(pickup 2002 vol 6 : 15 May 2002)

Kyanos


Phanai
Zygotos
Mutatio
Ganglion
Katabolic
In vitro
Plica
Nano
Karyon
Kyanos
Apsis


Per Jørgensen : trumpet, vocal
Morten Halle : saxophones, flute
Arve Henriksen : trumpet
Svante Henryson : violoncello
Jon Balke : piano, keyboards
Anders Jormin : double-bass
Audun Kleive : drums, percussion


All Composition by Jon Balke, except "Apsis" by Svante Henryson

Recorded in November 2001
Rainbow Studio, Oslo
Engineer: Jan Erik Kongshaug
Video Stills: Audun Aagre
Cober Photo and Design: Sascha Kleis
Produced by Jon Balke and Manfred Eicher

2002; ECM 1822


listen!
Jon Balke
& Magnetic North Orchestra
"Kyanos"



"Jazznytt" というノルウェーのジャズ誌には国外のメディアで扱われた自国のミュージシャンの記事を紹介する欄がある。最近の号で Trygve Seim の "Different Rivers" (2000; ECM) のアメリカでの評がひとつ紹介されていてそれが「とにかく、最初から最後までこのCDでは何も起こらなくて叫びたくなる」というものだった。(こういうのを載せてしまうノルウェーの雑誌に、逆に自国の音楽への自信の程が伺える。)Jon Balke のこの新作を聴いたとき、なぜかこの記事のことを突然思い出した。

Jon Balke の新作が Trygve Seim の "Different Rivers" に似ているというのでは決してない。でも Jon Balke と Trygve Seim 、それにこのアルバムにも参加しているスウェーデンの Anders Jormin の音楽は同じ土壌から生まれたものだと思うし、この3人の微妙な共演関係(ただ Trygve Seim と Anders Jormin の共演は Edward Vesala が亡くなってしまってから依然として幻だけれど)といい、とても深いところで共通点が感じられ、そこには日本人の私にとって、永遠に遠いけれどだからこそとても惹かれる何かがある。

Jon Balke にとって久しぶりの ECM への録音となる本作は、2本のトランペットが軸になっている。Per Jørgensen (1952年生まれ)と Arve Henriksen (1968年生まれ)は、もともと共通する要素の多いトランペッター。とても「北」の音で、高い声で民俗音楽をベースにした歌も歌う。ただここ数年、Arve Henriksen の音が劇的に変化した。彼のトランペットが尺八みたくなってしまった、というだけでなく、その独特の表現が最近のレコーディングのどれをとっても素晴らしく(私が彼の大ファンだということを差し引いても)、このアルバムでも冒頭1曲目のソロには本当に圧倒される。その2本のトランペットを、あるときはぴたりと重ね、別の部分ではその差 - Per Jørgensen のまっすぐに伸びる響きと Arve Henriksen の少し屈折した響きとの差 - を最大限に使っている。

Sonet / EmArcy から1999 年にリリースされた前作に比べ、Magnetic North Orchestra としては3作目となる本作では、かなり音数は減り、楽器の重なりは最小限。流れるようなメロディーと、Audun Kleive と Anders Jormin の名コンビによるダイナミックなリズム、ECM ×Rainbow Studio のあの透明感溢れる音。そして北の厳しい気候に対峙する人々の、奥に秘めた強い意思を感じる。

Svante Henryson による "Apsis" とタイトルされた最終トラック、彼自身による強い輪郭を描くチェロと Anders Jormin のベースが鳴り終わってから訪れる静寂はあまりにも深く、今まで聴こえていたものは幻で実際は何も起こらなかったかのような錯覚を覚える。もしくはアルバムジャケットのような少しグレーがかったブルーの、境目のない海と空に吸い込まれてしまったかのようだ。

"Kyanos" はギリシア語で青、それも深い青を意味する。

home