lives 2007

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2007-06-24 新宿PIT INN (東京)

Håvard Wiik Trio

Håvard Wiik (p)
Ole Morten Vågan (b)
Håkon Mjåset Johansen (ds)

"Håvard Wiik Trio" がこのメンバーになることは2006年7月、ノルウェーを訪れた際に Paal Nilssen-Love から初めて聞いた。Håvard Wiik 本人がちょうど不在の折の立ち話だったため、ラインナップそのものについてそれ以上追求することはなかったが、名前を聞いた瞬間、Håvard Wiik がどういう音楽を描こうとしているかすぐにイメージできたほどはっきりした選択だ。しかも Mats Eilertsen と Per Oddvar Johansen という名手2人とのトリオでの活動を停止した後でのことだ。私の知る限り、2006年秋にノルウェーをツアーし、翌2007年初頭にレコーディングを行ったのみという「新しいグループ」は、レコーディングからわずか半年で日本にやってきた。

Håvard Wiik についてはここ6年間で14セットも観ている(という自分の記録をみて少々驚いた)が、彼の力量が発揮された良いパフォーマンスはいずれも Atomic でのもので、それ以外では唯一 Håkon Kornstad とのデュオが Atomic とは異なる良さがあった。つまり、例えば、彼が「仮」在籍している Motif では、Håvard Wiik は50%位か、もしくはそれ以下の力でこなせてしまっているのではないかというのが正直な感想だ(ただし、もちろん Motif というグループの評価はそれとは全く関係ない)。

新作 "The Arcades Project" の冒頭を飾るこのメンバーならではの演奏の "Arcades" で始まるのでは、というこちらの勝手な予想に反し、ライブはミディアムテンポの "Malachi" で始まった(結局 "Arcades" はセカンドセットの2曲目、というあまり目立たないところで披露された)。2セットのこの日の演奏は "The Arcades Project" からの曲が大半を占めた。録音して半年、その間にトリオでのライブは恐らくなかったはずなのに、この日の演奏は CD とは良い意味で随分異なるものでとても驚かされた。"The Arcades Project" については、先述の "Arcades" のみ去年7月に私が想像したこのトリオのイメージのさらに上を行くものだが、何度聴き返してもそれ以外については、そのアルバムの疑いようもない優れた出来に反し、特にミディアムテンポより速い楽曲でもっと「らしさ」が出てもいいのでは、というかすかな思いが残った。それが、ライブでは見事にクリアになり、Håvard Wiik がこのメンバーを選んだ意図が見事に反映されたもの、つまり、ジャズというジャンルのピアノトリオらしさという点は押さえつつ、ダイナミックで明快なグルーヴを湛えた、現代的な演奏だった。

Ole Morten Vågan のこの日の演奏は、これまで見た中では少し押さえ気味という印象を受けた。これは、これまで私が見たライブの中で唯一彼が自分のベースを使っていなかった、という要素がかなり大きいだろう。Håkon Mjåset Johansen も、これまで観てきた彼らしい弾けるような演奏はあまりなく、それより比較的繊細な小物使いなどのほうが印象に残った。それでも、矛盾するようだが、ライブでは CD で聞くよりこの2人のカラーがずっとよく出ていた。

もしかしたら、この2人の印象が強く残らなかったのは Håvard Wiik のパフォーマンスのせいかもしれない。Håvard Wiik Trio の最初のアルバム "Postures" (2003) を聴いた時、ピアノ・ベース・ドラムが対等に調和するトリオ、と書いたが、今の彼はその路線を踏襲しつつも、以前より強く自信を持って自身の存在をアピールするようになったのではないかと感じた。それほど、この日の彼の演奏は強力だった。これまで見たことがない気迫に圧倒され、私は注意を他の2人に向けることはほとんどできなかった。

ファーストセットの最後に演奏された "Italics" は、出来たばかり、というより本国ではまだリリースすらされていない "The Arcades Project" のバージョンから大きく変わり、このメンバーならではのアグレッシブさが発揮された。セカンドセットの冒頭は "Ennui!"、来日直前にリリースされたソロピアノ作 "Palinode" からの秀逸なトラックで、ライブでは初めて演奏する曲、と紹介されたが、この曲をライブで聴けたのは嬉しい驚きだった。一方で、ソロ作のみに収録されている曲としてはもう1曲、"Freed [then] from the emptiness of the universe" が演奏されたが、この曲のような静かでアブストラクトな楽曲において聴き手の注意を全くそらすことない演奏に、このトリオの幅広さを見ることができた。

セカンドセットの最終トラックは "Oneeightyeight"。Håvard Wiik のピアノが、私の遠い記憶にはっきり残ったメロディーをなぞっているが、目前で展開される演奏に飲まれ、その記憶が何であったかはついに演奏中は思い出せなかった。「もうオリジナルのレパートリーがないので」とアンコールで演奏された Ornette Coleman の曲も終わってから、iPod の楽曲のリストを繰ってみて、やっとその曲がファーストアルバム "Postures" に収録されていたということが分かった。 4年前、驚きをもってあれほどよく聴いたアルバム、そしてこれまで14回も観たライブの記憶全て、そして最新作 "Palinode" すらすっかり遠いものになるほど、現在の Håvard Wiik の進化は急激であるということを目の当たりにしたライブだった。(2007/07/08)


2007-02-23 Bar Navel (大阪)

Jazkamer / Rulla / Aino

Aino
Rulla (Tommi Keränen)
Jazkamer (Lasse Marhaug, John Hegre)

>> photo (coming soon!)

Bar Navel という場所には初めて行った。というより、ミナミ千日前なんて普段からほとんど通りかかることもない。何とも怪しい雰囲気ただよう町の大きなビルの2階、扉を開けて場所が違ったらどうごまかそうかと思うくらいの場所だ。会場となったのはカウンターのみのバーで、お客さんは10人程。

予定より少し遅らせて、AINO がラップトップに向かう。フィンランド・ヘルシンキ在住の日本人女性アーティストだ。黒いコートを着て、バーカウンターの端に置いたラップトップを操作し、ミキサーに手を伸ばすだけだが、その佇まいが何とも格好いい。デジタルなノイズというより、何かの録音を凝縮したような動きのあるモチーフを重ねる。予測のつかないタイミングで放出される音は面白かったが、ご本人が非常に音量に気を使っておられ、途中でボリュームを絞ったりせざるを得ない場面があったのが残念。思い切り音を出せるシチュエーションだとどんな感じになるのだろう。

AINO のラップトップを片付けた後にペダルがたくさんセットされる。フィンランドの Rulla こと Tommi Keränen のソロ。演奏開始の直後にいくらか写真を撮った後、さて集中して音楽を聴こう、と思ったところでぷつりとライブが終了。ライブをレコーダーで録音していた Lasse Marhaug がストップボタンを押しながら「8分!」と言う。何がなんだか把握できる前に終わってしまって残念。もっとも、この手のライブは長い、と思わない位がちょうどよいと思うが、それにしても短すぎた。

Jazkamer は2001年7月に Merzbow との共演ライブを見ている。私の人生で最も大音量のライブで、恐らくあれ以上のものは今後もないだろうと思われる。彼らはその後何度か日本に来ているが、毎回いろいろな事情で見逃し、ノルウェーでもライブを見る機会がなく、これが6年ぶり。アルバムでその変化は追っているので、前回とはずいぶん異なるものになるだろうことは想像ができた。Lasse Marhaug は先にペダルやラップトップが置かれていたところに、へしゃげたぴかぴかのスネアドラムを上下逆に置き、お客さんの注目を集める。後ろで John Hegre はギターの準備。

ライブは、Lasse Marhaug がバーの備品であるスチール製のハンガー(洋服掛)をがしゃがしゃと何本かまとめて掴み、いきなりそれをマイクを仕込んだへしゃげたスネアドラムの上に放り投げ、びっくりするような音をたてて始まった。John Hegre は終始ギターを抱え、時折足元のエフェクターを触ったりする。エレクトリックではあるが、なんだかアナログな感じのノイズでなかなか面白い。じわじわとテンションとボリュームが上がり、ハンガーはなぜか叫ぶようにノイズを発し、ギターは歪む。予定は30分、実際の演奏もそんなものだっただろうか、やや短くすら感じられたライブはテンポよく進み、終わってしまった。

音量を気にしなければならなかったのが気の毒というか残念だったが、なかなか雰囲気のある小さなスペースならではのよさのあるライブだった。 (2007/02/26)


2007-02-16 / 17 千歳・支笏湖氷濤まつり (北海道)

Terje Isungset & Arve Henriksen Ice Concert
Terje Isungset (ice per, ice horn, voice, whirling overtone hose)
Arve Henriksen (ice tp, tp, voice)

>> photo (coming soon!)

楽器を作ってそれを鳴らす−今や珍しいことになってしまった音楽の原点を見つめなおす公演だった。ただ、彼らが扱っているのが氷だという点では特殊である。

北海道といえども記録的な暖冬の真っ只中、別のところで製氷された特別な氷が会場に持ち込まれ、数日かけて様々な楽器が製作された。会場の端の駐車場には保冷車が用意され、出来た楽器はその中に保管される。その保冷車の中には発泡スチロールのケースが 並べられ、ケースには「スティック」「ハイハット」などと書かれ種分けされている。管楽器の大きいものは半分に割った形のものがまず製氷され、中をくりぬき、2つを合わせて水をかけ再び凍らせる。小さなトランペット類は氷の塊にドリルで穴をあけ、ナイフで削って調整。初日の公演の直前、サウンドチェックもほとんど全て終わった後に急遽差し替えられた楽器があった。スタッフが大きな四角い氷の塊に指示通りの寸法にマークをつけてノコギリでカットしている。長方体に整えられた氷の端から数センチの厚さでスライスするように再びノコギリを入れるので、あんなに丁寧に計っていたのに厚すぎたのかと不思議に思っていたら、スライスは慎重に下10センチ程を残して止められた。薄い氷の板となった部分を Terje Isungset がこつこつ、と手で叩き、氷に耳を近づけて音を確認する。音はかなり近くにいてもほとんど聴こえないほど小さい。満足そうな表情を浮かべた彼は、既にセットされていたものを退け、今出来上がったばかりのスリット入りの大きな氷=バスドラムをセットした。

3枚の CD で聴かれる Terje Isungset の氷の音楽には様々な音が含まれる。中でも印象に残っていたのは氷から出ているとは思えないバスマリンバのような深い音だ。サウンドチェックの中盤、エンジニアの Asle Karstad が氷のパーカッションに小さなマイクをセットし、アンプのスイッチが入れられた。Terje Isungset のアクションはごくごく小さく氷をつついた程度だったが、会場に響いたのは大きな迫力のある音で驚いた。Terje Isungset の氷の音楽、特にアイス・パーカッションはによる音楽は、氷を叩いたり氷と氷を当てて出る小さな小さな音を超高感度マイクで拾い、それをアンプを通して響かせる、という実はかなりハイテクな音楽なのだ。防寒着がこすれる音や、外した手袋をそっと氷の台の上に載せるような音にならない音ですらこのマイクは完全に拾ってしまう。一方の Arve Henriksen が奏でる管楽器類は原始的な大きな音が出るので、音響的には対象的だ。

夜7時。初日は200人、2日目は500人も入ったお客さんは、マイクが音を拾ってしまうのでくれぐれもお静かに、という注意を受け止め、文字通り固唾を呑んで開演を迎えた。氷の椅子に腰掛けた Terje Isungset が右足でペダルを踏み込み、バスドラムはずんずん、と通常のバスドラムよりはるかに低いグルーヴィーなビートを出す。左足は靴を履いた足で、雪を踏みしめるように軽やかにサクサクと刻む。釣り糸で氷の柱から吊るされた大小の氷の板は手や氷のスティックで、叩くというより軽く突かれ小さくとがった音を出す。手元の台には色々な氷が並べられ、スネアドラムの上に色々なものを置いてバリエーションをつけるのと似た作業が行われる。中が空の氷の箱に細長い氷の板を数枚渡したようなものが後方にあり(くっついてしまわないようにか、氷の接触面には不織布がはさまれている)、こちらは吊るされたものよりも響くやや丸い音がする。いずれも叩くという表現からは程遠く、まさしく壊れ物を扱う手つきだ。アルバム "Igloo" にもクレジットされていた "whirling overtone hose" というものは、その音を聴いてすぐに形状は想像できたが、長さが70センチ程、直径は2センチもなさそうな思ったよりずいぶん細いホースで、口にくわえひゅるる〜と鳴らされる(かなり昔日本でもこれの超大型な振り回す物体が流行ったが、非常によく似ている)。

Arve Henriksen は氷のスタンドにセットされた大きなアイストランペットを2台、それに手持ちの小さなトランペットを数台用意していた。中には指で押さえる穴が2つあけられ、ぴろぴろ〜と音程に変化をつけられるものまである。大きなアイストランペットは開演前に水で氷の柱に固定されたたため取り外して保管することが出来ず、2日目のライブ前の日中に溶けてしまい、別の楽器がセットされた。前日のもののほうがコンディションが良かったそうで(聴いていてあからさまに違いが分かるほどではなかったが)調整に苦慮していた。氷の楽器に加え、Arve Henriksen は通常のトランペットを用意しており、どちらかというとアイストランペットをアクセントに、メインはトランペットといった具合だ。持ち込まれた楽器は彼が通常メインに使っているものではなく、ごくわずかに緑がかった白色で、実は暗闇で光る「パフォーマンス用」のものだ。氷の楽器類に白いトランペットはよく溶け込んでいたが、ライトアップの光がかなり明るかったため楽器が光らなかったのが残念だ。通常のトランペットを持ち込んだのは、音楽にバリエーションをつけるためにどうしても必要だから、とのことで、彼独特の柔らかい温かみのある音で彼らしいメロディーを自由に描いていた。それから、楽器と称してよいかどうかは分からないが、2日目は氷の小さな桶に水を一杯に張ったものを用意し、そこに空気を吹き込み(私からは全くの死角でかつ距離が遠すぎて具体的にどういう使い方をしていたのかは見えなかった)、ストローでコップの水をごぼごぼ吹くような音を作り出していた。

2人の出演者のうち、Arve Henriksen については私はこれまで多くの共演者との演奏を見てきたが、この日の共演者 Terje Isungset とは極めて根本的なところで共有する物が多い、と2日間のライブを見て感じた。2人はともにボイスパフォーマンスを多用するが、それは、人間が言葉を持つようになる前のコミュニケーションはかくばかりだったか、と思うような、叫びに近いものだ。2日目にはそれにパフォーマンスに近い身振りや手振りまで入った。もっとも2日目については、中盤にノルウェー語でちょっと笑える他愛もない会話が展開されていたのだけれど、意味がわからなくとも2人が音楽にのせて何やらおかしな会話をしているというのは誰もが理解できただろう。

音楽は完全即興。即興演奏という視点から捉えればポップではないし、展開は読めないし、決して分かりやすい音楽ではないはずだ。しかし彼らの音楽が、原始の記憶を呼び覚ますような音や声に基づいているため、会場に居合わせた多くの人にすんなり受け入れられている。Terje Isungset と Arve Henriksen が共有しているもののいくらか、もしかしたら私たちが考えるより多くのものを、私たちも彼らと共有しているのかもしれないとも思う。

2日とも50分近い演奏がノンストップで繰り広げられ、終わった後は暖かな拍手が送られた。2日目は主催者がアンコールを促し、ややリラックスした雰囲気で始まった短いセッションでは Arve Henriksen が本領を発揮し、観客にまず手拍子をリクエストする。手袋をはめた手によるばふばふ、というユーモラスな手拍子、それに Terje Isungset はちょっと強めに氷のスティックで叩き、ぽきぽき折れたスティックをぽいぽいと放り投げるパフォーマンスで加わる。そして Arve Henriksen は短いフレーズを観客に歌わせ、見事にまとめて盛り上げて終わった。彼が観客自身に音を出させたのは、最後まで残ったお客さんが、静かにしなければと固唾を呑みっぱなしで固まっていたからだ。2005年12月の新宿ピットインでのソロ公演でも、食い入るように熱心に演奏に見入る観客に、何度も何度もリラックスするよう繰り返した彼の、らしい配慮だった。

最後の最後に Arve Henriksen によって開放されたお客さんは拍手と歓声を上げ、終演と同時にどっとステージに押し掛けた。氷の楽器を触る、写真を撮る、鳴らしてもらう…というのに加え、Arve Henriksen は周りを取り囲んだ小さい子供に氷のトランペットをプレゼントしていた。プレゼントする前にマウスピースの部分をナイフで削って鳴りやすく加工し、鳴らし方を教えてあげている。子供たちは結構上手に楽器をコントロールし、皆夢中になってそこかしこでぶーぶー鳴らしている。あまりに上手いので、Terje Isungset も大きなアイスホルンを持って加わり、皆で短く合奏をするシーンまであった。服をびしょびしょにしながら大事そうにアイストランペットを抱えて会場を後にする子供たちを見ながら、本当にいいものを見せてもらった、という気持ちで一杯になった。

彼らが支笏湖の会場に来てからも大雪が降ったり、日中はプラスにまで気温が上がったり、風が吹いたりとアイスコンサートに適さない条件が色々あったが、コンサートの本番の間のみ完全に無風、初日はコンサートが終わった瞬間にパラパラと粉雪がちらつき、ライトアップに照らされて輝くという美しい演出のおまけつきだった。Terje Isungset は2000年(恐らく2月)からアイスコンサートを行っており、今回の2公演が30回目と31回目に当たるそうだ。この間、温暖化で予定されていたコンサートが中止になったという話を聞いたことがある。また、エンジニアの Asle Karstad が苦心して風避けにとステージをカバーするようテントを張り、これで大丈夫、と思った瞬間に強風が吹きつけ、一瞬にして2日間の準備が全く無になってしまったという公演もあったそうだ。氷は、ノルウェーの「屋根」の部分 Buskerud 地方 Geilo 出身の Terje Isungset (このヤイロという町で彼はアイスコンサートを主催している)にとって身近な素材で、石や木などに次いで彼が楽器として扱うことはごく自然なことだっただろうと想像される。それと同時に、この素材が持つ、非常に環境の影響を受けやすく、不安定で、壊れやすく、そして形として残らないという難しさと美しい儚さもまた、Terje Isungset や奏でられる音楽を聴く人を魅了する要因となっているだろう。 (2007/02/22)

来日公演メモ > 2007年2月17日付18日付20日付diary


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