2004-08-13 (fredag)
朝方、部屋にたどりついたのは4時、すぐに倒れるように眠ったけれどなぜか3時間半で目が覚める。何も食べずによろよろと10時過ぎに外出。
オスロ市内のごく中心に Rune Grammofon のオフィスがある。古い作りの建物で、らせん状の階段の壁にはGrappa
や ECM、Rune Grammofon などのポスターが飾ってある。以前2度行ったことがあるが、その時も今回もオフィスには
Grappa の Helge Westbye と Rune Kristoffersen しかおらず(スタッフは他にもいるのだけれど)、とても静かだ。今は
Grappa のオフィスで Rune Grammofon の仕事をしている Rune Kristoffersen、今週は雑用の種類の仕事が山積らしくものすごく忙しい中結局2時間もお邪魔し、いろいろなというよりとりとめのない話をした。こういうレーベルなので、この先のリリース予定のプロジェクトの話などを聞くのはスリリングだ。今回も、思わず、その言ってるのは確かにあのグループなんだよね?と聞き返すほどの話がありかなり驚かされた。今後も注目だ、としか書けないのが残念だ。
帰りがけに何かいるものある?と聞かれ、RG は全部持っているし、ECM の新作何か入ってきてる?例えば Trygve Seim のとか?と訊いてみたら、僕は今 ECM は担当していなからそれは分からないけれど、Jon Balke なら確実にあるよ、とらせん階段を挟んで反対側の物置(倉庫とは言わない)へ。はい、とそのまだリリースされていないCDをくれ、他には?ポスターとかは?ということでお言葉にあまえて頂くことにした。それからもう1つ、今日本のレコードショップでも扱っている ECM の新しいカタログを、これは私からお願いしてもらってきた。
本日の収穫: もらったCD。
Jon Balke & Magnetic North Orchestra "Diverted Travels" (ECM)
大きくメンバーが入れ替わっての新作。Arve Henriksen は参加していない。ジャケットは
Jon Balke 自身が撮ったモノクロ写真で、昨今のノルウェー物 ECM とは全く異なる雰囲気。
じゃあ月曜日に、と言ってオフィスを出て、途中レコードショップに立ち寄り、月曜日リリース予定の
The National Bank がまだ出ていないかちらりと確認してからホテルへ戻る。Rune
Kristoffersen と話していた途中から頭が朦朧としてきているので Øyafestivalen
参戦は中止。こんな状態で奇妙な Kaada なんか見た日にはおかしくなりそうだ。
4時過ぎにホテルを出る。 Blå の方へ、市内をぼけーっと北の方へ向かって歩いてたら、あっちからくるのは今朝会った
Rune Kristoffersen 。小さい街とはいえ、ばったり道端で出会うとは。Blå
にショウケースギグを見に行く、と言ったら、今ちょうど Smalltown Supersound
の Joakim Haugland に用があって、とオフィスに戻るところだった。
Blå の外、屋外に設置されたステージでは毎日若いグループのショウケースが行われており、他の日はノルウェーのグループばかりだけれど、この日は北欧各国(フィンランド、スウェーデン、デンマーク、アイスランド)のグループが出演する。他の日のノルウェーのグループも含め、知っているグループはもちろん、知っているミュージシャンすら全くないほどマイナーなものばかりだけれど、ただ1組、アイスランドのトリオだけは2人も名前と音が分かるミュージシャンがいるので、それが目当て。マイナーな無料ショウケースだし人も少ないだろうと思ったら、かなりの人手でびっくり。町外れのこんな川べりに集結しているなんて、熱心だなあ、とぐるりと見回すと例によって結構わかる顔ぶれもいる。私のお目当てと同じミュージシャンのために来ている
Atle Nymo や Ole Morten Vågan がいるし、ちょうど私と入れ違いに Martin
Horntveth が会場を出て行ったのを目撃もした。フェスを主催しておられる Marit
Lauten 女史は連日あちこちで遭遇しているが、ここでもバンドの紹介を自らされる。ちなみにこの方、元
Jaga Jazzist のトランペッター Sjur Miljeteig のお母様なのだそうだ。
会場に到着した時にはちょうど1組目のフィンランドのグループ U-Street All
Stars が演奏していた。 それぞれのグループの持ち時間は1時間弱ほどで、2組目がアイスランドのグループだ。
■ Jóel Pálsson Trio @ Blå Utscene
Jóel Pálsson (ts), David Thor Jonsson (key), Helgi Helgason
(ds)
今年デビューアルバムをリリースしたノルウェー=アイスランド連合クインテット Motif のメンバー、David Thor Jonsson は以前から注目してきたミュージシャンで、初めて生で見れるとあってとても楽しみにしてきた。登場した彼は、不敵な面構えに不思議な(奇妙なともいう)髪型、Iron Maiden (!)の黒いTシャツの上に黄色と緑の派手なジャージをはおり、下は半パン、とまあ音が出る前からすごいインパクト。とてもジャズピアニストには見えない。
一応 Jóel Pálsson Trio という名前だから Jóel Pálsson
がリーダーなのだろうけれど、少しノルウェー語ができることもあり、MC は全て
David Thor Jonsson が取る。結構面白いことを言っているようで、場内が和んでいる。ただしちょっと込み入った話になると突然英語に切り替わるところが面白い。演奏は長めの曲が数曲で、全然タイプが違う曲、というのか、3人のプレイヤーが全然違うジャンルの音楽を一度にあわせているというのか、全くもって不思議な音楽だった。実際の年齢より若く見えるなかなか整った顔立ちの
Jóel Pálsson は、バークリー卒、音楽的にはわりとオーソドックスなタイプのプレイヤーだ。テナーサックスではノルウェーにいろんなプレイヤーがいるということもあり、何か特別に個性が強く感じられることはない。ステージ中央奥、熊みたいな風貌のドラマーは、その風貌に相応しくどかどかとパワフルなタイプ。ただ、全くジャズではないプレイヤーで、完全にロック畑の人のように感じられる。ロックでもシャープなドラミングをする人はもちろんいるが、この人の場合、ちょっとドタバタしている。
ステージ左端にエレピを2段、その上にシーケンサーのようなものを載せてあれこれと手元が忙しい
David Thor Jonsson は、少なくともこのグループの音楽と楽器がエレピだったということもあり、まるでプログレだ。MC
だけでなく、音楽的にも実際のところ完全に彼が主導権を握っている。トロンハイムの音楽院に留学していたというだけあって、相当に上手いプレイヤーで、ジャズとプログレを混ぜ合わせたような高速のソロなどはかなり見せる。
メンバーも、演奏も、そして1曲の中にいろいろ盛り込まれて曲の途中で全く違うパートが挟まれるという彼らのオリジナルも全て共通したものが伺える。ごった煮、という表現があるが、彼らの場合ツギハギといったほうがぴったりだ。
2組目が終わったところで会場を後にし、時間つぶしのためちょっとその辺りをウロウロする。前日に
Paal Nilssen-Love が言っていたレコード屋(CD屋ではない)を偶然発見。聞いていたようにロック系が中心の品揃えだけれど、エレクトロニカやポップスも混ざっている。ここにまだ出ていないと思っていた
Kornstad Trio のライブ盤("12 の2枚組) "Live At Kongsberg"
が置いてあった。持っていなければ即買いなのだけれど、しかしこれってもう出ているのだろうか?目の前で確かに売っているのだけれど。
■ Christian Wallumrød / Håvard Wiik solo piano @ Kulturkirken Jakob
Blå からそう遠くないところにある教会の中には中央にグランドピアノ、それに向けて階段状のステージが組まれている。小さい会場はあっという間にぎっしり埋まり、定刻に
Håvard Wiik が出てきた。
Håvard Wiik は、私の知る限り今年のモルデジャズフェスティバルに引き続いての今回のソロ演奏だ。普通のTシャツを着て現れた彼は、譜面を置き、ピアノに向かう。Atomic や彼自身のソロ作での、長いフレーズを滑らかに編み出す右手と、その美しいタッチが印象に残っているのだけれど、ソロで弾いている彼はトータルとしては別人のようだ。タッチは確かに彼らしい美しいもので、その音が教会に広がるのがとても心地よい。弾いている曲はジャズというよりクラシックで、印象派とかそういった感じの雰囲気だ。少し南欧的なフレーズを持つ曲も挟むが、どれも細かいフレーズを重ね、フットペダルを多用、1つ1つの音より全体の音をイメージとして捉える、そんな音楽だ。教会ということで独特の残響があり、ピアノの音はちょっと輪郭があいまいだ。それが彼の演奏のためなのか、会場のためなのかは他の演奏と比べることで後からはっきりする。Håvard Wiik は見たところ少し硬い感じで、曲と曲の間の会釈もちょっとぎこちない。
そのあまりにも心地よい美しい音にふとうつらうつらしそうになりつつ、1時間ほどの演奏は終了。なぜかお客さんは一旦外に出される。出たり入ったりしたときに、初めて昨日の The Thing のメンバー3人(つまりAtomic のオスロ組残り2人を含む)、それに Arve Henriksen が来ていることに気づいた。
再び中に入り、Christian Wallumrød が登場。てれっとした、けれどさっき見かけたときとは違い着替えて出てきた彼は最初からとてもにこやか。ピアノに向かった彼が叩き出した音は深い、鋭い音で、ゆっくりと消える残響を上手く利用したゆっくりした現代音楽風の演奏だ。その即興演奏から鮮やかに彼の最新作 "Sofienberg Variations" のフレーズが浮かび上がってくる。1曲弾き終えた彼は、立ち上がって笑顔で観客の拍手に応え、突然ピアノの中にタオルを詰め込みだした。ピアノの左半分、低音部にきっちりタオルを押し込み、その上に重しとして彼が放り込んだのが聖書で場内が受け、また会釈で応えている。全く響かなくなった低音部はゴトゴトというパーカッシブな音を出し、しばらくゴソゴソとうごめいた後、その左手のフレーズにナチュラルに(教会なので通常よりよけいに)響く右手のフレーズを合わせる。その曲が終わるとまたタオルと聖書は外され、その後は重々しい雰囲気の曲を短く挟んだり、ゆったりした即興演奏の途中にまた聞き覚えのあるアルバムからのフレーズを挟んだりととにかく見せ方が抜群に上手い。顔をまっすぐ上げてピアノを弾く彼の姿は、非常に自然体で、観客がいないかのようだ。1時間は見事な構成であっという間に終わり、大歓声、拍手、さらには教会だというのに足を踏み鳴らす大喝采に迎えられアンコールを1曲披露。観客はもう1曲、と粘ったけれど、Christian
Wallumrød は再び出てきたものの、にこやかにお辞儀をして引っ込んでしまい、さすがにこれ以上はないと諦める。
ソロ演奏ということに限って言えば、もちろん向き不向きも大きいだろうけれど、Håvard Wiik と Christian Wallumrød ではあまりにも役者が違いすぎた、そんな印象だ。Christian Wallumrød についてはカルテットでの演奏を去年も聴いたが、今回も、レコーディングからは残念ながら知ることのできない彼のパフォーマーとしての素晴らしい才能を強力に印象付けられた。彼のライブの凄さはもっと知られるべきだ。
会場には Chrisitan Wallumrød の妹 Susanna も来ていて、彼女は見てすぐにわかった(あちらも私のことを知っているらしく、目が合う)が、その横にいる人が分からない。こっちをまっすぐ見ているし、名乗らずに挨拶してきたので、ええと…とちょっと困っていたら、「日曜日は来るんだよね?」といわれてやっとそれが Helge Sten だということが分かった。初日の長髪 Trygve Seim もびっくりしたが、こちらのほとんどスキンヘッドに近い Helge Sten にはもっと驚いた。Susanna はすぐにわかったのによりによって Helge が分からないとはかなりトホホだとちょっと落ち込みつつ、Christian にも少し挨拶をする。ああ、ダルムシュタットで会ったよね!と異常なまでに正確に地名が出てきたのにはおののいたが、相変わらずおだやかな人だ。長髪で、しかもちょっと後頭部が薄くなってきた彼はなかなかの風貌なのだけれど、その人柄で怪しくはならないですんでいる。ちなみに Susanna は綺麗なブロンドの長髪のとても雰囲気のある人だった。
会場を後にし、市内中心部へ向かう。
■ Farmers Market @ Gamla
Stian Carstensen (accor, g, kaval, pedal steel, vo), Nils-Olav Johansen (g, vo), Trifon Trofonov (as), Finn Guttormsen (el-b), Jarle Vespestad (ds)
9時スタートのライブ、私が会場に着いたときには既に30分くらい過ぎていて、Stian
Carstensen が早口でまくし立てているのが聞こえている。芝居小屋みたいな小さい会場はギュウギュウ詰め、外はこの日は比較的涼しかったのに中は異様な熱気に満ち、すでに大変な盛り上がりを見せている。私が入ってすぐに会場入り口はブロックされ、入れなかったファンは入り口から覗き込むようにして見物している。
この前見たばかりだしなぁと思いつつ会場に足を運んだのは、火曜日に会った Jarle Vespestad に絶対来いと言われたからということもある。見たばかり、と思っていたのに、彼らは今目の前で、地元のファンを前に全然違うことをやっている。聴いたことのない曲も多く、ノルウェー語の歌で大爆笑をとっている。日本とはウケるところが違い、1人会場で内心「???」だったのだけれど、観客ごとバンドを見物するのも面白い。
この日の演奏はブルーグラス色は薄く、バルカン/ブルガリア風の曲、それに例によってコミカルな歌などが、目一杯盛り込まれていた。9時に始まった(はずの)ステージは、休憩もなく、次から次へと飛ばしまくり、演奏は2時間以上にも及んだ。来日公演の時よりもさらに数段速い
Stian Carstensen のアコーディオンの速弾きはもはや曲芸だ。彼はこの日、ステージ左側にペダルスティールを置いていた。まだ始めたばかりだそうだけれど、ユーモアのセンスが発揮できるこの楽器はまさに彼にうってつけのようだ。途中、左手に持ったバーのようなもの(正式な名前はわからない。ギターの左手にあたる道具)から手を離し、弦の上に置かれたバーはなぜかひとりでにする〜りと高音部へスライドしてひゅうぅぅんと勝手にフレーズを弾き、場内大ウケ。
Jarle Vespestad がマーチングバンドのようにドラムを1つぶら下げてステージ真ん中でトントコドンドンと叩いたり、観客に変拍子の手拍子を叩かせたり(あれをちゃんとこなせるノルウェー人観客を尊敬)、果てには女性シンガーをステージに上げて歌わせたりともう盛りだくさん。その中で、恐らく新曲だと紹介された(何しろ凄い剣幕の早口でまくし立てられるノルウェー語なので、まったく定かでない)のは、相変わらず理解不能な変拍子に支配された曲だった。
Jarle 以外のメンバーには突然3ヶ月前に東京で会った日本人が現れたためびっくりされてしまった。少し話をしてから、Blå
か Grand Hotel のジャムセッションかちょっと迷ったけれど、時間が11時半になっていたので近場の
Grand Hotel へ。
会場では夕方のショウケースで見そびれたスウェーデンの MusicMusicMusic というピアノトリオをホスト役に、このジャムセッション界隈で話題をまいている13歳のクラリネット奏者が演奏をしている。Trygve
Seim が恐ろしく真剣に演奏を聴いている。そのクラリネット奏者もステージを下り、Trygve
が帰ったのと入れ違いに、さっき別れたばかりの Farmers Market のメンバーが流れてきている。最初にセッションに乱入したのは
Nils-Olav Johansen。いきなり曲の途中でふらりとステージに上がり、スキャットで1曲。彼の場合やはりちょっとコミカルになってしまうので、合わせるスウェーデンの方々もちょっと笑顔がもれる。
スウェーデンのトリオが一旦下がったあと、周辺の人々が Jarle Vespestad をステージに上げろと言っている。本人は一服してからね、と外へ消え、Finn
Guttormsen と共に戻ってきた彼はビール片手にステージへ。先のスウェーデンのピアニストを残し、Farmers
Market の3人はいきなり真面目に演奏を始めた。引っ張りだされた Jarle の演奏は、さすがにセッションに参加していた他のドラマーとは格が違う(2時間以上のステージをこなし、さらに相当飲んだ後であることなんて関係なし)。非常にパワフルでシャープ、しかもジャムセッションだというのに次々にパターンを複雑に変えてくる。Finn
Guttormsen がダブルベースを弾くのは初めて見たが、印象はエレクトリックと似ていて、とてもシャープで軽快にラインを弾いていた。終盤スネアがひっくり返って落ち笑いを取ったが、Jarle
は平然とタムをスネア代わりに1曲の演奏を終え、ビールを引っつかんでさっさと引っ込んでしまった。
一番最後に Jóel Pálsson が1曲参加したが、時間が押したためスタンバイしていた
David Thor Jonsson の出番はなし。終わったのは予定通り2時15分。