(pickup 2004 vol 3 : 23 February 2004)





1. Letta
2. Larf
3. Mayla Mayla
4. Correct Me If I'm Right
5. Abbi
6. Grinning
7. Davu
8. Gobbles
9. Everything Is temporary


all music by Hilmar Jensson

recorded to DSD by Joe Marciano on November 5th & 6th 2002
at systems two, Brooklyn
assisted by Max Ross

mixed in analog to 2+5 channel DSD by Aya Takemura on February 13th & 14th 2003
Looking Glass Studios, NYC
assisted by Christian Rutledge
editing by Hiroyuki Komuro

mastered (SBM Direct) by Dawn Frank Sony SACD Project-Boulder CD

Design & foto...s by Andrew d'Angelo

Exective producer : Tony Reif


2004; Songlines; SGL SA1547-2


www.songlines.com
ditty blei - Hilmar Jensson

Hilmar Jensson : el-g, ac-g
Jim Black : ds
Andrew d'Angelo : as, bcl
Trevor Dunn : ac-b
Herb Robertson : tp

前作 "Tyft" (2002) 以来となるアイスランドのギタリスト Hilmar Jensson の新作が届けられた。前作は Hilmar Jensson, Jim Black, Andrew d'Angelo のトリオ作だったから、顔ぶれをぱっと見たときは、ああ、前作の延長上、とも思った。しかし - 他の2人はこの周辺ではよく見かける名前ながら、楽器はダブルベースとトランペット - Jim Black の "AlasNoAxis" にも、Hilmar Jensson のこれまでのどのアルバムにも入っていなかった楽器だ。トランペットはともかく、これまでベースのパートはエレクトリックの Skuli Sverrisson か、もしくはベースレスだったから、これは明らかに新しい試みだ。

Hilmar Jensson とその周辺の音楽としてはめずらしく "electronics" のクレジットが全くないクインテット編成のこの新しいユニットは、Hilmar Jensson がエレクトリック・ギターも弾くこと以外は全くアコースティック。ライナーノートで本人が、最近、よりメロディックで『曲』としての形をもったアプローチに惹かれていて、それを反映している、と書いている。比較的抽象的なイメージを描き出すようなアプローチも多かった Hilmar Jensson のこれまでの作品からすると、確かに今作は輪郭がはっきりしている印象だ。

その2つの変化の予兆は今から思うと前作にも少し見えていたのだけれど、本作では前面に明確に打ち出されてきている。

Hilmar Jensson の音楽は普通ではない。アメリカや他のヨーロッパの国の音楽と何かが違う。もちろんバークリーで学び、ニューヨークで活動していた期間も長いから、ニューヨークのダウンタウン派とでもいうのか、彼らとの共通点はいくらもある。多分 Hilmar Jensson と一番近い「感覚」を持っているのはドラマーの Jim Black だろう。このアルバムで聞かれるメロディーも、部分的に AlasNoAxis のそれを想わせるところもある。いや、お互いのアルバムに参加しあっているからどうしても共通点があるのかもしれない。

Hilmar Jensson の音楽の特殊性は多分、彼がアイスランドという国の出身で、現在もレイキャヴィークに住み、そこで活動していることと無縁ではないだろう。とにかくあの国そのものが既に普通ではない。少なくとも、欧米や日本の文化に慣れた私の目には、ヨーロッパに、隅っことはいえこんなところがあるのかと、それはまるでちょっと地球外のどこかに近いようにすら写った。Hilmar Jensson の音楽は、確実にそんな国の一部を音として表現している。

メロディーはマイナーコードが中心で、ちょっとメランコリック。「地の果て」のような感覚はやはりある。メロディーラインの予想はつきにくい。アレンジもリズムも非常に複雑で、曲はジグザグに進む。恐らくかなりきっちり作曲とアレンジがなされ、それにある程度の即興演奏が加えられていると思われる。とはいえ、頭で考えた音楽、という感じは全くない。

新たに加わった Herb Robertson の柔らかなトランペットとの相性はかなり良い。もう1つの管楽器が Andrew d'Angelo のアルトサックスとバスクラリネットのため、重さはあまりなく、Hilmar Jensson の書いた繊細なメロディーを描いていく。もう1人の新加入、ダブルベースの Trevor Dunn は、どちらかというと地味目ながら、Jim Black のドラムにピタリと合わせ、この音楽の難しいバランスを上手く取っている。

Hilmar Jennson は、この新しいクインテットの前面ではなく真ん中に位置し、静かに存在感を示している。ギターだけ聴けばジャズというよりロックギターだ。今回はエレクトロニクスこそ使っていないけれど、エレクトリックギターの弾きかたで随分エクスペリメンタル系音楽にも近い表現もある。アコースティックギターは相変わらず研ぎ澄まされた美しさを持っている。彼とともにこのユニットの中核を担うのは Jim Black 。このジグザグな音楽を彼にしか叩けないドラムで演出する。この2人が共通して持っているロック寄りのアプローチもピタリとあい、ジャズにロックの格好よさを持ち込んでいる。

アイスランド語のタイトル "Ditty Blei" は、英語では "change my diaper" で、このアルバムのための曲を書き始めた頃に、彼が彼のまだ幼い子供たちの日常からインスピレーションを受けたことによるそうだ。そういえば、ちょうど1年前にコペンハーゲンで会った時も、なんだかんだで子供の話をしていたなぁ…と思い出した。このアルバムの複雑な曲を書いて、多分に風変わりなギターを弾いている、この地の果ての島国のギタリストが、実は結構普通に子煩悩パパであることをちらりと覗かせていて面白い。





1. Come To Me
(Unn Paturson)
2. My Favorite Ladida
(Unn Paturson)
3. Fragile
(Sting)
4. Sometimes
(Unn Paturson)
5. Ocean Song
(words by Lív Maria Róadóttir; music by Unn Paturson)
6. Nangijala
(Unn Paturson)
7. 'Round Midnight
(T. Monk, C. Williams, B Hanighen)
8. Havnin
(words by Rói Patursson; music by Rógve á Rógvu and Unn Paturson)
9. Lívið
(words by H.A. Djrhuus; music by Unn Paturson)
10. Álvagentan
(words by Annfinnur Zachariassen; music by Unn Paturson)


produced by Rógvi á Rógvu & Unn Paturson
all arrangements by Run
recorded, mixed & mastered by Johannes Lundberg
photo by Unn Paturson
cover by Thomas Koba, Reproz
recorded at Studio Bunkern, Göteborg, 9. - 11. of July, 2003.


2003; Tutl; HJF103


www.tutl.com
RUN

Unn Paturson : vo, p on #10
Hilmar Jensson : ac-g, el-g
Anders Jormin : double-b
Rógvi á Rógvu : ds, per

アイスランドとノルウェーとスコットランドの丁度真ん中の海上に浮かぶ一連の島々がフェロー諸島。人口4万5千人。一応デンマーク領ながら、同じデンマーク領のグリーンランドもそうであるように、独自の言葉と文化を持ち、1つの独立国のようでもある。Tutl というレーベルはこの国の首都(というのか) Tórshavn にある。鍵盤楽器奏者である Krisitan Blak が1977年に設立、既に200を超えるリリースがある。私はいくつかしか聴いていないけれど、パラパラとカタログをめくるとトラッドあり、ジャズあり、洞窟での録音あり、ロック・ポップスあり、クラシックあり…と、この小さなフェロー諸島のあらゆる音楽をリリースしていると言えそうだ。

RUN はそのフェロー諸島の女性ボーカリスト Unn Paturson がリーダー格の新しいユニットでこれが始めてのレコーディング。サポートするのはドラマーというよりパーカッショニストの Rógvi á Rógvu (どういう意味の名前なのだろう…)。そこへ加わるのがアイスランドのギタリスト Hilmar Jensson とスウェーデンのベーシスト Anders Jormin 。Anders Jormin はこのレーベル Tutl に、レーベルオーナー Kristian Blak のユニット Yggdrasil を初めとして何枚かの参加作がある。それを考えなければこの2人の取り合わせは結構意外だ。

Unn Paturson は、写真を見る限りまだ20代といった感じの若いシンガー。コケティッシュというのか、甘い歌い方。ただ、甘くなり過ぎない不思議な「芯」がある。甘さが気にならなければ伸びやかでなかなかに心地よい歌だ。Hilmar Jensson は大方普通に弾いている。かえってその普通さが新鮮だ。音は終始とても美しい。Anders Jormin のベースは彼らしくよく歌い、音楽に躍動感を与えるそのラインはさすがだ。 Rógvi á Rógvu のパーカッションは控えめな音数に留められ、あくまでも Unn Paturson の歌が中心になっている。

Sting の "Fragile" も、この顔ぶれと思うとなかなか興味深いけれど、カバーとしては "'Round Midnight" のほうが面白い。ベースだけをバックに歌いだし、その後静かにギターとパーカッションが加わる。解釈はまったく真っ当。けれど、恐らく Unn Paturson がかなりこの歌を歌いこんでいるのだろうということを感じさせるその滑らかなフレーズ回しと、それに絡む歌うベースが秀逸なバージョンだ。

けれどこのアルバムのハイライトは別のところにある。1つめは #6 "Nangijala"。スウェーデンの作家 Astrid Lindgren の "Bröderna Lejonhjärta" (英訳では "The Brothers Lionheart")にインスパイアされた曲。このアルバムの中では比較的動的でグルーブ感がある。

もう1つのハイライトは終盤の3曲。この3曲のみフェロー語で歌われる。ブックレットの歌詞の字面を見る限り、デンマーク語よりアイスランド語にはるかに近い。#8 のイントロ、 Hilmar Jensson が本領を発揮する音響的なギターで始まり、Unn Paturson の歌は、明らかに英語の歌詞の時とは違う何かを湛え、妖気すら感じる。その独特の発音にあった歌を歌っていて、ひょっとするとこれはフェローのトラッドにも通じる音楽なのかもしれない。楽器の響きも、気のせいかこの3曲では新鮮に感じられる。

この最後の3曲が、次作へとつながる3曲であればいいのにと思わずにはいられない。

special thanks to Hilmar.
for more about his music, please visit www.hilmarjensson.com

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