2005-08-20 (fredag)

昨日、正確には早朝の飲食により、朝食は既に不要。10時前後に立て続けに携帯に連絡が入る。11泊のうち残すところ1泊となり、自分の部屋のようにあちこちに散らばっている荷物をまとめる。トナカイ2頭がかさばる。

昼の1時に Christian Wallumrød と大聖堂の前で待ち合わせ。大聖堂脇にはカフェがあるが、蚤の市のようなものが出ていて大変な賑わい、カフェどころではない混雑ぶり。少し街のほうに出て、イタリアン・カフェに移動。コーヒーとアイスクリームがおいしいという言葉に従い、コーヒーとレモンのアイスを注文。そこへ遅れて Tanja Orning も到着。月曜日にも会っているが、私がいるうちにもう一度会えたら、ということで、街を眺め、おいしいコーヒーを飲みつつ、いろいろな話をする。ノルウェーまで来てたくさんのライブに走り回るそのエネルギーは一体どこから?と驚くので、そりゃぁ、大好きな音楽を生で聴けるのは1年でたったの10日間だからね、と答える。次に来る時はまた彼のライブを見たいと思う。今年はゆっくり話が出来て、それはそれでとてもよかったけれど。

2人(厳密には3人)と別れた後、本屋へ行き、買おうと思っていたものを買う。カメラバッグの中へ押し込んでみる。一端荷物を置きに戻ろうかと思っているところへ連絡が入る。時間がないのでそのまま直行。

Cafe Mono って分かる?とメッセージが来たのだけれど、場所がわからなかったため、月曜日と同じところで Susanna WallumrødHelge Sten に合う。何か食べる?というので、少しくらいなら、ということでパレスチナ料理の店へ。

レストランというよりカフェで、店内は暗く、パレスチナ料理のメニューはわけがわからない。任せる、と言ったら、何かを3人分頼んでいる。ウェイトレスのお姉さんが厨房とテーブルを3往復もして運んできたのは、小皿料理とでもいうようなもので、テーブルはその小皿で一杯になり、皿と皿の上にさらに皿を乗せる状態。一応大雑把に一皿ずつ何が入っているか説明してくれるが、大量の皿を前に途方に暮れる。パンやフォークを持って適当に好きなものをつつけばいいらしいので、手元にあるものから少しずつ食べてみる。ちょうどギリシア料理よりもう少し東方の雰囲気で、ヨーグルトを使ったソースや、オリーブなどが多く使われている。暗いのでなんだか色もよく見えないし、時折辛い皿にあたったり、どちらが鶏でどちらが羊だったかという感じだけれど、なかなかおいしい。

ひとしきり食べた後はバーに移動。最初は音響/ノイズ系の音楽がかかっていて、さすが…と思ったりしたのだけれど、その後は Beach Boys のオンパレードで笑えてくる。こちらの飲み物もよくわからないのでお任せする。結構強そうなカクテルを飲みながら話をする。Helge Sten と知り合ってもうかなりになるし、何度となく会っているが、やはりコンサートの後とかでなくゆっくり話をするのはいいものだ。突然、Helge が Susanna と私を携帯のデジカメで撮ってバケーションに行っている Morten Qvenild に送りつけようと発案、それはすぐに実行に移された。

時間は過ぎ、2人と別れる時が来る。タクシーのりばまで送ってくれ、乗り込んだ後ふと後ろを振り返ると2人がまだこちらを見ているのが見えた。私が振り返ったのは見えなかったはずだけれど。

タクシーで乗りつけたのはオスロ学生フェスティバル、シンガーソングライター Thomas Dybdahl の公演会場。学生フェスティバルと言っても普通にチケットが買え、誰でも見に行くことが出来るし、会場も1000人収容の大きなものだ。会場には9時少し前に着いた。事前の告知では9時となっていたのであまり深く考えずに来たのだけれど、会場に入ってすぐに「コンサートは10時から」と張り紙がしてあるのに気づいた。どうしよう?てっきり9時から始まるものだと思って、10時から始まるジャズフェスティバルのライブとハシゴをしようとしていたのに。両方10時スタート、両会場はかなり離れているから、ハシゴするとロスが大きい。どちらを諦めるかは簡単に決まり、着いたばかりの会場を後にする。

乗り方が分からないと思っていた地下鉄に乗る。切符の買い方と乗り方はドイツなどと同じだったため簡単にクリア。そういえば4年前に一度乗ったことがあるのを思い出した。しかしオスロ市内共通20NOK (320円)とはまた高い…。オスロ市内中心部まで地下鉄で移動、宿泊先に一端戻り、最後のコンサートへ。

Maria Kannegaard Trio @ Herr Nilsen / Oslo Jazzfestival, 22:00
w/ Maria Kannegaard (p), Ole Morten Vågan (b), Thomas Strønen (ds)

昨日会った Ingebrigt Håker Flaten が、明日は何を見に行くの?と訊いてきたので Thomas Dybdahl と Maria Kannegaard だと言ったら、いい締めだね、と言っていた。去年のフェスティバルではちょっと覗いただけだった Herr Nilsen だけれど、私にしては早めに着いたので、初めて中のほうで見ることに。開演前に Thomas Strønen と少し話をする。彼の「バケーション行ってきましたっ!」という感じの日焼け具合に驚く。彼と話さなければならないことはたくさんあるが、コンサートの後にする。

Herr Nilsen は狭い。ステージも客席も狭い。「く」の字型のちょうど曲がり角のところにステージがあり、左にピアノ、真ん中にベース、右にドラム。新作 "Quiet Joy" の1曲目 "How Come?" でステージは始まったが、しばらくその曲かどうかわからないアレンジが加えられていた。

ステージ上の3人のうち、初めて見るのはリーダーの Maria Kannegaard のみ。ショートヘアのブロンドに赤い服が鮮やかだが、メガネをかけてピアノに向かう様はさしずめオフィスでコンピュターに向かう事務員といった風情。体を動かすこともほとんどなく、黙々とピアノを叩く。ジャズピアニストでこんな人は初めてだ。時折他の2人と目を合わせて表情を緩めるが、すぐに元に戻る。ただわずかに左足だけがリズムを捉えて床を軽く叩いている、そこだけがかろうじてジャズ的だ。

中央の Ole Morten Vågan は大らかな音と、その音と共通するキャラクターの持ち主、楽器同様体もでかい。曲が終わればメガネを外してタオルでごしごし顔を拭き、メガネをかけなおしてふうっと一息、ただそれだけなのになんとなくほのぼのした雰囲気をかもし出す。Maria Kannegaard の音楽は、ピアノとベースのほんわずかなズレによる揺れを伴うユニゾンの音がとても印象的だが、ライブでもその音は再現された。その「揺れ」がこの音楽の色彩感となっている。

Thomas Strønen は、つい4ヶ月前に見た東京でのソロ公演の静かな演奏がまだ頭に残っていたので、大きな音で「ジャズドラム」を叩く彼の姿に一瞬びっくりしたりもした。びっくりした理由は他にもあり、オスロに来る1ヶ月ほど前に猛烈に繰り返して聴いた彼の ECM デビュー作 "Parish" の印象からかなり離れた演奏だったからだ。しかし彼のこういうとてもジャズらしいドラミングもいい。ヒネリの効いたフレージングは、確かに彼らしいものだ。

ステージは2セットと言うものの、どちらのセットもかなりコンパクトでテンポよく、12時前には終了した。結構見た目もアクティブなリズムセクションに、真面目なピアノの取り合わせでなかなかユニークなトリオだ。Mats Eilertsen から Ole Morten Vågan へのベーシストの交代はかなり大きいが、今のトリオのほうが「面白い」のではないかと思う。

終了後は Thomas Strønen、Ole Morten Vågan、それにセカンドセットから入り口付近に飛び込んできた(例によって帽子を被っていたので分かりやすい) Håvard Wiik と話をする。Thomas Strønen には Parish の新作のライナーノートを書くのに協力してもらったお礼を言わなければならない。でも、メールの返信をくれたのは締め切りの半日前だったんだよ、と付け加えておく。他にはソロプロジェクト Pohlitz のアルバムの話、東京公演で共演した巻上公一と、今度は11月の Ultima Festival で共演することになったことなどを聞く。

Ole Morten が「この Herr Nilsen には来たことある?」と訊いてくる。あるよ、オスロで初めてライブを見たのがここで、ちょうど Thomas が出ててね…4年前のことだけど、と言ったら驚いていた。Thomas が、Petter Wettre だったっけ?というので、そう、ピアノが(そこにいる) Håvard、ベースが Eivind Opsvik でね、と言ったら、いや覚えてないなぁとのこと。4年前のライブは何ら特別なものではなく、ごく日常的なセッションだったから、出ていた本人が覚えていなくても当然だ。でも偶然そのライブを見た私にとってはとても大きなものだったのは間違いない。あの時はどのメンバーも名前は知っていたし、幾らかは音楽も知っていたが、今はもうちょっときちんと彼らの音楽を知っている(つもりだ)。彼らがどんなミュージシャンか、どんなライブをするのかを早い段階で知ることが出来たのはとても大きい。そして今やみんな知り合いになり、メールのやり取りをし、ライブのあとに立ち話をするようになった。ミュージシャン達も Petter Wettre はその時点で既にリーダー作があったが、この4年で他の3人も皆リーダー作を出すようになった。何も変わらないように見えて、確実に時間は過ぎているという当たり前のことを再確認する。

Håvard Wiik がジャムセッションに行く(彼の言う「行く」は演奏しにいくのではなく、「喋りに行く」ノリだ)というので、後で追いかけることにし、Thomas ともう一度ことばを交わしてから Herr Nilsen を後にする。Grand Hotel はすぐそこだ。

Grand Hotel のジャムセッション会場は昨日ほどの賑わいはない。例のアメリカ人ジャーナリスト氏に、Thomas Dybdahl のライブの様子を聞くなど最終の情報交換。

ステージには今日はヴァイオリンを持った Ola Kvernberg とジャムセッションの常連ギタリスト Bjørn Vidar Solli が上がっている。曲の半ばでスキャット合戦になる。仕掛けたのは Ola Kvernberg。昨日のピアノといい、器用な人だなぁと見ていると、ステージ右の Bjørn Vidar Solli が受けて立ち、Ola Kvernberg よりはるかに上手いスキャットを聞かせる。勝ち目のなさそうな Ola Kvernberg は笑いを取るほうに走り、Bjørn Vidar Solli はジューズ・ハープの音色までやってのけ、ますますリードを広げる。ギタリストが自身のギターに合わせてスキャットをしたのを見て取るや、ヴァイオリニストまでヴァイオリンを弾きながらスキャットをする。ジャムセッションならではのやり取りだ。

会場も盛り上がったが、2時になり突然制止がかかり、音楽は終了してしまう。そこへ Ole Morten Vågan を含む Motif のメンバーなどがぞろぞろと Herr Nilsen から流れてくる。…遅い!ジャムセッションが終わってもまだまだ人がいる。朝のフライトで帰国するアメリカ人ジャーナリスト氏と私は今日は寝ないぞ宣言をし、周りの人を巻き込む。

一連のミュージシャン達がぞろぞろと移動を始める。帰るの?と聞いたら、平然と Herr Nilsen に戻ると言うのでさすがに驚いた。しばらく話をした後、私たちもその辺の人々と連れ立って Herr Nilsen に移動。しかし少し移動したのが遅かったらしく、Herr Nilsen では3時までしかオーダーできないことになっているという。カウンターには誰かがラストオーダーの時に大量に頼んだビールのグラスが並んでいて、分けてもらって飲んでいる人もいる。

驚いたことにそれから後、どやどやと大勢の人がどこからか流れてきて、深夜の Herr Nilsen は飲み物もないのにライブ前のような大賑わい。ちらちらと知った顔がいたから、多分皆ミュージシャンや音楽関係の人だろう。

3時半を過ぎたところで、「同志」アメリカ人ジャーナリスト氏と最後の別れをし、いつかどこかで再会する約束をして、お互いに眠り込まないようにねと言い、ミュージシャンで賑わう早朝のジャズクラブを後にする。

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