(pickup 2004 vol 12 : 25 November 2004)

Humcrush strønen / storløkken : humcrush

Thomas Strønen : drums, electronics
Ståle Storløkken : keyboards, electronics
1. actobat
2. sport'n spice
3. dance!
4. in the cave
5. marked east
6. humcrush
7. spectral rock
8. pusher
9. japan


all tracks by strønen and storløkken except 4 and 9 by storløkken
recorded live at the cottage
mixed and produced by strønen and storløkken
mastered by audun strype at strype audio
cover design by kim hiorthøy


2004
Rune Grammofon
RCD2039

Thomas Strønen と Ståle Storløkken は対照的で、なのにどこか似ている。

2003年2月の最終月曜、オスロ。恒例の深夜セッションのステージに登場した2人は、ともにユーモラスなほど飄々としていた。キーボードに向かった1人はひょろりとしたのっぽ、ドラムに向かった相方はノルウェー人にしては小柄。まるでアニメのキャラクターか漫才コンビみたいな取り合わせだ。名前までも「ストレーネン/ストーレッケン」でリズミカルに韻を踏んで早口言葉みたいだ。Ståle Storløkken のキーボードはちょうどその前日の Supersilent のライブと時と同様、フェンダーローズの上にアナログシンセ、その上にシーケンサーの3段重ねで、その立体的なセットに向かう彼は、いかにもらしい鋭い音とフレーズで切り込んでくる。一方の Thomas Strønen はというと、比較的水平に並べられたドラムセットに加え、なにやら小道具を手元にたくさん置き、エレクトロニクスも多用。自分の音をモニターするためのヘッドホン着用で、鋭く切り込んでくるキーボードに対してあるときは淡々と、あるときはピタリと合わせ、時には自ら突っ込んでみたり、そしてまたひらりとかわして見せる。そのライブは私がこれまで見たことも聴いたこともない「面白い」音楽で、2人の間に交わされている目に見えないはずの音楽をもっとよく見ようといつの間にか伸び上がっていた。

レーベル Rune Grammofon というポイントから見るなら、ともにこのレーベルに所属する Food のドラマーと Supersilent のキーボードという取り合わせ。両ユニットの音は確かにこのデュオにも含まれる - Ståle Storløkken のキーボードの音は Supersilent を思わせる歪み方だし、Thomas Strønen のドラムは軽妙でかつ心地よく沈み込む。しかしこの2人の作り出す音楽は両ユニットの音とは随分違う。もっと自由で、本能的な楽しさに溢れた音楽、というと(両ユニットに対して)語弊があるだろうか。

もともとビートとタイミングを強く意識したキーボードを弾く Ståle Storløkken のカラーもあり、このデュオの音楽はとてもパーカッシブだ。そのビートはテクノ、ジャズ、ロック…といった幅広い音楽を飲み込んだもので、意外なほどとても聴きやすくポップな面も持ち合わせている。

エレクトロニクスとのクレジットが両者にあるけれど打ち込みのビートを使ったりするわけではなく、この2人がやりとりしている音楽はあくまで人間的だ。その瞬間的な反応は阿吽の呼吸以上のものがあり、安心して聞けるが結構アクロバティックなスリリングさもある。

最後のトラックのタイトル "Japan" について、この曲を書いた Ståle Storløkken にそのタイトルの理由を訊いてみた。何か深い意味でもあるのかと思ったのだけれど、「冒頭のメロディアスなテーマにペンタトニック・スケールを使っていて、それがちょっと日本を思わせるかな、と思って…それだけだよ」とのこと。このアルバムの中では異色の、透明感があって伸びやかで美しいメロディーは、日本風かどうかはさておき、印象的であることは確かだ。


thomas strønen : year 2004
フロントを煽る怒涛のポリリズミック・ドラミングの Paal Nilssen-Love、とてもジャズ的で音数を減らした時の上手さはナンバーワンの Per Oddvar Johansen、リリカルなピアノトリオからバルカン変拍子、それに凶暴なインプロまでらしくこなしてしまう Jarle Vespestad …とノルウェーには凄腕の若いドラマーがたくさんいる。その中でも個性的という点では群を抜いているのが Thomas Strønen (b. 1972) だ。

参加作をたくさん聞いてみても、音楽的にはまるでバラバラ、実に多種多様。特に Thomas Strønen 節などというのがあるわけではなく、その音楽に応じたドラミングができるプレイヤーだ。しかしそれらのユニットは、彼の参加でぐっと面白いものになったり、グルーヴィーになったり、ヴィヴィッドになったりする、そんな味のあるドラミングが彼の特徴だ。

また、Thomas Strønen は、ドラマーとしてのみではなく、作曲などを含めたトータルとしてのミュージシャンとしても注目すべき才能の持ち主だ。1999年にリリースされた Food のファーストアルバムで、ひときわ異彩を放っていたのは彼による2曲だった。4作目となる新作ではプロデューサーも兼ね、このユニークなグループの実質的なリーダーが実は彼であるということが全面に出てきている。

Thomas Strønen は多くのユニットでの活動の合間を縫って、ソロとしての活動もスタートさせている。ドラムとエレクトロニクスを操る Pohlitz という名前の独りプロジェクトで、フェスティバル出演を含めたライブ活動の他、既に一度スタジオに入り、アルバムの構想をまとめたという。来年2005年1月にはレコーディングを行い、2005年春頃にはリリース予定になっている。様々なユニットでの活動もさることながら、まだ聞いたことのないこのソロプロジェクトに好奇心がかき立てられる。

Thomas Strønen の今年のリリースは2004年11月現在で12枚にも及ぶ(追記:最後の1枚 Bayashi "Rock" が2005年1月のリリースとなったため、結局2004年のリリースは 11枚となった)。恐らく今年もっともたくさんのアルバムをリリースしたノルウェー人ジャズミュージシャンであり、その数もさることながら、その内容とそれぞれのアルバムでの彼の演奏も特筆すべきものがある。全てがフル参加作で、半分がノルウェー国外のミュージシャンとの共演。脚光を浴びるというのとはまた別だけれど、ノルウェーにとどまらず着実にヨーロッパにその活動範囲を広げつつあり、北欧を代表するドラマーの1人と言っても言い過ぎではないだろう。

Parish
"Rica"

(Challenge; CHR 70227)
Bobo Stenson (p)
Fredrik Ljungkvist (sax, cl)
Mats Eilertsen (b)
Thomas Strønen (ds)
スウェーデンのフロントにノルウェーのリズムセクションを合わせたユニットのファースト。2001年8月のオスロ・ジャズフェスティバルでの録音。Mats Eilertsen と Bobo Stenson のオリジナル に加え、 Sam Rivers "Beatrice"、そして Bill Evans "Very Early"。長尺ばかりの演奏で、透明感のあるリリカルさに適度にフリーを滲ませるバランスのとれた作品。(追記:次作はECMからリリース予定)
Anders Aarum Trio
"Absence In Mind"

(Jazzaway; JARCD004)
Anders Aarum (p)
Mats Eilertsen (b)
Thomas Strønen (ds)
オスロのシーンではライブなども数多くこなす、どちらかというとストレートアヘッド系のピアニストの、"The Lucky Strike" (2001; Hot Club; HCRCD2009) に続くセカンドアルバムで、Thomas Strønen はこの作品から加入。前作より意図的にフリーよりで北欧的なピアノトリオにシフトしたとのことで、ゆったりしたフリーフォームなアルバムになっている。
Ståhls Blå
"Schlachtplatte"

(Moserobie; MMPCD 024)
Mattias Ståhl (vib)
Joakim Milder (sax)
Filip Augustson (b)
Thomas Strønen (ds)
Håkon Kornstad (sax)
スウェーデン人ヴィブラフォン奏者のリーダー作で、"Ståhls Blå" (2001; Dragon; DTCD361) に続くセカンドアルバム。前作ではアルバムのアートワークを手がけていた Håkon Kornstad が4曲でゲスト参加している。Moserobie らしいといえばらしい、現代的なジャズ。サックスが2本入ったトラックの2人の吹き回しが面白いが、ヴィブラフォンが入るのであくまでクールな雰囲気。
Skomsork
"Skomsork"

(Park Grammofon; PGCD 101)
Erlend Skomsvoll (key)
Eirik Hegdal (sax)
Thomas T. Dahl (g)
Ole Marius Sandberg (b)
Thomas Strønen (ds)
Chikada String Quartet
Come Shine やビッグバンドのアレンジで注目されるコンポーザー/アレンジャー/ピアニスト Erlend Skomsvoll の、彼自身の名前を冠したグループのファーストアルバム。彼は意外なほどにアメリカのジャズにルーツを持っており、このアルバムでのエレピを使った曲にそれがよく表れている。でも何といってもハイライトは Thomas Strønen の刻む細かいビートにのって、ミニマルな現代音楽〜テクノを思わせるアコースティックなピアノが絡む格好いい#1。
Nora Brockstedt
"As Time Goes By"

(Jazzavdelingen; JACD101)
Nora Brockstedt (vo)
Einar Iversen (p)
Frode Nymo (sax)
Terje Venaas (b)
Thomas Strønen (ds)
1923年生まれというので今年で何と81歳というノルウェーの大ベテランシンガーのアルバム。アルバムタイトルからもわかるようにスタンダード集。ちゃんと2004年の現代的なアレンジで、それを粋に歌いこなすおば(あ)さまに敬服。
Phil Bancroft Quartet
"Headlong"

(Caber Music; Caber 034)
Phil Bancroft (sax)
Reid Anderson (b)
Mike Walker (g)
Thomas Strønen (ds)
スコットランドのサックス奏者、ニューヨークで活動するベーシスト、イギリス人ギタリスト、そしてノルウェー人ドラマーというインターナショナルなカルテットによるアルバム。アルバム冒頭の曲はほとんど Thomas Strønen のドラムだけのためにあるような1曲。メロディアスなものからフリー寄りのものまでバラエティーに富んでいる。
Mats Eilertsen
"Turanga"

(AIM; AIMCD 108)
Mats Eilertsen (b)
Ernst Reijseger (cel)
Fredrik Ljungkvist (sax, cl)
Thomas Strønen (ds)
Thomas Strønen とは長年(といっても2人ともまだ若いが)名コンビのベーシスト Mats Eilertsen の初リーダー作。それぞれのミュージシャンのカラーを最大限に活かした楽曲とアレンジの大変な力作だ。ジャズをベースに、より幅広いヨーロッパの音楽という印象を受ける。
Trinity
"Sparkling"

(Jazzaway; JARCD005)
Kjetil Møster (ts)
Ingebrigt Håker Flaten (b)
Thomas Strønen (ds)
オスロのシーンで今年大変注目された若いサックス奏者 Kjetil Møster を含むトリオのファーストアルバム。堂々とした吹き回しのテナー、重くなおかつ動きのあるベース、シャープなドラム。オスロ産フリージャズの実力を見せるスリリングなアルバム。
Food
"Last Supper"

(Rune Grammofon; RCD2041)
Thomas Strønen (ds, electr.)
Iain Ballamy (sax, electr.)
Mats Eilertsen (b, electr.)
Arve Henriksen (tp, voice, electr.)
"Food" (1999; Feral; ASFA 101), "Organic & GM Food" (2001; Feral; ASFA 104) に続く Rune Grammofon 移籍後初の前作 "Veggie" (2002) ではプロデューサーの Helge Sten のカラーもあり極端に RG 色が強かったが、今作では Thomas Strønen のプロデュースにより穏やかに落ち着いたユニークなアンサンブルを聞かせている。
SURD
"Live At Glenn Miller Café"

(Ayler; aylCD-020)
David Stackenäs (g)
Fredrik Nordström (ts, as)
Filip Augustson (b)
Thomas Strønen (ds)
Thomas Strønen 以外のメンバーはスウェーデン人のカルテットによるライブ盤。レコーディングの数日前になくなった Steve Lacy の "38" から始まるセッションの記録。中ほどに Portishead に捧げられたその名も "Head P" というヘビーバラードがある。ライブとあって、#5 の冒頭に Thomas Strønen による面白いドラムソロも。
Bayashi
"Rock"

(Jazzaway; JARCD007)
Vidar Johansen (sax, cl)
Bjørnar Andresen (b)
Thomas Strønen (ds)
スウェーデン Ayler Records からのライブ盤 "Help Is On Its Way" (2002) に続くセカンドアルバム。2004年10月2日に Bjørnar Andresen が急逝したためこのアルバムは遺作となった。2004年11月/12月リリース予定。

※ 追記: Bayashi "Rock" は 2005年1月にリリース、ただしCDのクレジットは 2004年。

Tusen Takk til Thomas og Ståle.

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