(pickup 2005 vol 1 : 28 January 2005)

Mats Eilertsen - Turanga
Ernst Reijseger
(cel)
Fredrik Ljungkvist
(sax, cl)
Thomas Strønen
(ds, per)
Mats Eilertsen
(b)



1. Rica
2. Oasis
3. Ambush
4. Sweet Snowflakes
5. Gamelange
6. Sukha
7. Monsoon
8. Visby
9. Impal
10. The Trade
11. Turanga
12. Solitude


All songs composed by Mats except:
#5 by Mats / Ernst
#3, 7, 9, 10 and 11 by Mats / Ernst / Fredrik / Thomas

Recorded, deleted and re-recorded by Jack Loveband at Waterfall Sudios

Mixed and mastered by Jan Erik Kongshaug at Rainbow Studios

Cover Design by Bjørn Thevik


2004; AIM Records
AIMCD 108
Mats Eilertsen (b. 1975) の初リーダー作のニュースには驚いた。リーダー作、というのに驚いたのではない、むしろ遅すぎたくらいだと思っている。首を捻ったのはベーシストのリーダー作にチェリストが入っている、ということだ。実際過去に例がないわけではないが、かなり珍しい部類に入る。ベーシストで、自らチェロも弾く人は多い。しかしこのアルバムの場合、チェロを弾くのはオランダの名手 Ernst Reijseger。ちょっと考えただけでもベースが目立たなくなってしまいそうだ。

もう1つ。普通、ノルウェーの若いミュージシャンの場合、リリース前に何らかフェスティバルへの出演があったりして、ああこんなプロジェクトが進行しているんだ、ということに事前に気づく。このアルバムの顔ぶれの場合はそれが全くなかった。Atomic のメンバーとして知られるスウェーデン人サックス奏者 Fredrik Ljungkvist はともかく、 どうしてここに Ernst Reijseger がいるのだろう?

届いたアルバム "Turanga" は、また謎を増やすものだった。一瞬凄いベースソロだな、とのけぞったら、もっと低いところでベースが鳴っていて、ああチェロだったのか、とちょっとほっとしている間に、チェロとベースがまた入り乱れる。短いタイトルが付けられた曲は、ノルウェー的でも北欧風でもない不思議な雰囲気を漂わせている。ジャズ、現代音楽、民俗音楽といった表現のどれにもおさまりきらない音楽。一体このアルバムはどういう作品なのだろうか。

このアルバムを何度も何度も聞き返すうちに、この音楽についてもっと知りたいと思った。現地の新聞などを片っ端から当たったが、このアルバムに関する有効な手がかりは見つかい。それなら、ということで Mats Eilertsen 本人にコンタクトを取ってみたら、快くこのアルバムについて話をしてくれることになった。

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■ アルバムタイトル "Turanga" はどういう意味?この手の質問にはうんざりかもしれないけれど…。

Mats Eilertsen: いや、全然!まずその言葉の響きが好きだったんだ。ちょっとミステリアスだろう?このタイトルはオリヴィエ・メシアンの「Turangalila Symphony (トゥランガリラ交響曲)」から取ったんだ。この交響曲は素晴らしい音楽で、東洋的、特にインドのリズムやフレーズがたくさん使われている。"Turanga" はサンスクリットで、動き、流れ、喜び、時間、ラブソング、生、死を意味するんだ。つまり一言で言えば「全て」…。

■ アルバムの顔ぶれはちょっと意外だったんだけれど…このカルテットで、例えばフェスティバルや何かで演奏したことはある?

M: いや、このセッション以前に一緒に演奏したことは一度もなかったんだ。もちろん Thomas (Strønen, ds) とは演奏したことがあるよ、でも他のメンバーとは初めてで、Ernst (Reijseger, cel) なんて僕たちのことを聞いたことすらなかったから、友達に当たって一体僕たちがどういう連中なのか調べるハメになったらしいよ。面白いだろう?で、それまで僕の頭の中にしかなかったアイディアが上手く行ったのは本当にスリリングだった。一緒に演奏してみたらとても上手く行って、それは素晴らしかった。曲もたくさん出来たしね!

■ 私の知る限り、ベーシストのリーダー作で、自分でチェロを弾く場合は別とすれば、チェリストが参加しているのはかなり珍しくて、でも結果的に Ernst とのコンビネーションはとても面白いものになっているよね。このアイディアは一体どこから?

M: 僕はずっとクラシックが大好きで、特にチェロが好きなんだ。もし生まれ変わるとして、その時まだアコースティックな楽器が存在していれば、僕はチェロを弾きたいと思っている。Ernst は imaginative で、物凄く supermusical な人なんだ。僕の楽器と「似たような」楽器を弾く彼と一緒に演奏できて本当に嬉しい。僕達はお互いの役目を時々入れ替えたり、単にミックスしたり、それに互いの音にブレンドしたりなんてこともできた。単にサポートするとかバッキングをやるとかいうんじゃなくてね。僕の理想は、このアルバムの場合は4人なんだけれど、その4人1人ずつを重要な「声」として捉えて、そう、ちょうど会話みたいにその時々で誰かが目立ったり、後ろに引っ込んでいたのが前面に出てきたりという風に、それぞれが持っている楽器から可能なオーケストレーションを引き出すことなんだ。

■ このアルバムで何かポイントに置いたことはある?

M: 僕の目標は、ある部分は楽器によって、そしてある部分はそれをまとめる作曲によって、ひとつの「音」、ひとつの「景色」、もしくは「色」に到達することなんだ。でもこのセッションではみんな素晴らしいインプロヴァイザーで、それぞれいいものを持っているから、作曲したものも、最初に顔を合わせた時のアイディアも、いろんな音楽に関する互いの興味とか音楽的なアプローチさえも超えたものになった。それらを穏やかに、そして他のメンバーとほぼ同じスピリットと色を保てたのは良かったと思う。

■ このカルテット以前にリーダーとして "Mingus Ahh! Uhm!" というグループをやってたよね。もちろん私は音を聴いたことがないんだけれど、少なくとも今のカルテットとは随分違う音楽だよね?
(※ Mingus Ahh! Uhm! は Mats Eilertsen (b), Håkon Kornstad (ts), Frode Nymo (as), Øyvind Brække (tb), Erlend Skomsvoll (p), Håkon Mjåset Johansen (ds) という今では考えられない凄い顔ぶれ。活動時期は 1999年〜2001年。)

M: これは(このアルバムとは)全く違う音楽で、Charles Mingus の音楽への敬愛からきたものなんだ。オリジナルにかなり近いアレンジでどんなものが演奏できるか試してみたかったんだ。もちろん最近あまり演奏されない彼の素晴らしい曲を演奏するという目的もあったね。あれはトリビュートで、とても楽しかった。でももうこのユニットではやっていない。将来、もしかしたらまたやってみたいと思うかもしれないけれど、その時は違う楽器編成で違うアプローチにになると思う。

■ プレイヤーとしての話を、ベーシストとして最も密接な関係にあるドラマーとのコンビネーションという点から聞かせてくれる?今、Per Oddvar Johansen と Thomas Strønen の2人と多くのグループで共演してるよね。

M: この2人のドラマーとは本当にかなりたくさん一緒にやっていて、共演を楽しんでるよ。彼らは常に supportiveimaginative だから、何が起こってもお互いにサポートやバックアップができる。だから彼らとやってると僕はいつも自由な演奏ができるんだ。例え僕が何をやっても、相手はサポートしてくれて、僕のプレイの反対とか、周辺とか、下とかに音を作り出してくる。時には僕の音を聴いてくれて、好きにさせてくれたりね。そういうことが分かっている、というのは僕にとってとても重要なんだ。それからもちろん、彼らは素晴らしいミュージシャンだよ、言うまでもないけれどね。

■ これからの予定とか、やってみたいことなどは?

M: 今2人のギタリスト Bjørn KlakeggNils-Olav Johansen との新しいプロジェクトをやっているんだ。このプロジェクトをとても楽しんでいて、そのうち何かリリースできたらと思っている。フィンランドのピアニスト Alexi Uomarila とベルギー人ドラマー Teun Verbruggen とのトリオも面白いよ。Kornstad Trio の新作も出るし、それから Parish (↓)の新作を ECM からリリースするんだけれど、ECM のシステムってのは遅くてね…。それから、もっとエレクトリック・ベースを弾いて、もっとエレクトリックな音楽もやってみたいと思っているんだ。アイディアは結構あるんだよ!

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それにしてもこのアルバムの Ernst Reijseger は凄い。どう凄いか表現するのは難しい。とにかく素晴らしい演奏をしている。その豊かな響きは、すぐ隣で Mats Eilertsen が憧れをもって聴いているのもよく分かるような気がする。

Fredrik Ljungkvist は、Atomic より彼自身のソロ作、特に最新作 "Yun Kan 12345" (2004; Caprice) での演奏に近い。音楽的なアプローチもいくらか共通するとも言えそうだ。音色は美しく、鋭く、穏やかながらどこか影も湛えている。

Mats Eilertsen を一番よく知っているミュージシャンである Thomas Strønen は繊細かつさりげなく大胆な演奏で、Mats Eilertsen の発言をそのまま実証するようでもある。

そして、このアルバムの主役 Mats Eilertsen は、何も知らずに音だけ聴いたら一番目立たない演奏をしているかもしれない。彼の発言の中、共演のミュージシャンを表現したものでどうしても日本語に置き換えることができなかった形容詞が3つある。 imaginative、supportive、そして supermusical。素晴らしいパートナーたちがそうであると同時に、彼自身もまたそれらの形容詞がぴったりくる音楽家なのだと思う。

Mats Eilertsen : Year 2004

Solveig Slettahjell Slow Motion Quintet
"Silver"

(Curling Legs; CLPCD80)
Solveig Slettahjell (vo)
Mats Eilertsen (b)
Sjur Miljeteig (tp)
Morten Qvenild (p)
Per Oddvar Johansen (ds)
"Slow Motion Orchestra" (2001) に続くセカンドアルバム。メンバーは前作から同じ顔ぶれで、微妙に個性のあるプレイヤーをとても上手に使っている。Mats Eilertsen に関しては "What Is This Thing Called Love" のクールなアレンジと "Time After Time" でのボーカルとのデュオなど、アレンジャーとしての才能も見せている。
Jacob Young
"Evening Falls"

(ECM 1876)
Jacob Young (g)
Mathias Eick (tp)
Vidar Johansen (bcl)
Mats Eilertsen (double-b)
Jon Christensen (ds)
Jacob Young の4作目で、初めてのECMへのレコーディング。Jacob Young 本人はさほど北欧的ではないギタリストだけれど、周りのノルウェー/北欧的な音の持ち主たちを上手く配し、とても ECM な仕上がりになっている。
Dingobats
"Follow"

(Jazzaway; jarcd003)
Eirik Hegdal (as, bs)
Njål Ølnes (ts)
Thomas T. Dahl (el-g)
Mats Eilertsen (double-b)
Sverre Gjørvad (ds)
実力派揃いのジャズロックバンドの、"The New Dingobats Generation" (1998; Turn Left), "Pöck" (2002; Bergland Productions) に続く3作目。辺拍子度も高めの個性的な音楽で、このアルバムは少しロックよりにシフトしている。
Parish
"Rica"

(Challenge; CHR 70227)
Bobo Stenson (p)
Fredrik Ljungkvist (sax, cl)
Mats Eilertsen (b)
Thomas Strønen (ds)
スウェーデンのフロントにノルウェーのリズムセクションを合わせたユニットのファーストで、オスロでのライブ録音。長尺ばかりの演奏で、透明感のあるリリカルさに適度にフリーを滲ませるバランスのとれた作品。#4 のタイトルトラックは Mats Eilertsen "Turanga" に別バージョンが収録されている。次作はECM からリリース予定。
Kornstad Trio + Axel Dörner
"Live From Kongsberg"

(Jazzland; 0602498128039)
Håkon Kornstad (ts)
Axel Dörner (tp)
Mats Eilertsen (b)
Paal Nilssen-Love (ds)
アナログ2枚組の限定ライブ盤。7曲のうち実に4曲が Mats Eilertsen のオリジナル。特に前半、A2〜B1 にかけての現代的なビートの曲がフロントそっちのけで格好いい。Mats Eilertsen のコンポーザーとしての才能が伺えるアルバム。
Anders Aarum Trio
"Absence In Mind"

(Jazzaway; JARCD004)
Anders Aarum (p)
Mats Eilertsen (b)
Thomas Strønen (ds)
どちらかというとストレートアヘッド系のピアニストの、"The Lucky Strike" (2001; Hot Club) に続くセカンドアルバム。前作より意図的にフリーよりで北欧的なピアノトリオにシフトしたとのことで、ゆったりしたフリーフォームなアルバムになっている。
Eldbjørg Raknes
"Många Röster Talar"

(Bergland; BE 011-2)
Eldbjørg Raknes (vo, live sampling)
Maria Kannegaard (el.p)
Mats Eilertsen (b)
Per Oddvar Johansen (drummachine, per)
ノルウェーきっての実力派女性シンガーの作品で、スウェーデンの女流詩人 Karin Boye の詞に音楽を付ける志向のため、歌詞は全てスウェーデン語。静かに歌うベースの音に存在感がある。Mats Eilertsen の2004年のリリース10枚の中で最も素晴らしいベースの音が堪能できるのがこの作品。
Food
"Last Supper"

(Rune Grammofon; RCD2041)
Thomas Strønen (ds, electr.)
Iain Ballamy (sax, electr.)
Mats Eilertsen (b, electr.)
Arve Henriksen (tp, voice, electr.)
"Food" (1999; Feral; ASFA 101), "Organic & GM Food" (2001; Feral; ASFA 104) に続く Rune Grammofon 移籍後初の前作 "Veggie" (2002) ではプロデューサーの Helge Sten のカラーもあり極端に RG 色が強かったが、今作では Thomas Strønen のプロデュースにより穏やかに落ち着いたユニークなアンサンブルを聞かせている。
Nils Økland
"Bris"

(Rune Grammofon; RCD2042)
Nils Økland (hardanger fiddle, viola d'amore, vln, vla)
Sigbjørn Apeland (harmonium)
Per Oddvar Johansen (per)
Håkon Mørch Stene (per)
Mats Eilertsen (double b)
トラッド出身のフィドル奏者の "Blå Harding" (1996; Morild), "Straum" (2000; Rune Grammofon) に続く3作目。Mats Eilertsen は初参加。鋭さと穏やかさを同時に持ち合わせ、トラッドとアバンギャルドを行き来する。ジャンルの異なる若い名手2人のパーカッショニストの演奏が効いている。

Tusen Takk til Mats.

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