(pickup 2003 vol 5 : 19 September 2003)
atomic![]() "boom boom" Fredrik Ljungkvist > ts, B-flat cl Magnus Broo > tp Håvard Wiik > p Ingebrigt Håker Flaten > b Paal Nilssen-Love > ds, per 01 ... toner frän för (Ljungkvist) 02 ... boom boom (Ljungkvist) 03 ... praeludium (Paul Hindermith) 04 ... feets from above (Ljungkvist) 05 ... cleaning the dome (Broo) 06 ... re-lee (Wiik) 07 ... alla dansar samba til tyst musik (Broo) 08 ... hyper (Ljungkvist) 09 ... pyramid song (Radiohead) Recorded at Rainbow Studio, Oslo, Norway, on June 27 & 28, 2002. Sound Engineer Peer Espen Ursfjord. Mixed at 7ende etage, Oslo, by Reidar Skår on October 29 & 30, 2002. Mastereing at Strype Audio, Oslo, by Audun Strype on November 11, 2002. Produced by Atomic. Liner notes by Ken Vandermark. Design by Nicolai Schaanning Larsen. 2003; Jazzland Recordings; 0044003826427) |
"Feet Music" から約1年半ぶりの新作、Atomic のセカンドアルバムは、聴き手の期待を余裕をもってはぐらかすかのように静かに始まる。しかも第一声、「ほー」と押さえた音のあとシンバルが小さくチン!と鳴って、不穏な短い静寂が挟まれる。 ゆったりとブルージーな1曲目の後は、タイトルトラックの "Boom Boom" 。タイトルそのままにドラムとベースがぶんぶんと強力なリズムを刻む。ジャズという音楽がこんなにパワフルな音楽になりうるということを10分を超える演奏で思い切り表現するかのようだ。 穏やかな、ちょっと古風なメロディーの3曲目 "Praeludium" はドイツの作曲家 Paul Hindermith (1895-1963) の曲。オリジナルではない曲に対して、自由度の高いゆったりとした即興演奏が絡む。 4曲目の "Feets From Above" はスローな曲で、印象的なメロディーを持ち、最も前作の作風に近い曲と言えるかもしれない。 Magnus Broo によるミディアムテンポでスウィンギーな "Cleaning The Dome" は、このアルバムの中で最もポップなジャズだ。シンプルにジャジーで、ゆったりしているのにそれぞれのミュージシャンの演奏の凄さが堪能できる。 前作の1曲目"Næra Grensen" に通じる Håvard Wiik の "Re-Lee" はクールジャズへの憧憬を表現したもの、とのことだけれど、1940年代というより、彼らの演奏を聴くとパンキッシュな感じがして面白い。 Ingebrigt Håker Flaten の静かなベースソロで始まる "Alla Dansar Samba Til Tyst Musik" はメランコリックなメロディーを持った北欧的(もしくはヨーロッパ的)な色彩の美しい曲。それぞれの楽器がソロもバックもとても美しい音色で響いている。 8曲目の "Hyper" はFredrik Ljungkvist のオリジナルで、Paal Nilssen-Love のソロで始まるけれど、この曲は Håvard Wiik のショーケースだ。曲の中盤から後半を占める現代音楽的な音使いのダイナミックなピアノソロは圧巻。 そして最後を締めるのは Radiohead "Pyramid Song" のカバー。ほとんど原曲の形を残したまま、特に目立ったアレンジは加えられていない。Magnus Broo がメロディーラインを丁寧にトランペットで歌う。Paal Nilssen-Love のドラムが、静かに、けれど強くスイングする中、アルバムは北欧の強くない陽光を反射するような輝きを残して終わる。 "boom boom" アメリカ、ノース・テキサス大で学んだという北欧出身のプレイヤーにしては珍しい経歴をもつ Magnus Broo は、その経歴をにじませるような演奏をする。押さえた美しいトーンで内向的ともいえる演奏をするトランペッターが多い北欧で、彼の演奏は外向的で、パワフルで、自由にバリバリと高音を鳴らす。 Fredrik Ljungkvist は懐が深いのか、それとも引き出しが多いのか。スウェーデンを代表するプレイヤーとして、そしてまたプロデューサーとしても活動する。Atomic のオリジナルの大半は彼の手によるものだ。プレイヤーとしてはノルウェーにはいないタイプのラフな手触りが特色、と思える演奏もあれば、北欧らしくバカテクで恐るべき速度で滑らかなフレーズを吹ききってしまったりする。このアルバムではテナーサックスに加えて、前作では使わなかったBフラットクラリネットを多用している。クラリネットのクリアな高音とバスクラリネットの温かい音を兼ね備えた楽器で、Atomic の音に新しい色合いを加えている。 ところでこのアルバムは ECM で有名なオスロのレインボースタジオで録音されいている。Jazzland レーベルや Atomic とレインボースタジオとは一見意外な取り合わせのようだけれど、Atomic の前身となった Element というグループの名作セカンドアルバムもここで録音されている。 このスタジオでの録音らしく、Paal Nilssen-Love の繊細なシンバルは隅々までクリアに再現されている。このアルバムを録音後、突然の病で半年(後で思えばたったの半年)を休養に当てたのだけれど、その半年間のノルウェーのジャズシーンの空虚感にも似たテンションの低さが、彼の存在の大きさを逆に気づかせることになった。相変わらずの彼独特の手数の多いスタイルはそのまま、以前より重心がぐっと下がったどっしりした演奏をしている。 1975年生まれと Atomic で最も若いメンバーである Håvard Wiik のピアノは、今回やはりあのレインボースタジオの響きで、彼が本来持つ美しいタッチを際立たせている。前作をリリースしてからの1年半、Atomic の中で最も目覚しく躍進したのはこの若いピアニストだ。早く弾いてもスローな曲を弾いてもタッチは美しく、アルバム中でもそのソロにはっとさせられる場面がが多い。 そして、ベーシストでリーダーの Ingebrigt Håker Flaten は、今回地味ともいえる役回りだ。ソロもあるけれど、ライブでみせるようなアグレッシブな演奏ではなく、むしろ静かにベースという楽器をじっくり鳴らす。バッキングでは Paal Nilssen-Love の右足と Håvard Wiik の左手にぴたりと合わせる。ベースのパートが彼の演奏でなければ、パワフルで躍動感溢れる Atomic の音楽はまったく別物になってしまうに違いない。 "boom boom"
Atomic は、1999年の結成から1度大きなメンバーチェンジがあったことがうそのように、1つの強力なバンドになった。まだ若い5人のメンバーがそれぞれ全員リーダー作をリリースするスーパーユニットであり、なおかつ1つの恒常的なバンドとしてまとまっている珍しい例かもしれない。このアルバムを評したノルウェーの web-zin の見出しに「世界レベル」という言葉があった。演奏も、曲も、アレンジも録音も、そしてアートワークも Ken Vandermark によるライナーノートを見ても、このバンドが北欧の1グループとして扱われるレベルをとうに超えている。 Atomic のやっている音楽は、基本的には非常にベーシックなジャズだと思う。特にひねるわけでもないし、奇をてらうこともないし、多分新しいことをやってやろう、というのもなさそうだ。それでも Atomic の音楽が新鮮に響くのは、現在進行形のものとして自分達の音楽をやっているからだろう。Radiohead のカバーがそれを象徴している。Radiohead を現代の音楽シーンで最も重要なバンドだと認識し、それを鮮やかに自分達の音楽に取り入れる Atomic も現在のシーンを(どこのシーンかはあまり限定したくない)代表するバンドなのだと思う。 |
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