moksha (2003; Moserobie; MMPCD 015)
Mattias Welin (b), Karl-Martin Almqvist (sax), Magnus Broo (tp), Sebastian Voegler (ds)
スウェーデン人(比較的若い)4人によるユニットの恐らくファーストアルバム。曲は Magnus Broo が4曲、Karl-Martin Almqvist が3曲、それに Mattias Welin が1曲とオリジナルで占められている。はっきりした輪郭をもつ歯切れのよい若々しい演奏で、アヴァンギャルドジャズではあるけれど、前衛的ではない。ピアノレスという編成のためか、それとも名前のクレジットの順に見られるとおりなのか、Mattias Welin (Magnus Broo Quartet のメンバーでもある)の安定感のあるどっしりしたベースが全体をしっかり支えている。ユニット名 "Moksha" はサンスクリット語源で、ヒンドゥー教やジャイナ教における「輪廻からの開放」の意。 (2004/01/22)
● Atomic のメンバーの勢いは止まらない。
Sugarpromise / Magnus Broo Quartet (2003; Moserobie; MMPCD 016)
Magnus Broo (tp), Torbjörn Gulz (p), Mattias Welin (b), Jonas Holgersson (ds)
1998年に自分のカルテットを結成したスウェーデンのトランペッター Magnus Broo 、現在はノルウェー=スウェーデンスーパークインテット Atomic のメンバーとして知られる彼の "Suden Joy" (1999) 、"Levitation" (2001) に続くリーダー作3作目。カルテットのメンバーは3作通して同じ顔ぶれ。開放的な高音でバリバリ飛ばす Magnus Broo のトランペットがとにかくよい。胸のすくような快演。収録されているのは6曲、1曲のみ(#2)ピアニスト Torbjörn Gulz の曲がある他は全て Magnus Broo のオリジナル。Atomic のセカンドアルバム "Boom Boom" (2003) にも収録されていた "Alla Dansar Samba Till Tyst Musik" も演奏されている。録音はこちらのほうが後(2003年4月9日)になるのだけれど、このバージョンのほうが「原形」のようで、非常にシンプルなアレンジ。 アップテンポでストレートな曲で魅力を発揮する Magnus Broo、#1 のようにミディアムテンポからリズムパターンが変わる曲もそのトランペット1本でぐいぐい引き付ける。 (2004/01/21)
● ジャケットの絵を手がけているのはノルウェー人アーティスト Peter Opsvik (>> オフィシャルサイト)。
Samsa'ra / Samsa'ra (2003; Jazzland; 0044003826526)
Bjørnar Andresen (ac-b, effects), Bugge Wesseltoft (p, prophet 5), Paal Nilssen-Love (ds, per)
3世代のノルウェー人ミュージシャンによるトリオ Samsa'ra の初めてのアルバムで、Jazzland レーベルにこれまでなかったインプロ作品となっている。60年代から活動している Bjørnar Andresen と 1974年生まれの Paal Nilssen-Love はこれまで3枚のアルバムでの共演があり、こういう即興演奏を最も得意とするプレイヤー。そこへ加わるのがこれまでこういう作品に参加していた記憶がない Bugge Wesseltoft (1964年生まれ)。鋭い音を叩き出す Bjørnar Andresen と Paal Nilssen-Love に対し、Bugge Wesseltoft はある意味いつもと同様きれいな音で、ただし非常にミニマルな演奏で受けて立つという印象。Bugge Wesseltoft の音とその音の出るタイミングの丸さがこの種のインプロ物では珍しいような気がし、それがこのユニットの特徴になっているかもしれない。アグレッシブな部分もあるけれど、全体としては非常に静かでクールな印象を受ける即興演奏。2002年5月、Bugges Room での録音。ユニット名はサンスクリットで「輪廻(転生)」の意。 (2004/01/11)
● ジャケットも怖いけれど、メンバーの写真のほうがもっと凄いかもしれない。
Sweet Shanghai Devil / Shining (2003; Jazzland; 038 266-2)
Jørgen Munkeby (ts, fl), Torstein Lofthus (ds), Morten Qvenild (p), Aslak Hartberg (ac-b)
"Where The Ragged People Go" (2001; BP) に続くセカンドアルバム。リーダーの Jørgen Munkeby (ts, fl)、それに Moten Qvenild (p) は Jaga Jazzist の元メンバー( "The Stix" のレコーディングまで参加)であり、Jørgen Munkeby はそもそもこのユニットを優先させるため Jaga を離れたといういきさつがある。その直後にレコーディングされた本作は、コルトレーン色に新しい感覚を持ち込んだ風だった前作とはかなり雰囲気が変わり(恐らく幾分意図的に)、ジャズから現代音楽にも少し接近する抽象的な音楽になっていて、より不規則で不安定、別の言い方をすればフリー度があがっている。複雑な構成を持った曲が多く、それは即興演奏というより、事前に頭で考えられたアレンジではないかという印象を受ける。ミキシング・マスタリングとポストプロダクションを Helge Sten が手がけていて、アコースティックな音を残しつつ(特にソロの部分はリアル)、彼らしい音作りが非ジャズ的で面白い。(2004/01/08)
● アルバムリリース前は Pat & Ray などという名前だったりしたのだけれど…。
ON / OFF // ON / OFF (2003; Jazzland; 067 251-2)
Patrick Shaw-Iversen (fl, prog, samp), Raymond C. Pellicer (prog. fx, beats), Anders Engen (ds, per), Audun Erlien (b, fx)
Patrick Shaw-Iversen はノルウェーの Curling Legs レーベルから "Floating Islands" (1998) というインドネシアのガムラン音楽にインスパイアされた異色作をリリースしているフルート奏者。ON/OFF は彼と、Nils Petter Molvær のグループのサウンド担当として知られる Raymond C. Pellicer のデュオユニットでこれがファーストアルバム。参加しているのが同じく NPM バンドのメンバー Anders Engen と Audun Erlien (1曲のみ Pål "DJ Strangefruit" Nyhus" までプロデュースで参加)ということで、特にビート面で NPM のサウンドとの類似点がかなりある、というよりむしろ、彼らが NPM バンドでいかに大きな役割を果たしていたか、という方が正確だと思う。北欧的な寒色系サウンドスケープの中をメロディー(フルートとははっきり認識できない音も多い)が漂い、曲によってはクールなビートが刻まれる。ありそうで意外にないサウンドで、よくプロデュースされた作品だと思う。 (2004/01/05)