(pickup 2004 vol 8 : 15 June 2004)
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| opening image bird's-eye-view chiaro holography blue silk paralell action circled take scuro time lapse ending image arve henriksen: tp, voice, electronics jan bang: livesampling, samples audun kleive: ds, per produced and mixed at punkt studio by jan bang and erik honoré co-produced by arve henriksen all selections by arve henriksen, jan bang and audun kleive additional electronics by jan bang and erik honoré live recordings by geir østensjø mastered by helge sten at audio virus lab design by kim hiorthøy 2004; rune grammofon; RCD0237 |
穏やかでノスタルジックな音響に包まれて、柔らかい、とてもエモーショナルなトランペットの音が流れる。しばらくして、トランペットの主は楽器を横へ置いて静かに歌い出す。その高い、澄んだ、叫び声にならなかったような歌声のあまりのピュアな響きに、私はどう向き合えばいいのかしばらく分からなかった。 ノルウェーのレーベル、Rune Grammofon の看板グループ Supersilent のトランペッター Arve Henriksen (b. 1968) がソロ作をレコーディングする直接のきっかけになったのは、レーベルオーナー Rune Kristoffersen のすすめだったそうだ。そのオファーにとても驚いたという彼は、時間をかけて、ファーストアルバム "Sakuteiki" (2001) のアイディアをまとめた。Supersilent や Audun Kleive のグループでエレクトリックな音楽をやっているからアコースティックな作品にしたかったと語る一方、Supersilent への反発ではないとも言っている。彼自身の言葉によると、Supersilent の音楽周辺への補足であり、中身のないコンピューター音楽への反発といえるかもしれないとのことだった。尺八の音と日本の文化に魅せられたというミニマルで瞑想的なそのアルバムは、世界中で絶賛され、彼はその後活動の範囲を飛躍的に広げることになる。 前作から2年半たって届けられた新作のタイトルは "Chiaroscuro"。イタリア語で「明暗」、美術用語としても一般的に使われる単語だ。このアルバムの製作が最終段階に差し掛かった頃、私は、Arve Henriksen が公私にわたって大きな転換期を乗り越えようとしていることに気づいた。あらゆるグループに参加して、考えられないようなハードなツアースケジュールをこなしていた彼は、少し身辺を整理するかのように、活動を絞りはじめた。一方でインタビューでは現代音楽やトラッドへの興味も語っている。そのアルバムのタイトルを聞いたとき、ふと意味深だなと思ったのは考えすぎだろうけれど、少しは関連があるだろう。 このアルバムに収録されている音源は、2002年秋のノルウェーツアーの時にライブ録音されたものがベースになっている。前作 "Sakuteiki" もある意味ライブ録音だったが、今回はコンサートでの録音だ。ただし、仕上がった音からはライブ録音という雰囲気は全く感じられない。逆に、これがコンサートでの演奏を比較的そのまま残したものだとすれば驚くべきものだ(参考までに、このアルバムの中の1曲、"Blue Silk" という曲のライブ録音をイギリス BBC が2度放送しているが、いずれもこのアルバムに収録されているものと変わらないものだった、という事実を挙げておく)。ツアーのメンバーは Arve Henriksen、Jan Bang、Audun Kleive。Audun Kleive のグループ Generator X からキーボードの2人を抜いた編成とも言える。 Audun Kleive は、ノルウェーを代表するドラマーの1人。参加作は実に幅広く、歯切れがよくて少しロックの要素も垣間見せる格好いいビートの持ち主だ。Jazzland から3枚のリーダー作 "Bitt" (1997)、"Generator X" (2000)、そして "Ohmagoddabl" (2004) のリリースがある。それ以前はどちらかというとアコースティックジャズへの参加が多かったのに、一転してエレクトリックなテクノやクラブ系のサウンドを吸収した音楽で、ボーカルまで披露している。また彼はレコーディングスタジオを持ち、エンジニアとしても知られる。 Jan Bang はもともとポップ畑のプロデューサーとして知られる人でソロアルバムのリリースなどもあるが、それよりも注目すべきなのはその後、彼がこの "Chiaroscuro" にも参加している Erik Honoré と立ち上げた Pan M Records というレーベルでの活動、それに彼が得意とする livesampling という手法だろう。そのレーベルからの3作品(そのうちの1枚 "Birth Wish" (2000) には Arve Henriksen が参加している)は、そのままこの "Chiaroscuro" へつながるサウンドだ。 Audun Kleive は、ミニマルなサポートながら、いかにも彼らしいビートを叩いている。とん、と低く鳴る音、途中に少しだけ挟まれるハイハット、そして手で叩かれるパーカッションの丸みを帯びた、けれど彼らしいグルーヴ感を湛えた音。Jan Bang は主として Arve Henriksen のトランペットとボーカルの多重録音のところで手腕を発揮している。そのアコースティックな生音を生かした音響は、万華鏡さながらだ。 冒頭に述べた1曲目以降は、テンションを少し緩めるように穏やかな曲が続く。前作のような日本風の曲もあるが、このアルバムではメインではなく、アクセント程度にとどめられている。暖色系の曲と寒色系の曲が交互(正確に1曲ずつではないが)に挟まれ、まさしくタイトルどおりだ。暖色系の曲はどこまでも幸せな雰囲気に満ち、寒色系の曲は心の淵を覗き込んでしまったかのような深さを見せる。 前作では様々な楽器を1人で演奏していた Arve Henriksen だけれど、このアルバムではエレクトロニクスを除けばトランペットとボーカルのみ。これまでいくつものアルバムで、例えば Supersilent "6" の最終トラックなどでそのファルセットによるハイトーンのボーカルを聴かせていたが、このアルバムではそのボーカルが大々的にフィーチャーされている。その、歌詞のない、というより、誰にも分からないけれど誰にも分かる可能性のある言葉で歌われるその歌は、どこまでも澄んで美しく、非現実的な世界を作り出す。 一方、Arve Henriksen のトランペットは、もはや当たり前のように金管楽器らしからぬ音を奏でている。彼がトロンハイムの音楽院に在学中、訪れた Nils Petter Molvær にダビングさせてもらった1本のテープにより尺八の音色にのめりこんだというのは今や有名なエピソードだ。このアルバムでは音の柔らかさや幅、それに尺八度/金管楽器度を自在にコントロールし、それぞれの曲で音色に微妙な変化が付けられている。 澄んだ透明なハイトーンのボーカルと、柔らかなトランペット。この対照的な要素を1人で紡ぎ出し、他の2人 − 1人はインプット、1人はアウトプットでのサポート − を得ながらそれらを繰り返し、重ね、1枚の音のタペストリーに織り上げている。 ところで、Rune Grammofon のリリースはいつも、 Kim Hiorthøy によるアートワークも含めて1つの作品になっている。このアートワーク、幾つかの例外、例えばジャケットのデザインがいつも同じ Supersilent や、Deathprod のボックスなど特別な場合を除き、レーベルからは出来上がった音源が渡されるだけで何ら注文はなく、Kim Hiorthøy はその音源のみからアイディアを得てジャケットをデザインするのだそうだ。そうして出来上がった "Chiaroscuro" のジャケットは、このレーベルでもっともポップでカラフルなものになった。このアートワークは確実に音を反映していると言える。 明と暗をいくつも挟み、到達する最終トラック。その両方が複雑に混ざり合ったような、優しく、しかしどこかとても寂しげな色彩を帯びた美しいトランペットによる淡い色彩で空間が染まり、やがてすうっと消えていってしまう。音は消えてしまうけれど、聴き手の中に残る「何か」は途方もなく大きい。 |
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