2005-08-16 (tirsdag)

荷物を動かすのが面倒だからと滞在中ずっと同じホテルにしたのだけれど、朝食に飽きてどうしようもなくなってきた。何か対策を講じなければ。

観光するでもなくオスロ駅近くをうろうろし、何の匂いか判別するよりまえに足が勝手にそちらへ。匂いの発生源はインド風カフェで、タンドリーチキンを食べる。75NOK、1200円。日本ならせいぜい800円、どう考えても1000円にはならない。それはともかくちょっと新鮮味のある食べ物で満足し、ふらふらとレコードショップへ。現地で買うと課税され、高いCDがさらに高いのは承知だけれど、いつもは通販でしか買えないものが目の前にあり手が止まらず。ついでに日本で買えるようなものまで…。

一端荷物を置き、市内中心部のロック系ライブハウス John Dee へ。会場の入り口は閉まっていたが、横手の荷物を搬入するためなどの入り口が半開きになっている。5時から Supersilent がサウンドチェック中。私が見ていた6時前後の段階ではまだまだセッティングの段階。ステージ中央に透明のドラムセットが組みあがっていて、なぜかそれが完了してからステージ奥のもう1つのドラムセットを組む。ステージ上は機材だらけでセッティングも時間がかかりそうだ。メンバーやサウンドエンジニアの Audun Strype と、凄いセットだね、などと話をする。何でもこの前のライブではこれらに加えてハモンドオルガンまで入れたとか。

6時半近くになって機材が組みあがってきたらサウンドチェックというよりセッションになってきて、このままずっと見ていたいと思ったがやっとの思いでその場を離れる。

Solveig Slettahjell @ Scene West Victoria / Oslo Jazzfestival, 18:30
w/ Solveig Slettahjell (vo), Sjur Miljeteig (tp), Morten Qvenild (p, electronics, auto harp), Mats Eilertsen (b), Per Oddvar Johansen (ds, electronics)

この会場が今回のフェスでも筆頭のチケットの売れ行きだと知っていたのに、ついついギリギリに着いてしまい、既に会場はギュウギュウ、会場の外には当日券(通し券やパス類で入る人の加減をみて当日券が発行されるようだ)を求める人の長い列。観客の年齢層は結構高め。

クラシックな劇場のような造りの会場が暗転し、フェスティバルの関係者の短い挨拶の後、ステージ右奥の階段からメンバーが降りてくる。ステージは意外なことにエレクトロニクスの音で始まった。Morten Qvenild が Susanna and the Magical Orchestra で使っていたのと同じような機材をピアノの脇と上に置いている。もう1人、私のところからは Solveig Slettahjell のちょうどうしろになり手元はよく見えなかったが、ドラムの Per Oddvar Johansen も打ち込みのビートやエレクトロニクスを多用している。

Solveig Slettahjell をライブで聴くのは初めてだけれど、アルバムとは全く印象が異なると言っていいほどのインパクトを受けた。特に変わった歌い方をするわけでもなく、ごく普通に歌っているが、その声の艶や声量には本当に驚いた。これを普通のオーソドックスなバッキングではなく、全くフリージャズとしか言いようのない演奏に載せるのだから面白い。ドラムとベースは相当ズタズタなリズムを刻む。この2人の上手さが半端ではない。そこにねじれたピアノがのっかる。唯一トランペットだけが静かに歌に添っているが、ライブで見るととんでもない楽器隊だ。Slow Motion Quintet という名前がついているが、確かに速くはないがそんな穏やかなものではない。逆に言えば、この演奏に奇声を発するでもなく非常にまっとうな歌を載せるのが変わっているとも言えるが。

白いパンツスーツを着た Solveig Slettahjell はふくよかというよりかなり大柄だが、とてもチャーミングなステージングですっかり魅了された。昨年から今年にかけて、彼女がノルウェー国内のジャズ関係の賞を総ナメにしているのがよく分かる見事なステージだった。大喝采に迎えられ(尚、後で聞いた話によると、このユニットではソロの後に歓声が上がったりするのは珍しいそうだ)、アンコールを2度 −2度目が本当のアンコール−を披露した。


ほんの少し短めの1セットで終了(Mats Eilertsen が10時から別の会場で演奏することになっていたため、そんなに長くはならないだろうとは予測できた)、その後立ち話をし(Morten Qvenild は私が来ていることを知らなかったそうで、後ろから声をかけたらウッ…と本気でびっくりしたのがおかしかった)、ちょっとウロウロした後珍しく夕食らしきものをとる。キッシュに大盛のサラダを載せたようなもの 98NOK (1568円)。ノルウェーの料理は少々塩辛い気がするのだけれど、多分私の味覚が薄味だからというだけではないだろう。やっぱり寒いところの人は塩分をたくさん摂るのだろうか。

Supersilent @ John Dee / Oslo Jazzfestival, 22:00
w/ Helge Sten (electronics, g), Arve Henriksen (tp, voice, electronics, ds), Ståle Storløkken (key, syn), Jarle Vespestad (ds)

私はいつも時間ギリギリもしくは少々遅れ気味で会場に入るが(単に開演を待つのが物凄く苦手だからなので、これはノルウェーでも日本でも変わらない)、連れがあったため私にしては異例の20分前に会場に到着。会場にいる観客はジャスフェスティバルというより、この前の土曜日に Kill を見た時と何となく似た感じの雰囲気の人が多い。

少しずつ観客が前のほうに陣取り始めたころに会場が暗くなり、メンバーが登場。Arve Henriksen のトランペットで始まった最初のセッション、そしてこの日全体的にもパーカッシブな音使いが目立った。Jarle Vespestad はもちろん、このステージでは Arve Henriksen までドラムをかなり叩き、Helge Sten もドラムパッドのようなものを使用、そして Ståle Storoløkken はもともとかなりパーカッシブな音使いをする。昨年のちょうど同じ日にオスロでDVD用に収録されたコンサートでもかなりリズムを強調する曲があったが、それとは全く異なるビートだ。

4人の打ち出すビートが少しずつずれ、重なるうちに珍しいことが起こった。ロックバンドのキメのフレーズみたいな強いダンダン!という音を4人が全く同じように叩き始める。このバンドはそこからの駆け引きが見ているのも恐ろしい。Supersilent 以外のバンドだったらここでチラッと視線を合わせてバン!と最後の音を切り格好よく終わるところだろうが、彼らはそれを拒否する(それをやってしまったらある意味このバンドではない)。1度目は Jarle Vepestad が叩いていたのをするっとシンバルからタムに切り替え、あるところで少しビートをずらし始め、次に Helge Sten のビートが解け、曲はぐるりと展開した。ところが長い長いセッションとなったその曲で終盤もう1度似たようなことが起こった。やっぱり目は合わせない。この時は他の3人が全力でビートを叩いているところから Ståle Storløkken が抜け、キュイーンと全然関係ない音を立て始め、そうこうしているうちに再び曲は全く違う場面に移り変わっていった。

この日恐らく注目されたのは Arve Henriksen のドラムセットだろう。やや小ぶりとはいえフル装備で、ステージ右を向いてセットされている。マレットやスティックなども結構持ち込んでおり、この日は2セッション目からかなりドラムを叩いていた(叩いていなくても、バスドラを蹴っていたりする)。そうでなくてもトランペット、エレクトロニクス、そしてボーカル(もしくは絶叫)と忙しいが、彼が後ろの Jarle Vespestad と全く別の音楽でもやっているかと思うほど違う部分で音を出すのが新鮮だった。

この日は Helge Sten がギターを持ってきていたが、楽器がネックと小さいボディーしかないもので、明らかに "6" とは違う使い方なのだろうと想像していた。ギターは結構早めに登場したが、持ち上げて膝の上に左右逆に置いたのには驚いた。そのギターはスティールギターのようにボトルネックを使用して弾かれ、高音から急に低音部に落としたりとかなり面白い効果を上げていた。

私が Supersilent を見るのはこれが3回目だが、この日が一番「楽しめる」演奏だったように思う。それから、非常に肉体的でエモーショナルだとも感じられた。蛍光灯のような照明をビカビカさせたりという演出は意外な気がしないでもなかったが、Arve Henriksen のMC もこれまでの2回はメンバーの名前をぼそぼそっと言うだけだったのに、今回は比較的普通に DVD が出ます、なんていう話をしている。1曲が終わった時のメンバーのふうっと息をつく様子も印象的だったが、この日は4人ともかなりリラックスしていたのかもしれない。

アグレッシブな曲でセットは終わり、アンコールでは静かなフレーズが奏でられる。少なくとも最初は Arve Henriksen と Ståle Storløkken のデュオ、そこに Helge Sten が静かな音を加えたり、Jarle Vepestad がブラシでわずかに参加したりしていたが、気がついたら別の曲かと思うほど大きな音になっていた。

その演奏が終わった後も観客は諦めない。拍手に加え、歓声があがり、足を踏み鳴らす音が響いたが、しばらく躊躇するように時間が過ぎた後、BGM が流れ始める。

Atomic もそうだったが、3度目くらいになるとようやく客観的にライブが鑑賞できるようになるのだろうなどと思いつつ、やはりこのバンドは私にとって特別な存在だと改めて思った。


終演後は、メンバーと会ったり、立ち話をしたりする。このところ毎日見かけるなんて人もいたりするが、この日会った特筆すべき人は3人。フルート奏者の Patrik Shaw Iversen はなかなか貫禄のあるエキゾチックな人。もう1人は Susanna Wallumrød のすぐ上のお兄さんでロックバンド Span のドラマー Frederik。Susanna ではなくその上のお兄さん Christian にあまりにそっくり。そしてアメリカのジャズ雑誌の記者の方で、ノルウェージャズがとても好きだという方。私は記憶にないが、この方は去年もオスロ・ジャズフェスティバルに来られており、その時に私を見かけたとのこと。ジャズ雑誌の方だというのにロックやポップスまで実に守備範囲が広いのにも驚いた。アメリカにもプロフェッショナルな方法で音楽を伝えようとしているこういう人がいるのだ。

その後1時頃 Blå と Grand Hotel 内のジャムセッションを除くもどちらもお開きになっていた(ジャムセッションについては後日それがウソだったことが分かるのだけれど)。今年は夜が短いのか。

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