(pickup 2004 vol 11 : 24 October 2004)

Sangam TRYGVE SEIM - SANGAM
Trygve Seim
(ts, ss)

Håvard Lund
(cl, bcl)

Nils Jansen
(bs, contrabass cl)

Arve Henriksen
(tp)

Tone Reichelt
(french horn)

Lars Andreas Haug
(tuba)

Frode Haltli
(accor)

Morten Hannisdal
(cel)

Per Oddvar Johansen
(ds)

Øyvind Brække
(tb, on #4-7)

Helge Sunde
(tb, on #4-7)

String section conducted by Christian Eggen
(on #4-7)

Trygve Seim
and Arve Furset
(rhythm programming on #3)



1. Sangam
2. Dansante
3 Biginning an Ending

Himmelrand i Tidevand
4. Part I
5. Part II
6. Part III
7. Part IV

8. Trio
9. Prayer



Compositions by
Trygve Seim

Recorded
October 2002
and March 2004
Rainbow Studio, Oslo
Engineer:
Jan Erik Kongshaug
Liner Photos:
Colin Eick
Cover Design:
Sascha Kleis
Produced by
Manfred Eicher


2004; ECM 1797
次のアルバムは "Different Rivers" とは比較にならない位いいものになる − 2003年2月、寒いオスロで会った Trygve Seim は、まっすぐにこちらを見てはっきりそう言い切った。普段穏やかな口調で、どちらかというと控え目に話す彼が、こちらが訊きもしないのにそこまではっきりと自信の程を覗かせたその時に、私はこのアルバムが大変な名作になることを確信した。


2000年終わりに ECM からリリースされた Trygve Seim のファーストアルバム "Different Rivers" は本国ノルウェー、それにヨーロッパを中心に高い評価を得た。それ以前はドラマーが2人だったりベーシストやギタリストがいたこともあるという大編成ユニットを、アルバムのリリースと前後して自分の音楽を表現するのに理想の形に固め、それ以降は、常に流動的なチェロのポジション以外は同じメンバーで活動してきた(※チェロはこのユニットに限らず、ノルウェーで最も人材不足のパートと言える)。それから3年の間、彼がフルで関わったのは実質的に The Source のサードアルバムに当たる "The Source and Different Cikadas" (2002; ECM) 1枚のみだ。つまりその間のほとんどの時間を自身のユニット、そしてこのセカンドアルバムに費やしたことになる。


ECM のプレスリリースによると新作のタイトル "Sangam" はサンスクリットで "coming together"、"confluence" または "learned gathering" といった意味で、時には "3つの川の合流点" を意味することもあるそうだ。前作のタイトルは "Different Rivers" だった。プレスリリースでも言及されているように、"Sangam" は、ジャズ、現代音楽、伝統音楽という3つの流れを自分の許で合流させる Trygve Seim の音楽に相応しいタイトルと言える。"Sangam" はまた古代タミルの詩では、 "the vortex of love, longing and lonliness" の表現として用いられたこともあるという。

アルバムはそのタイトルトラックで幕をあける。現代音楽よりのゆったりと漂うような曲で、ある部分はまるで舞台演劇を見ているかのようにドラマチックで、またある部分はとても叙情的だ。緻密にアレンジされた楽曲に変則的な9つの楽器を見事に散りばめている。

フランス語で「踊り(ダンス)」というタイトルが付けられた2曲目は12分とアルバム中もっとも長いトラック。踊りというにはかなり変わったビートが現れる。Per Oddvar Johansen のドラムは軽やかで、この曲ではビートを刻むというよりアクセントを加えるといった感じで、実際にリズムを作っているのは低音の管楽器というのがユニークだ。シリアスでダークな曲調の中、後半に進むにつれ Trygve Seim らしい温かなメロディーが顔を出し、終盤はソプラノサックスやアコーディオンの明るい音色でまとめられている。

低音楽器による静かなアンサンブルに淡々としたドラムが小さく刻まれ、トランペットが "Beginning an Ending" の印象的な、何かを懐かしむような美しいメロディーを奏でる。感情をあえて抑えるかのようなそのトランペットのフレーズはこのアルバムのハイライトの1つでもある。同じフレーズが繰り返されるが、少しずつ楽器の重ね方に変化が付けられ、淡々としつつも徐々に盛り上がりを見せる。クレジットにあるように、これにサンプリングされたドラムビートを挟み、それに Per Oddvar Johansen の生のドラムの音を重ねるというのが現代的なアイディアで面白い。

中ほどの4曲は Redningsselskapet (The Norwegian Society for Sea Rescue という訳が付けられているので、さしずめ「ノルウェー海難救助協会」といったところか)の110年記念の委託作品として 2001年に発表されたもので、レギュラーの9人にさらにトロンボーンを2本と弦楽器隊を加えている。Part I は、リズムは全くなく、楽器のハーモニーだけで構成される。その宗教音楽にも似た、荘厳で、それでいて温かみのある響きにただただ圧倒される。Part II は、一瞬電子音のようにも聞こえるブーンという低音の管楽器を背景に、Trygve Seim の瞑想的なテナーが東洋的なフレーズをなぞる。ノルウェーには東洋の音楽や文化に魅了され、それを自らの音楽に取り入れるミュージシャンも多く、このアンサンブルにも参加する Arve Henriksen がその代表例だけれど、Trygve Seim の場合、思想や精神面といったより抽象的な「東洋」の要素が感じられる。Part III は一転、低音管楽器とドラムがシンプルなようでそうではないビートを刻み、Arve Henriksen や Frode Haltli が比較的自由度の高いジャズ的なソロを聞かせる。この2人はこのアンサンブル志向の強いこの音楽の中でも突出した演奏をしている。そして、それまでの3パートを織り交ぜたような終曲 Part IV でこの組曲は力強く締められる。

Trygve Seim のテナー、Lars Andreas Haug のチューバ、Per Oddvar Johansen のドラムによる "Trio" は大編成によるこの作品に少し別の風を入れるように組曲の後にそっと配置されている。ミニマルながら、即興演奏の度合いが高い1曲だ。

アルバム最後は明るい、Trygve Seim らしい素朴なメロディーが、静かに、9人編成と思えないミニマルな演奏で展開される。とても幸福な輝きに満ちたこの曲でアルバムは幕を下ろす。


Trygve Seim の音楽はとてもノルウェー的だと思う。その「ノルウェー的」というのは、いわゆる ECM サウンドと呼ばれるあの透明感のある音とは必ずしも一致しない。私が彼の音楽に見出すノルウェー的な要素とは、温かさと力強さ、それにおおらかさとストイックさというある意味相反する要素だ。そしてその音楽は、私の知る限り、その作り手である Trygve Seim という人を大いに反映しているような気がする。


Trygve Seim が Jan Garbarek の影響を受けサックスを演奏するようになったのはよく知られるエピソードで、音を聴いても、また彼がテナーとカーヴドソプラノを演奏するという点からも明らかだ。そんな彼に二次的に大きな影響を与えたのはフィンランドのドラマー/作曲家 Edward Vesala だ。Trygve Seim が Edward Vesala の音楽に事実上初めて触れたのはノルウェーのフェスティバルで彼のグループの演奏を目の当たりにした時のことだそうで、最初はその凄さが分からず、けれどその凄さを理解すべく慌ててアルバムを必死で聴いたと正直に告白してくれた。それからしばらく後、彼はその Edward Vesala に大抜擢される形で Iro Haarla を含めたトリオを結成。1999年にはスウェーデンのベーシスト Anders Jormin を加えグループはカルテットとなり、1999年7月、ノルウェー・コンクスベルグのフェスティバルでお披露目のコンサートを行ったが、それは Edward Vesala が同年11月に急逝することで最初で最後のコンサートになってしまう。Edward Vesala という存在がなくても、また Edward Vesala がこの世を去っていなくても Trygve Seim の現在は違ったものになっていたかもしれない。

Trygve Seim が Edward Vesala について、丁寧に言葉を選びながら話をしてくれたことがある。具体的にどういう影響を受けたかについては触れなかったが、Edward Vesala の人生、急逝した時のこと、彼と演奏したことについて話す彼の言葉の端々から、Edward Vesala への尊敬の念と受けた影響の大きさを感じさせられた。ファーストアルバム "Different Rivers" に "For Edward" というタイトルで Arve Henriksen とのデュオトラックを入れた彼は、その後 Edward Vesala の遺志を自らの音楽の中に継ぐようなユニットを2つ結成した。1つは Trygve Seim (sax), Anders Jormin (b), Frode Haltli (accor) によるノルウェー=スウェーデントリオ、もう1つは Trygve Seim (sax), Iro Haarla (harp, p), Jon Christensen (ds), Mathias Eick (tp), Uffe Krokfors (b) というノルウェー=フィンランドクインテットだ。前者についてはリハーサルをしたという話は聞いたが、私の知る限りライブ演奏は実現していない。そんなところへ登場した後者は、2004年9月にオスロでライブを行い、また既に ECM からのアルバムリリースを予定しているとレーベルが公表しており、今後 The Source の活動とともに注目されるユニットになりそうだ。


アルバム3曲目の "Beginning an Ending"、Arve Henriksen の吹く美しいメロディーが流れてきた瞬間、Trygve Seim のコンサートを見るために初めてノルウェーに行った時のことを思い出した。2001年7月のあの日のコンサートの最初の曲はこの曲だった。3年経ち、曲は少しだけアレンジが加えられている。3年前に1度聴いたきりの名前も知らないその曲を完璧に覚えていたことに驚いたが、それはこの曲がそれほどの曲だったということを物語っている。2003年2月、アルバムの最終仕上げにかかっていた彼の作業を見せてもらったが、その時彼が取り組んでいたのもこの曲だった。Trygve Seim の "Different Rivers" を自分の言葉で紹介するためにこのサイトを始め、それをライブで聴くためにノルウェーに行き、そこで出会ったミュージシャンや音楽に関わる人々に魅了され私はここまできてしまった。私にとって "Beginning a Beginning" な存在である彼の2作目を、私は自分の出来る限りの言葉で表現しようと長い間楽しみに待ち続けた。そして届けられた音楽は、音楽やそこから受けた印象を言葉にすることの無意味さと空しさをあっさりと知らしめる一方、それでもまた、無理と分かっていても、どうかして言葉にして誰かに伝えずにはいられない、そんな思いを抱かせるものだ。

- Tusen takk til Trygve & thanks to Steve.

home