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2008-04-26/27 新宿PIT IN (東京)

Nik Bärtsch (piano)
Imre Thormann (dance)

Nik Bärtsch と Imre Thormann の共演を見るのは2005年10月の来日公演以来、Nik Bärtsch の演奏はトリオ、カルテット、クインテットといろいろライブで観てきたが、ソロは初めて。

初日、ゴールデンウィーク初日の土曜日の公演の開演10分前に会場に入って驚いた。既に会場が一杯だったからだ。女性と外国人が多い。2日目はさすがに満員ではなかったが、それでもひととおり席は埋まっている。両日とも、隣に座っていた女性と一言二言話をしたが、どちらも Imre Thormann がお目当てのようで、現在はベルリンに住んでいるものの、東京に13年滞在したということで、知っている人は知っているのかもしれない。

ファーストセットは Nik Bärtsch のソロピアノ。初日は前半は静かなパートが3分の2ほどを占め、その中心となったのが新作 "Holon" の冒頭のトラック Modul 42。初日はいささか静か過ぎるのではと感じないでもなかったのだが、やはり2日目ではセットを調整してきて、最初の早いイントロダクション、前日同様に Modul 42、そしてその後にどのアルバムにも収録されていない Modul 34(番号からすると最近作曲されたものではないかもしれない)と緩急を複雑につけたセットとなった。

後半は両日ともに長尺の Modul 26。これまでのアルバムでは Mobile "Aer" にごく短いバージョンが収録されているが、Ronin の ECM 移籍前の最後のアルバム "Rea" に収録されているバージョンは、ECM 以前のトラックの中では個人的に最も好きなトラックの1つだ。ミニマルな反復という意味では現在の Ronin の音楽よりその特色が強く出ている、ある種忍耐力を感じさせる曲だ。カルテットだった時代の Ronin の、それぞれの楽器が演奏していたものをたった1人で再現するその演奏とアレンジに、彼自身がステージ後に自信を持って語った自身の「進化」を十分に感じ取れる。

2日目の Modul 26 は最初の入り方が異なったが、途中までは前日のアレンジとほぼ同じだった。しかし2日目の後半、繰り返し記号で囲まれた長い長い1小節の部分で最初に戻る時、ほんの少しの空白を入れてみせた。複雑なつくりでありながら、流れるように自然に展開する彼の楽曲を、一瞬止めて見せたその瞬間は驚きだった。最初にその空白が挟まれた時はもしかしてハプニングなのかと思ったが、どうやらそうではなく、その後も何度も流れが止められ、またすぐにリスタートされる。そのアレンジに大変驚いた、と Nik Bärtsch に言ってみたところ、にやりとしたので、ちょっとした新しい試みだったのだろう。また、このような試みが可能なのはソロならではだ。

休憩を挟んでの2セット目では、ピアノはステージ左奥に引っ込められ、空調が切られる(恐らく余分な音を排除するためだと思われる)。Nik Bärtsch は最低限のライトのもとピアノに向かい、Imre Thormann は会場後方の観客席の通路から登場する。上半身裸の白塗り、裸足というスタイルで、白い照明に見送られながらゆっくりステージへ歩を進める。

2度のステージを観てよく分かったことだが、このステージはあらかじめほぼ全ての音楽と動きが決められている。ソロの時より幾分パーカッシブなピアノと、1人のダンサー、そして場面により細かく変更されるライティングのコラボレーションだが、一見この3者は他者に合わせるでもなく、まちまちの動きを見せ、ピタリと合うことはない。それが、このステージを目に見えないところで立体的にしている。

Imre Thormann のパフォーマンスは、顔と体、腕、手、足などはもちろん、腹部、背中、舌、足の裏といったものまでも使い、自身の内面をさらけ出す。その様を見ることは、ある種の恐怖感にも似た感情に繋がる。Imre Thormann は現在42歳だが、ステージではまるで赤ん坊のようにも、また一転して老人のようにも見え、悲しみ、喜び、そしてもっと複雑な感情も見せる。彼自身の言葉によると、それらは全て人が内に備え持っている要素だとのことで、だから、普段直接目にすることのないそれらを目の当たりにすることは恐怖感に通じるのだろう。しかし誰もが内面に持っている要素とはいえ、それらを表現できる人は稀有である。途中、ステージ上にあらかじめ置かれていた黒いジャケットが使われたが、それはパフォーマンスを演出するものというより、Imre Thormann の体の動きをオーディエンスの視線から遮ったり、Imre Thormann の動きを少々制限したりするもので、その逆の効果をもたらしているようだった。

総じて、1日目よりも2日目のほうがスムーズに流れたのは、来日してわずかの準備期間を考えれば当然だが、両日のステージを観て、その変化を見ることで、彼らがどのようにステージを構成しているのかほんの少し伺えた。今回の公演で最初から最後まで疑問に思ったことが1つ、それはこのパフォーマンスに新宿ピットインという場がふさわしかっただろうか、という点だ。初日のファーストセットの直前、ステージにピアノが1台置かれているのを見た瞬間から、彼らにこの非常に閉鎖的な空間は狭すぎると感じた。それは物理的な空間の狭さではなく、精神的な面での圧迫感だ。例えばクインテット編成の Ronin のステージなら、新宿ピットインという会場にはあまり違和感がなかったかもしれないからだ。しかし、2人のステージを見ている間は会場のことなど全く気にならなかったこともまた事実である。(2008/05/12)


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