2005-08-17 (onsdag)

ホテルの朝食には4種類程のパンが出ていた(というと豪華に聞こえるが、実際はどれも大して変わらない)が、飽きてきたのでミュズリにする。ケフィアというヨーグルトみたいなものがあったのでそれをかけてみた。悪くはないけれど、やっぱり飽きそうだ。部屋に戻り、数日前にコンビにで買って冷蔵庫に入れておいたスウェーデン製のジュースを飲むことにする。有名なメーカーのもので、オレンジ/パイナップル/グァバの100%果汁、濃縮還元ではなさそうだ。思い切り振ってから、プラスチック製のボトルがぽんぽんに膨れていることに気づく。賞味期限は17日。恐る恐るあけてみたら案の定炭酸飲料を振った時のように勢いよく中身が…。それでもこわごわ少しなめてみたら、果物本来のものではないビリビリとした味がする。どうやら中で発酵したらしい。以前から思っていたが、外国(私の知る範囲のことなのでヨーロッパ限定)の「賞味期限」、英語でいう "best before" は日本の「賞味期限」とは異なる。日本のは「この日まではおいしく食べられますよ」という期限で少々過ぎても大丈夫だが、外国のは「この日を過ぎるとかなりヤバいですよ」という感じだ。牛乳は賞味期限内でも平気で(?)チーズみたいになるし、ジュースも爆発するのだ。


昼過ぎにタクシーで Jazzland のオフィスへ。連れて行ってもらった、というか便乗しただけなのでどこに向かったか全然分からないまま不思議な建物群の中へタクシーは入っていく。倉庫ともビルとも異なる無愛想な建物、せいぜい3〜5階くらいしかない低めの建物がたくさん並んでいるが、それが日本人的感覚からすると不規則に並んでいるように感じられる。指定された建物の入り口には確かに "Jazzland Recordings / Bugges Room" と書かれている。

Jazzland の実務上のオーナー Sten Nilsen が階段の上から顔を出し、迎えてくれる。やや小柄なごく普通のノルウェー人で、年は Bugge Wesseltoft より上だろうか。部屋に入ると Bugge もいる。去年のオスロ・ジャズフェスティバルで、しかも大混雑の暗がりの Blå での LCD Soundsystem のライブの時に会ったが覚えてくれているらしい。大きな台所のようなところがミュージシャンや関係者のリビングのように使われていて、その奥がスタジオになっている。ガラスのドアは閉まっていて、あちらに Eivind Aarset がいるのが見える。聞こえてくる音楽のうち、トランペットの音に頭が無意識のうちに反応し、目がその主を探し始め、いきなりガラスのドアにはりついて中を覗き込むがその主の姿は見えない。

ドアが開いて、このユニットのリーダーがにこやかに「噛み付かないから入っていいよ!」とスタジオに入れてくれ、もう一度ぐるりと見渡した時に探していた音の主 Arve Henriksen を発見。彼とは昨日の昼と夜遅くに会って話をしているが、その帰り際にとんでもないことを言い出したためこの日の2時半にオスロ市内の別の場所で会うことになっていた。なのに1時にこんな場所で会うとはと驚いたが、多分あちらのほうがずっと驚いただろう。もう1人、Eivind Arset もとても驚いたに違いない。最初に会ったのはちょうど3年前に Nils Petter Molvær と東京に来た時、次が2003年2月にリレハンメルのホテルでばったりだから。

レコーディングをしていたのはウード奏者/ボーカリスト Dhaffer Youssef のグループで、ご本人はとても陽気な人、バケーションかなにかから戻ってきて久しぶりだという Bugge とじゃれている。朝10時からのレコーディングだったそうで、私が行った時にはベースとドラム(恐らく Audun Erlien と Rune Arnesen だと思う)は不在で、レコーディングしたマテリアルを聴き返したりしていた。

真ん中のキッチン、いやリビングに座り、Sten や Bugge と話をする。レーベルの話からフェスの話まで様々。タクシーで来たから一体どこにいるのか分からない、と言うと、Bugge はおいで、といって部屋の外の階段の窓から外を見ながら説明してくれる。あそこに小さい川が見えるだろう?あそこから左(上流)へ5分歩くと Jan Erik のスタジオ(つまり Rainbow Studio)、右(下流)へ5分歩くと Blå だよ、と。

2時半近くなって Arve Henriksen だけがバタバタと荷物をまとめ始める。場所はわかるよね?急ぐことはないから、じゃあまた後でねと言い残しあたふたとスタジオを去る。それから程なくして私(たち)もスタジオを後にし、教えてもらったように Grünerløkka を歩いてオスロ中心部へ下る。ノルウェー人の言う「歩いて5分」は決してアテにしてはいけない。大体8分〜10分とみなければならない。途中、Blå を通りすぎるとクラブの外のバーに Jaga Jazzist のメンバーなどが既に集っている。その後3時過ぎに Youngstorget という街の中心部にある広場にある高い建物の最上階の Stratos という会場へ。

エレベーターで一番上の階まで上がり、そこから螺旋階段を上がる途中で音が聞こえてくる。The Source & Cikada String Quartet feat. Arve Henriksen のリハーサル中。ミュージシャンは皆ステージで真剣に打ち合わせをしているので、一番後ろのミキシングボードのところにいたエンジニアの Asle Karstad に声をかける。2年前にリレハンメルでの Jon Balke のコンサートで会ったんだけれど…というと、ああ、Batagraf の時だね、あの時のことをサイトに何か書いてたよねとの返事。

ステージからは聞き覚えのある音楽が流れては止まり、しばしあれこれ言葉が行き交った後再び音楽が流れる。Stratos にはテラスがあり、そこへ出たりしながらゆっくりとリハーサル見物。リハーサルは一番最後に聞いたことのない曲をしっかり仕上げて5時前に終了。Arve Henriksen はちゃんと私のことを気遣ってくれた後、またもやあたふたと荷物をまとめて真っ先に会場を後に(なんでも昨日知り合ったアメリカ人ジャーナリスト氏のインタビューが5時に入っていたそう)。Cikada String Quartet のヴィオラ以外の3人は兄弟、演奏をしているのを見ている限りではそれぞれに個性があるから区別がつかないというほどではないが、楽器を持っていないと顔のパーツが同じなので誰が誰だかさっぱり。Per Oddvar Johansen は開口一番「随分久しぶりだねぇ」…2年半でそう言われると困るが、前日の Solveig Slettahjell のコンサートの話などをする。Trygve Seim がゲストリストを持ってこっちへ来る。この日の会議のためのコンサートは基本的に出席者のためのものだけれど、ゲストリストが許可されているから入れておくね、と。つまり正攻法ではこのコンサートは見れないというわけだ。それにしても Per Oddvar も Trygve も大柄なのはもともとだけれど、今や2人ともブロンドの長髪+髭でなかなかの見かけだ。

ホテルの近くまで戻り、前から気になっていたレストランへ。当たり前のように高いので迷う余地があるようでないが、タラ料理を注文。タラにクリームソースがかかったもの、じゃがいもやサラダの付け合せ、パンなどで 175NOK (2800円)。もはや値段に関しては麻痺状態、とりあえず「水」が無料で出てくることがわかったので最近は料理+水。魚料理の味はこれまでノルウェーで食べたものの中ではかなりいけるほうだ。

ホテルに戻り、1枚多く着て再び外出。

Ivar Kleive / Knut Reiersrud @ Oslo Domkirke / Oslo Jazzfestival, 19:30
w/ Ivar Kleive (org), Knut Reiersrud (g)

いつものように時間ちょうどに会場に入るとすでにぎっしり人で埋まっている。交通整理のようにあのへんにまだ席が空いているから、と人をさばいていくフェスの係の人に従いサイドの一番奥の席へ。観客の層は幅広いが、いつも行く Blå などとは明らかに違った客層だ。

私の場所からは教会のオルガンを弾く Ivar Kleive は終始全く見えず、ギタリストの Knut Reiersrud の姿がかろうじて確認できる程度。パイプオルガンをバックにギターが流れるプログレ風の最初の2曲ほどはあまりにまったりしていて、ここちよく睡魔に襲われたりしたが、その後は大音響ブルースロックに変わり、いきなり目が覚める。1時間半ほどの休憩なしのプログラムはかなりバラエティーに富んでいたが、長年共演している相手とあって息の合い方も抜群で、多くの人が彼らの音楽を知っていることも観客の反応からよく分かる。

演奏をしているミュージシャンが見えないので、教会の天井や壁の絵画などをゆっくり眺める。教会の中は底冷えするのではないかという予想に反し快適だ(ということは暖房が入っていたのかもしれない)。一番最後の演奏が終わって、どこからか Ivar Kleive がステージ(もしくは祭壇)に登場、満場の喝采でコンサートは終わった。コンサートが終わってからステージを覗き、5本もギターを使っていたことを知る。やはりコンサートは少しは見えるところで鑑賞しなければ。


あまりにたくさんの人が入っていたため、会場から外へ出るのも時間がかかる。次の会場へ行くには時間があったので Karl Johansgate などをうろうろしていたら、大聖堂の方向から Knut Reiersrud が歩いてくる。手ぶらで1人で歩いてくる彼は普通のおじさんだ。

9時半を過ぎた頃に Youngstorget へ。ただし頭の中ではこの日の Blå のライブへ行けないことで一杯。時間的にはサポートアクトくらいは見れたけれど、それだけ見て誰にも見つかることなく脱出するのは不可能だし…。

全ては後から知ったことだけれど、オスロでは8月14日〜18日の間、"World Library and Information Congress" というのが開催されている。いろいろなプログラムが組まれていて(中には「図書館ツアー」なんてのも)、その中の文化活動の1つがノルウェーの作家との討論会に Trygve Seim のそれぞれ異なるセッションが付いたもの。この特別プログラムは14日〜18日の4日連続で行われていて、この日が最終日。初日は『ソフィーの世界』で知られる Jostein Gaarder とのディスカッションと Trygve Seim Orchestra の演奏があったそうで、もっと早く知っていたらと悔やまれる。

会場は40代〜50代のそこそこインテリっぽい女性で埋まっている。あまりに皆似た雰囲気なので気持ち悪い(失礼)くらいだ。1つ下のフロアに行って、再び上へ上がろうとしたところで Arve Henriksen と遭遇、しばし立ち話。昨日もこの日の昼もバタバタと忙しく(私ではなく Arve が)、まともに話をしたのはこれが始めて。

彼がバックステージに引っ込むのと階上でプログラムが始まるのがほとんど同時で、ごそごそと確保した自分の席にもぐりこむ。横の方には「いや、私は実は図書館とは関係ないんですよ」と言ったけれど分かってもらえてるのだかどうか。国際的なプログラムなので進行は全て英語。この日は Linn Ullmann という若い女性作家と Lars Fr. H. Svendsen という哲学者でもある方を迎えての朗読会+司会役の女性とのディスカッション。最初こそ真面目に聞いていたが、さすがにだんだん飽きてくる。周りの女性たちを見てみると、真面目に聞いている人もいるけれど、聞いていない人も多々…。

10時くらいに始まったディスカッションは1時間弱で終わる。

The Source & Cikada String Quartet feat. Arve Henriksen
@ Stratos / World Library and Information Congress, 22:30
w/ Trygve Seim (ts, ss), Øyvind Brække (tb), Per Oddvar Johansen (ds), Arve Henriksen (tp), Henrik Hannisdal (vln), Odd Hannisdal (vln), Marek Konstantynowicz (vla), Morten Hannisdal (cel)

ステージにはまず Cikada String Quartet と Arve Henriksen が登場。少しフォーマルな格好をしたメンバーもいればTシャツの人もおり、見かけはバラバラ。Arve Henriksen は、中はTシャツながら上下スーツを着込んでいる(火曜日の Supersilent の時もそうだった)が、足元は真っ赤なスニーカー(!)。ゆったり流れるようなストリングスに乗り、Arve Henriksen のトランペットが流れる。私のようにこの音が好きな人にとっては夢のような共演だが、図書館員さんたちはあまり興味がないようで、席を立つ人、後ろのほうのバーでおしゃべりに興じる人と場の状態はあまりよくない。

やがてThe Source の3人、Trygve Seim、Øyvind Brække、Per Oddvar Johansen が加わる。演奏される曲は "The Source and Different Cikadas" (2002; ECM) からのものがほとんど。もう何度となく聴いたあのアルバムの曲が、ほとんどそのままのアレンジで披露される。アルバムはジャズ/即興演奏と現代音楽をブレンドしたもので、この日のライブでもドラムの Per Oddvar Johansen 以外は皆譜面を見ている。けれどステージではかっちり構成された中に、穏やかなインプロヴィゼーションが挟まれており、視覚的にもそれは確認できる。Cikada は現代音楽グループだけれど、こういった演奏も柔軟にこなすミュージシャンの集合なのだ。

ステージ半ばで、音楽に集中していない観客が多いことを受けてか否か、Arve Henriksen の「パフォーマンス」が登場する。ある曲の終盤でいつものようにトランペットをマイク代わりに言葉にならない言葉でなにやら叫んでいた彼はそのマイクを掴み、突然英語で「僕の本を取らないで〜!」と歌いだした。突然の理解可能な言葉に観客は皆一斉にステージに注目。さらに「僕はたくさん本を持っているけれど僕の本を取らないで〜!」と何度か繰り返したところで演奏のほうが終わってしまい、突然静寂が訪れてしまう。そこで彼は「おおおぉサイレンス〜♪」と締めてみせ、場内の爆笑を喝采を呼んだ。図書館員の会議に相応しいユーモア溢れるパフォーマンスに、それまでステージと観客の間にあった違和感が少し緩む。

その後も、高めの椅子に座っていた Arve Henriksen は椅子から降り、隣の名手 Morten Hannisdal のチェロのボディーを叩いたりする。パーカッションのように音を出した後は、Morten Hannisdal の腕をなでる。演奏しているのに腕を(しかも男の人に)撫でられ続け、最初は知らない振りをしていた Morten Hannisdal も、Arve Henriksen の即興を受けるように嫌がるそぶりを見せ、観客のくすくす笑いを呼ぶ。

Arve Henriksen のパフォーマンスは演奏の面でもさすがに際立ち(私が彼の大ファンであるということを差し引いても恐らくそうだと言える)、「ベースの代わりとしてのパフォーマンス」も面白かった。彼がこの The Source / Cikada のコラボレーションに加わったのは Ingebrigt Håker Flaten の脱退後、ベース不在を受けてのことで、この日も終盤、エフェクターを通して低いオーケストレーションをトランペットで表現する曲はハイライトの1つになった。

意外にもかなりジャズ的な要素 − 即興やグルーブ − が目立ったステージは、トロンボニストの Øyvind Brække がテンポのいい演奏に載せ、ノルウェー語の詩を朗読する新しいマテリアルで締めくくられた。


終了したのは夜中の12時。演奏が終わったあと、メンバーやエンジニアの Asle Karstad と少し話をする。Asle Karstad は2月に Terje Isungset / Unni Løvlid のさっぽろ雪祭り出演のため来日しており、演奏の話はそっちのけでどんなにおいしい物を食べたか事細かに説明してくれる。私は北海道には行ったことがなく、その公演も遠くて行けなくて…と言うと、ノルウェーは遠くなくて札幌は遠いの?と鋭いツッコミ。それから彼は昨日の Solveig Slettahjell でもエンジニアを務めており、彼女の素晴らしいパフォーマンスのことについても話をした。「彼女は世界中で知られるようになるべきだ」と話す彼の言葉に同意しつつ、それにはアルバムはもとよりライブを知ってもらう必要もあると思ったりした。

Arve Henriksen は他のメンバーより先に退散。朝10時からのレコーディングは明日もあるそうだ。彼が住んでいるのはオスロではなく、市内に宿をとり、このヘビースケジュールをこなしている。「明日のレコーディングの後は久しぶりに家に帰ってゆっくりするぞー!」(ただしその後の「芝刈りするんだ」との言葉にややワーカホリックな印象を受けたが)と言う彼はさすがに疲れた表情も見せるが、私の宿泊先を聞き、同じ方向だからタクシーに乗っけてってあげるよ、といつもながら自分が一番忙しいのに細やかな気遣いをしてくれる。

歩いてもしれているその距離はタクシーだと本当にあっという間、いろいろな約束をしてホテルの前で降ろしてもらう。

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