(pickup 2004 vol 4 : 30 March 2004)

"Evening Falls"


Jacob Young
Evening Falls


Jacob Young (g)
Mathias Eick (tp)
Vidar Johansen (bcl, ts)
Mats Eilertsen (b)
Jon Christensen (ds)


1. Blue
2. Evening Air
3. Minor Peace
4. Looking For Jon
5. Sky
6. Presence Of Descant
7. Formerly
8. The Promise
9. Falling


All composition by Jacob Young, except "Presence of Descant" by Christensen / Young


Recorded December 2002
Rainbow Studio, Oslo
Engineer: Jan Erik Kongshaug
Liner Photos: dag Alveng
Cover Design: Sasha Kleis
Produced by Manfred Eicher


2004; ECM 1876


2003年12月、Karin KrogJacob Young来日公演を行った直後、とある人から「次のアルバムは ECM だそうですよ」と教えていただいた。私は思わず「Karin Krog が?それとも Jacob Young?」と聞き返してしまった。それほど Jacob Young の今までの音は ECM のイメージからは程遠いものだったのだけれど、リリースされた ECM への初めての作品、彼の4枚目のリーダー作は彼らしい色彩は保ちつつ、とても ECM らしいものに仕上がっていた。Manfred Eicher が Jacob Young が演奏するのを初めて見たのはオスロで、Trygve Seim のグループで演奏していた時だったそうで、Trygve Seim のデビュー作 "Different Rivers" (2000) より大分前の話になるだろうから、そんなに以前からこのアルバムへの伏線があったことになる。

Jacob Young の前作 "Glow" (2001; Curling Legs; CD60) は、ノルウェーの新世代のミュージシャンをずらりと並べ、それぞれの持つノルウェー的な音色を活かした現代的なテイストの名作だった。その後、2001年から Karin Krog とのデュオで活動、 "Where Flamingos Fly" (2002; Grappa) をリリース。同時に彼は自分のグループを一新、このレコーディングのメンバーで活動してきた。

Jacob Young の選ぶトランペッターはいつもノルウェーのシーンの最新のキープレイヤーだ。ファーストアルバム "This Is You" (1995; NOR-CD 9513) では Nils Petter Molvær 、3作目 "Glow" では Arve Henriksen 。いずれもリーダー作のリリースと共に俄然注目を集めるようになる前の起用だ。そして今回、彼は Mathias Eick という24歳のトランペッターを選んだ。Jaga Jazzist のメンバーであり、Jaga Jazzist のアルバムでも確かに印象に残る演奏をしているが、それよりそのライブでのインプロヴァイザーとしての存在感は他を圧倒するものがあった。十分にスペースを与えられたこのアルバムでは、伸びやかに、恐ろしいほど堂々と吹いていて、ほとんど彼が真ん中に立って音楽をリードするかのようでもある。彼のこの演奏は予想以上であり、その完璧にコントロールされた美しい音色と表現力にまずは非常に驚かされた。

2管のもう1人はバスクラリネットを吹く Vidar Johansen (b. 1953)。恐らく名前に記憶はなくともその音は意外にもたくさん聴いているはずの、言ってみればノルウェージャズの名バイプレイヤーだ。Bugge Wesseltoft のアルバムには3枚参加しているし、Curling Legs レーベルには彼の参加作は本当にたくさんある。その Curling Legs レーベルに "Losided" (1997; CD30) というトリオ名義でのリーダー作があるが、もっと最近のものでは Bjørnar Andresen (b) 、Thomas Strønen (ds) という曲者と組んだ Bayashi というトリオでの "Help Is On Its Way" (2003; Ayler; aylCD-053) が面白い。Jacob Young のこの新しいユニットでも彼は華やかなトランペットの脇役に徹するかのように、静かに柔らかいバスクラリネットを吹いて音楽全体に深みを加えている。そんな中ただ1曲だけトランペットに真っ向から向かうようにテナーサックス(本当はこちらが本業)を吹く#6 が鮮やかだ。

このアルバムに参加している5人のメンバーのうち Jacob Young 本人を含めて4人が ECM 初登場となるわけだが、残りの1人、Jon Christensen (b. 1943) だけは逆に ECM の顔(の1人)といえるプレイヤーだ。シンバルをかなり強く叩きまくっていて、決して静かな演奏ではない。しかしこのシンバルの音でアルバム全体を ECM の音に仕立ててしまっているのはさすがというのか、やはりというべきなのか。またそのシンバルが見事に音楽を引き締めているのも事実だ。

2作目から3作連続で唯一 Jacob Young のグループに参加し続けているのがベーシストの Mats Eilertsen (b. 1975) 。ノルウェーで今一番、アコースティックベースが本来持つ暖かみのある音を出せるプレイヤーだ。同じく暖かみのあるギターが持ち味の Jacob Young とは相性がよいはずだ。Jazzland のアコースティックシリーズからアルバムをリリースする Håkon Kornstad TrioRune Grammofonに所属する Food などのメンバーとしても知られ、両ユニットではエレクトリックベースも弾いており、アコースティックベースの時とはまた違った個性的な演奏をしている。作曲やアレンジにも才能を見せるミュージシャンであり、特に Kornstad Trio のライブ盤 "Live From Kongsberg" (2003/2004; Jazzland) ではリーダーでないにも関わらず彼の曲が大半を占め、かなり面白い演奏をしている。この Jacob Young のグループではアコースティックのみで、彼らしい素晴らしい音色で、バッキングでもソロでもさりげなく作曲などのセンスも垣間見せる。

このアルバムの主役 Jacob Young (b. 1970) は、先の Karin Krog とのデュオでもそうだったように、他の楽器と対峙することは決してなく、共演者を包み込むかのような個性の持ち主だ。彼自身がアメリカ人の父とノルウェー人の母の間に生まれているからか、他のノルウェー人ミュージシャンとは異なりアメリカで音楽を学んだからだろうか、非常にバランス感覚に優れたミュージシャンでもある。暖かみのある丸い音色のギターは、他の楽器をつないで、またあるときは隙間を埋めるように静かに、一音一音丁寧に弾かれる。

このアルバムの9曲中、1曲のみ Jon Christensen との共作がある他は全て Jacob Young のオリジナル。少しノスタルジックでセンチメンタルな雰囲気の、流れるように滑らかなメロディーを持つものが多く、初めて聴くのにいきなり心に沁みる。それぞれの曲は、穏やかなグルーヴを持つものから変則的なワルツまで結構バラエティーに富んでいる。緩やかに施されたアレンジでそれぞれのプレイヤーが十分に動くスペースが残され、ジャズらしい即興演奏の部分もある。

ギタリストとしても作曲家としても Jacob Young はそれほど北欧/ノルウェー的ではないと私は思ってきたし、ギタリストとしては本作でもそうだろう。ノルウェーでは珍しいほどオーソドックスなジャズギタリストであるとすら思う。ただ、前作でもそうだったように、彼はノルウェー的な周りのミュージシャンの持ち味を実に上手く自分のギターとブレンドする。その微妙なミクスチュアは ECM という稀なレーベルによって、タイトルのように黄昏色の光を湛える音楽となっている。

2003年12月の Karin Krog との来日公演の際、Jacob Young は1曲だけソロで演奏した。"The Promise" というその曲は彼のセカンドアルバム "Pieces Of Time" (1997; Curling Legs; CD 37) に収録されていた曲だ。オリジナルはソプラノサックスが優しいメロディーを奏でるミディアムテンポの曲だったのを、ぐっとテンポを落として新しいバージョンで披露した。このアルバムの終盤でベースとドラムとのトリオによるゆったりした揺らめくようなその曲が聴こえてきて初めて、あのソロ演奏は彼からのこのアルバムへの予告編だったのだと気づいた。

Jacob Young discography:
2004 Evening Falls (ECM 1876)
2002 Where Framingos Fly (Grappa GRCD 4189) w/ Karin Krog
2001 Glow (Curling Legs; CLP CD 60)
1997 Pieces Of Time (Curling Legs; CLP CD 37)
1995 This Is You (NOR-CD 9513)

Jacob Young official site:
>> www.jacobyoung.no

home