2000-09-16 Passionskirche / Berlin, Germany

Markus Stockhausen / Arild Andersen / Patrice Héral / Terje Rypdal
Kartã CD Präsentation

Markus Stockhausen (tp, flh)
Arild Andersen (b)
Patrice Héral (per)
Terje Rypdal (el-g)

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これを観るためにドイツに行ったのか、ドイツへ旅行する時期にたまたまこのコンサートがあったのかは微妙なところで、とにかく強引にスケジュールを合わせて、結果的にこのコンサートが今回のヨーロッパ旅行の目玉になった。
アルバム"Kartã"の日本盤の発売は当初9月1日だったのが例によって延期となり、9月13日になる、というニュースには焦った。ヨーロッパへ出発するのが13日だから、その前にアルバムを聴き込む予定だったのに。何とか9月12日の夕方にアルバムを購入、MDに落として、曲名をメモしてあたふたと旅行へ。

カルテットによるコンサートはドイツ各地で数回あり、その後はどうやらTerje Rypdal抜きのトリオ編成に戻ってしまっているようだ。ベルリンで行われた今回の「CDプレゼンテーション」のコンサートはカルテットで行われた数少ないコンサートの1つ。
会場はベルリン、クロイツベルク地区のPassionskircheという名の教会。ドイツでは教会の地下(その名も"Basement"というライブハウスだった)でのコンサートなどを観たことがあるが、今回は教会のメインのスペースそのもの。コンサート会場としてよく使われているところらしく、前日にはハンガリー出身でベルリン在住のギタリストFerenc Snétbergerのコンサートがあった。(スケジュールの都合で、16日の当日にケルンからベルリンへ移動することになり、残念ながらこのコンサートは見逃した。)そういえば、この2つのコンサートのプロモーターはFerenc Snétbergerの奥様Angela Snétbergerさんで、Markus StockhauesnはFerenc Snétbergerの最新作"For My People"に参加している。

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ドイツ横断の移動で結構疲労した後、少々開場から出遅れて会場に着くと、これがもう結構な人出だ。一応、満員で門前払いをくらったりすると一生悔やみそうなので先のAngela Snétbergerさんにチケットを取っておいてもらうように事前にお願いしてあったのだが、割と当日券で入る人も多く、全く問題なし。ちなみにチケットは前売り25マルク、当日30マルクで、これはこの時のレート(極端に円高だった)でいうと1500円を切る値段!ドイツのチケットは大体日本の3分の1程度かそれ以下が相場だ。うらやましいを通り越して移住したくなる。

入り口でCDを売っている。覗き込むと、置いてあるのは"Kartã"の他、Tsabropoulos / Andersen / Marshall "Achirana"、Arild Andersen "Hyperborean"、Terje Ripdal "Double Concerto / 5th Sympohny"、それにAparis "Aparis"、"Despite the fire-fighters' efforts..."。それよりも横に積んである"ECM 2000/01"のカタログが気になる。(厚さ5ミリ以上もある立派なカタログ。)「これ見せてもらっていいですか?」と訊くと、気のいいお兄さん「もちろん!持ってっていいよ」との返事。無料なのか?日本だったらアルバムをお買い上げの方にプレゼント、となりそうなのに。売り場のお兄さん、"Kartã"アルバムを指して「新しいアルバムは?」私「持ってるよ」「こっちのAparisは?」「それも聴いたよ」「いいアルバムだよね」「うん」なんて会話を交わしつつカタログをもらい、Aparisの持っていなかったほうの1枚を購入。 観に来た人の中には「えっと、新しいアルバムはどれかね」なんておじさんも。

会場はもろに教会。築100年というから、ドイツではかなり新しい部類に入る。中に入ると、正面には十字架に張り付けられたキリスト像なんかがかかっていて、なんだかすごい雰囲気だ。ある意味このカルテットの演奏にふさわしい場なのかもしれないが。観客は30代半ばくらいから50代くらいの落ちついた雰囲気の人々、2人連れが多く、その大半が男同士か男性・女性の取り合わせなので、全体では男性が多い。(ちなみにアジア人はもちろん、見たところ外国人は皆無。)かなりの人が入り口でもらったカタログに没頭している。現地のECMファンとはこんな感じなのか。このカタログ、2000年内に発売予定のアルバムも掲載されていて、Arild Andersen "Molde Concert"の再発をこれで初めて知る。
ふと気が付くと、会場はかなり埋まっている。始まる直前、後ろのほうが騒がしくなる。何かと思ったら、(恐らく予定外の)大盛況のため、2階席を開けるとのこと。1階席の後ろのほうの人が一斉に2階席へ走る。

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ほぼ定刻(夜8時開演)どおりに4人が登場。ステージ(普段は祭壇)の後ろに扉があって、そこから出てくる。メンバーは左からMarkus Stockhausen、Patrice Héral、Arild Andersen、Terje Rypdal。だれが真ん中、というわけでもなく、半円状に並んでいる。Markus Stockhausenの挨拶。丁寧な挨拶。

一番左端のMarkus Stockhausen。背が高い(首が長い、とも言う)。いい意味でいかにも育ちの良さそうな、インテリな雰囲気。床にトランペットやフリューゲルホルンが数本立ててある。その前には随分大掛かりな機械がある。

その隣がPatrice Héral。個人的にこの人だけは全くどういう人なのか知らなかった。フランス人。メンバーの中では一番若い。メンバー紹介をしたのはMarkus Stockhausenで、そのMarkus Stockhausenを紹介したのはこのPatrice Héral。ドイツ語がかなり上手い。

そしてArild Andersen。写真でみるとおりのイメージの人。にこやか。

右端はTerje Rypdal。"Kartã"アルバムのジャケット内の写真でTerje Rydalってこんな体形だっけ?(失礼)と驚いたが、実物も、ジャズギタリストというよりプロレスラーみたいな(めちゃくちゃ失礼)ごつい体形でビックリ。黒いTシャツを着て、ヒマなときはギターアンプに腰掛けてしまう、ロックミュージシャン風なところがよい。


それぞれ譜面を置いているのも意外だったが、演奏された曲はアルバムに収録されているものが中心。全くのインプロヴィゼーションと思っていたのだが、そうではなかったんだろうか?
日本盤は「マルクス・シュトックハウゼンwithテリエ・リピダル」となっていたのだが、実はこれは正しくない。もちろんTerje Rypdalが参加していたから日本盤が出たんだろうけれど。音を聴いた限りでは、曲を組み立てているのはPatrice HéralとArild Andersenだ。この2人の演奏が圧巻。

Arild Andersenのベースはアルバムでも驚異的なフレーズの連続だったが、視覚的にも目を見張るものがある。両手の動き方が実に美しい。ぎこちなさや、すごいフレーズを弾いているというのを全く見せない見事にスムーズな手の動き。音はアルバムでも聴かれるように結構しっかり「自分の音」をアンプで作っているが、作りこんだ感じはなし。アルコ弾きも驚異的。録音されたものを聴いていると単に高音アルコ弾きとしか思わなかったが、一番高いG弦の駒と弓、弓と左手の指のあいだがほんの数センチずつしかないようなヴァイオリン的超高音がきれいに出る。一体どういう音程の音かもわからない。

今回のコンサートで観客の注目を一番集めたのは実はPatrice Héralのパフォーマンスだと思う。今回のコンサートではTerje Rypdal以外の3人がループを使用していて、中でもPatrice Héralのループを使ったパフォーマンスは驚嘆。アルバムでは聴かれないが、この人は声も使う。なんとも言えない不思議なフレーズを歌い、それを次々にループで再生していってそれにハーモニーを付けていくのだが、その異常に正確な音程と、声を出しながらパーカッションを叩きつつ、パーカッションもループで再生していく技がすごい。しかもなかなかにユーモラスなところもあり、隣のArild Andersenがすっかり観客して、にやにやしつつ見守っている。

Markus Stockhausenは今回のコンサート、アルバムでは筆頭に出ているし、ドイツでのStockhausenの名前の浸透ぶりは想像に難くないが、パフォーマンスは極めて控えめ。もちろん驚異的な高音を含むフレージングは素晴らしいし、トランペットという楽器ゆえ、それ位控えめにして他とちょうどバランスが取れている。片手であの高音を吹きつつ、MIDIキーボードをさわり、トランペットにハーモニーを付けている。

そしてTerje Rypdal。アルバムでもそうだったが、控えめな演奏が多いが、時折ホットになる。コンサートではこのホットなギターとベースの絡みが素晴らしい。知る限り、このノルウェー人2人は最近、というかここ20年以上、共演アルバムがなかったように思う。この日のこのツーショットにはとても感動したが、よく伸びるギターとよくうねるベースの音はとても合う。Terje Rypdalのすごいギターソロにこれまたすごいベースで応じるArild Andersen、それが終わった瞬間、顔を見合わせニヤリとしつつ、お互いを称えるように手を相手の方に差し出し、観客がどっと沸く・・・すごいものを見た、という感じだ。


アルバムの曲はアルバム以上の即興演奏が付け加えられ、さすがという他は言葉が見当たらないが、それ以外でも印象に残った曲が2曲あった。1曲はArild Andersenの"Hyperborean"。同名タイトルのアルバムではCikada String Quartetが参加しているので、チェロか何かの音だろうとあまり深く考えなかったのだが、あの幻想的な弦楽器によるフレーズは全てベース1本で作られているのだ。ループを使って後ろのアルコ弾きを重ねていき、それを背景にしたピッチカートによるベースソロ。目の前で1本のベースであの音が再現されてしまう。
もう1曲は全くのインプロヴィゼーション。Patrice Héralの単独のパフォーマンスがしばらくあり、それにフレーズをつけるArild Andersenのベース。さらにTerje Rypdalがギターをかぶせ、Markus Stockhausenのトランペットで色をつける。他の曲ではにこやかに演奏していたメンバーの表情がこの曲だけは真剣そのものだったから、全く打ち合わせなしだったんだろうと思う。演奏はもちろん全く見事で、信じられないほどだ。

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2部構成で、たっぷり演奏を聴かせてくれた4人だが、とても楽しそうに演奏していて、この音楽を本当に楽しんでいるのだということがこちらまで伝わるようだった。
それから、観客もドイツの音楽教育、というかこの国の音楽の歴史の深さを見るよう、といったら変かもしれないが、とにかくこの音楽が特殊なものとしてではなく受け入れられているようだった。(もう1つ付け加えると、外国人がいる、というような目で見られることも全くなかったのがよかった。)

アルバム"Kartã"は素晴らしいアルバムだと思うのだが、発売直後のこのコンサートがあまりにすごいもので、アルバムをはるかに上回るインパクトだったせいで、その後あまりアルバムを聴き返せないでいる。

(2001/04/30)

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