(pickup 2003 vol 3 : 15 April 2003)

Sofienberg Variations


1. Sarabande Nouvelle
2. Memor
3. Edith
4. Alas Alert
5. Small Picture #1
6. Sarabande Nouvell, var. 1
7. Psalm
8. Liturgia
9. Small Picture #3
10. Small Picture #2
11. Small Picture #3 1/2
12. Edith, ver.
13. Memor, ver.
14. Sarabande Nouvelle, ver. 2
15. Losing Temple


All Compositions by Christian Wallumrød, except "Psalm", based on the Norwegian folk song "O du min Emanuel", after Sigbjørn Apeland, arranged by Økland, Henriksen, Wallumrød.

Recorded October 2001
Sofienberg Kirke, Oslo
Engineer: Jan Erik Kongshaug
Cover Photo: Thomas Wunsch
Liner Photos: Ellen Ane Eggen, Bent Endresen (Økland)
Design: Sascha Kleis
Produced by Manfred Eicher


2003; ECM 1809
Christian Wallumrød Ensemble
Sofienberg Variations


Christian Wallumrød (p, harmonium)
Nils Økland (vln, Hardanger fiddle)
Arve Henriksen (tp)
Per Oddvar Johansen (ds)
with
Trygve Seim (ts on #1, 6, 14)

Christian Wallumrød の新しいカルテットが公に登場したのは2002年7月、彼の故郷で行われたコングスベルグ・ジャズフェスティバルだった。1998年(録音は1996年)の初リーダー作 "No Birch" を発表して以来単独リーダー作はなし、ライブやサイドミュージシャンとしてのレコーディングはほとんどがエレクトリック路線を突っ走るもので、アコースティックなカルテットでの登場には驚かされた。

メンバーのうち、"No Birch" にも参加していたトランペットの Arve Henriksen 、それに Per Oddvar Johansen はトロンハイム音楽院のころからの長い付き合いで音楽的にもなるほどの人選。目に留まったのはもう1人の Nils Økland 。ノルウェーの Morild というレーベルからのファーストアルバム "Blå Harding"(1996) の後、Rune Grammofon レーベルから "Straum" (2000) を発表。RG レーベルでは異色のアコースティック作で、トランペットの入り方などまるでこの Christian Wallumrød の新しいグループを予感させるような部分もある作品だった。

そのコングスベルグでの初コンサートの段階でこのアルバムは既に録音されていた、ということは後になって知った。録音はオスロ市内にあるソフィエンベルグ教会。ヘッドホンで聴くと空間が上に広がっているのがわかる。

冒頭、予想外に強い音でテナーサックスが響く。音の主は Trygve Seim。このアルバムともメンバーが重なる "The Source and Different Cikadas" (2002; ECM 1764) には 逆に Christian Wallumrød がスタジオ録音の最終バージョンに参加していたことを思い出した。その後は冒頭以上に音が大きくなることはなく、非常に繊細な美しいメロディーが4人(+1人)の奏でる美しい音で綴られていく。

アルバムタイトルどおり変奏曲風に構成されていて、例えば "Sarabande Nouvelle" - "Memor" - "Edith" という3曲は、後半、逆の順序で少し形を変えて登場する。後半部分になると、意識のどこか深いところに記憶された音楽を聴いているような、そんな不思議な感覚を覚える。

このアルバムのプレスリリースに、「個々のミュージシャンの個性が反映されている」という記述があった。Nils Økland のフィドルとヴァイオリンはとてもノルウェー的な要素をこの作品にもたらしている。Arve Henriksen の抑制の効いた美しい音色のトランペットは、ゲストの Trygve Seim との相性もさすがにいい。全くビート感のないこの音楽にドラムというよりパーカッショニストとして加わる Per Oddvar Jonansen は、壊れそうなほど繊細な音を添える。

全15曲のうち、#7 "Psalm" はトラッドがベースになっている。元は "O du min Emanuel" という曲で、このオリジナル(に近い)バージョンは Nils Økland のファーストアルバム "Blå Harding" で聴くことができ、比べてみるのも面白い。この曲以外は全て Christian Wallumrød の作曲。ジャズ的な要素はほとんどなく、現代音楽に近い。メロディーラインはノルウェーのトラッドの要素も含んでいるようで、内向的というのか、モノローグ的な要素も感じる。Christian Wallumrød のピアノは、控え目に、静かに流れるように彼の音楽をなぞる。エレクトリック路線の時はその鋭さが特徴だったのに、この点では別人のようだ。

この4人でしか存在し得ないアンサンブルであり、果てしなく美しく、繊細で静か、そして Christian Wallumrød というアーティストの本質を無防備なまでにさらしているようで、その美しさと繊細さは危うい毒性と背中合わせになっているような気がした。
Christian Wallumrød Quartet
2003/02/26
@ Centralstation, Darmstadt, Germany

Christian Wallumrød (p)
Nils Økland (vln, Hardanger fiddle)
Arve Henriksen (tp)
Per Oddvar Johansen (per)


アルバム "Sofienberg Variations" のリリースライブは2003年2月9日、アルバムが録音されたソフィエンベルグ教会で行われた。(余談ながらこの日のライブは Supersilent の Helge Sten によってレコーディングされたそうだ。)そのライブにどうしても日程が合わなかった私は、オスロ滞在中にドイツ・ダルムシュタットまで飛んで見に行ってしまった。

ダルムシュタットという町は初めて訪れた。落ち着いた小さな街で、会場の「セントラルスタツィオーン」は実際の中央駅とはまったく関係のない場所、町の中心部の新しい建物の最上階にある。視覚的にも音響的にも見事に設計されたホールで、平面的にも立体的にもゆったりとした空間が非常に心地よい。少々年齢層が高めのドイツ人オーディエンスは、開演前に会場後方のバーで赤ワインのグラスを片手に静かに談笑。開演時間になると誰からともなくそのグラスを片手に自分の席につくという、大人というかクラシックのファンみたいな客層だ。

ほぼ定刻どおりに4人のノルウェー人がステージ右側の扉から登場。ステージに上がったのは4人だけれど、楽器に向かったのは1人。他の3人がステージ後方に控えている中、Christian Wallumrød のピアノソロで静かに演奏は始まった。私は Christian Wallumrød は音に深さの差をつけることのできるピアニストだとずっと思ってきた。この日のソロは、その浅い部分を使ったもので、敢えて平坦に音を刻むことで逆に感情を表現しているかのようなタッチだ。

ソロからやがて3人のメンバーが加わる。ピアノが左、ドラムが右で真ん中にはピアノに近いほうに Nils Økland 、ドラムに近いほうに Arve Henriksen、この2人は立って演奏する。この日の演奏はアルバム "Sofienberg Variations" の variations といった趣。アルバム同様に要所で "Sarabande Nouvelle" が挟まれ、他の曲も変奏曲のように組み込まれている。アルバムと違ったのは様々なアクセントが加えられていたことで、それはそれぞれのソロパートだったり、楽器の取り合わせだったりする。

この日 ChristianWallumrød に次いで2番目にソロをとったのは Per Oddvar Johansen だった。ソロパートのみドラマーらしい演奏で、でもこれ以上シンプルにはできないというほどにミニマルに叩く。同じパターンを叩き続けても1回ずつ聴こえないところで音楽は確実に変わっていくというさすがの演奏。ただこの日はソロ以外の部分が圧巻で、特にコントラバスの弦を使ってあらゆる打楽器を擦り、小さな小さなキィンという音を出す、その繊細な演奏にしばらく彼のセットばかり見てしまったくらいだ。一見何も聞いてなさそうな顔で、実は他のメンバーの誰よりも曲の次の瞬間を読んでいるのは彼だ。

Nils Økland の Hardanger fiddle によるソロはひときわ鮮やかだった。このノルウェーの伝統楽器には普通のヴァイオリンのような4弦の他にさらに4弦の共鳴弦が張られていて、本体の装飾がとても美しい。曲が終わって静かなところで Nils Økland はまずその楽器のチューニングをした。共鳴弦を合わせるところが普通のヴァイオリンのチューニングと全く違う手つきで、その鮮やかな手さばきに観客は皆声を出さずにあっと息をのんだ。そしてチューニングの続きかと思いきや、突然ソロの演奏を始める。共鳴弦があるため、いっぺんにいろんな音が聴こえるその不思議な楽器を少しアグレッシブに弾き鳴らしてみせる。それにしても彼のフィドルとヴァイオリンの演奏は、このアンサンブルに見事なはまり方だ。

Arve Henriksen のソロは最後の最後で登場した。彼独特のトーンで彼はあらゆるジャンルのレコーディングやセッションに参加しているけれど、この日のこのアンサンブルでの演奏は、その美しいところだけを凝縮したような、そんな演奏だった。比較的シンプルに、ストレートに吹いたため、その美しさが際立ち、会場中がその音に聞き惚れているのが伝わってくる。

ところでこのアンサンブルをリードするのは Arve Henriksen のトランペットなのかもしれない、とこの日のライブを見て思った。彼は決して目立ったり飛び出したりしないのはもちろんだけれど、演奏中にリーダーの方へ顔を向けることはなく、自分で音楽を呼吸させている。Nils Økland は時折リーダーのほうへ視線を向ける。そしてそのリーダーは、最初のソロの時以外はずっと顔を上げっぱなし、他のミュージシャンの方をじっと見つめている。演奏も控えめとすら感じられるくらいだ。アルバム "No Birch" のライナーノートに書かれていた「Christian Wallumrød は "thinker" で、Arve Henriksen は対照的に "spontanious and impulsive player" だ」という一節をまさに目の当たりにした。

この日、Christian Wallumrød はピアノ以外に小さな楽器を2つ持ってきていて、それは好奇心旺盛なドイツ人観客の注目を集めていた。この日の前半、突然 Per Oddvar Johansen が床に座り込み、ステージの反対側の Christian Wallumrød はミニピアノに向かった。ミニピアノは赤いきれいな塗装が施されていて、カタカタとかわいい音を出す。ミニピアノでもタッチは Christian Wallumrød らしいなぁ、と思っていたら、その音に呼応するように Per Oddvar Johansen が床いっぱいに並べられた打楽器をつつき始めた。カウベルなどを中心としたその様々な楽器は、それぞれにわずかずつ違った小さな音を出す。その素朴でユーモアのあるやりとりに会場がふと和み、聴いている人−ステージ上で聴いている人も含めて−の口元が思わず緩んだ。

もう1つの楽器はアコーディオンを横にしたような見たことのない楽器だった。ミニオルガンに半開きの百科事典を背を下にしてくっつけたみたいなものだ。Nils Økland がフィドルのソロに入る時に膝の上にそのパタパタオルガンを抱えた Christian Wallumrød は、そのフィドルソロの最後にそのままそっと添わせるように弾き始めた。左手でパタパタと百科事典状の部分をこちらに引き寄せて空気を送るため、弾いているのは右手だけだ。なにか懐かしい温かみのあるオルガンとフィドルのデュオは思いがけない演出で、とても印象に残った。

途中何度かメンバー紹介なども兼ねて MC をとった Christian Wallumrød だけれど、なぜかなんともぎこちない、別の言い方をすればとても素朴で言葉少なで、逆に思わず観客が和んでしまう一幕もあった。この日の観客は始まる前から終わった後まで実に静かで、この日の音楽にとても相応しい観客だった。「とても注意深く聴いてくれてありがとう」と Christian Wallumrød が言ったのも納得。さほど多くはないけれど、熱心で静かな観客に囲まれた素晴らしいコンサートで、わざわざこれだけのためにオスロから訪れる価値は十分にあったと思う。
このコンサートの日に初めて会った Christian Wallumrød は、穏やかな眼差しの、落ち着いた語り口の人だった。演奏中に感じた Arve Henriksen との違いはそのまま2人の性格の違いでもあるように感じられる。コンサートにはアルバムにはない「ならでは」を加えたかった、と言っていたように、この静かな音楽に、音楽をライブで聴く楽しさを上手く持ち込んだ彼のアイディアとそれを表現できる素晴らしいミュージシャンに感銘を受けた。


後日、アルバムもライブも聴いたあと、Christian Wallumrød に関するエピソードを他の人から聞いた。前作 "No Birch" をレーベルオーナーの Manfred Eicher はとても気に入っており、Christian Wallumrød に早く次のアルバムを作るよう に言っていたそうだけれど、それが5年ものブランクを空けることになったのは Christian Wallumrød 自身の希望だったのだそうだ。じっくり時間をかけて熟成された音楽がここにはある。

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