(pickup 2005 vol 3 : 31 March 2005)
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in the country this was the pace of my heartbeat |
| morten qvenild (p, casio sk-10, vib) roger arnzen (double-b) pål hausken (ds, per timpani, autoharop, vo) with: arve henriksen (vo) 1. where can we go 2. beaver creek 3. tree canopy walkway 4. how to get acquainted 5. in my time of need 6. only the birds can see us 7. trio for quartet 8. 0883 oslo 9. aerial dark bright round 10. viggo 11. laschia ch'io pianga all tracks written by morten qvenild except track 11 by georg friedrich händel and track 5 by ryan adams a version of track 0 can also be found on the stix album of jaga jazzist producec by arve henriksen co-produced by in the country executive producer: rune kristoffersen recorded by janne hansson at atlantic studio december 7-8, 2004 mixed by janne hansson with morten qvenild and rune kristoffersen january 25-26, 2005 mastered by claes persson at crp recording januaty 27, 2005 sleeve design by kim hiothøy 2005; Rune Grammofon RCD 2045 www.inthecountry.no |
2004年10月に Susanna and the Magical Orchestra として来日した Morten Qvenild (26) が、その滞在最終日にカラオケを歌うのを目撃した。渋めの選曲もさることながら、曲の捉え方の上手さに驚いた。当然のことながら歌そのものは
Susanna Wallumrød のほうがずっと上手い。けれど Morten Qvenild の楽曲を捉える能力は驚くべきものだと感じた。思えば、彼は随分たくさんのボーカルユニットに参加している。Susanna
and the Magical Orchestra、Solveig Slettahjell Slow Motion Quintet、The National Bank、以前は Østenfor Sol というトラッド寄りのグループで2枚のアルバムリリースがある。この実績は彼の能力と決して無関係ではないはずだ。加えて、in the country の他の2人も ベーシスト Roger Arntzen (28) は先の Østenfor Sol の他、AIM Records からのデビュー作が国内盤化された Subsonic のメンバー、ドラマーの Pål Hausken (25) は Curling Legs からデビュー作をリリースした Hild Marie Kjarsem の TUB Quartet のメンバー、と皆ボーカル物への参加が多い。 その Østenfor Sol でも共に活動していた Morten Qvenild と Roger Arntzen はデュオでも演奏していたことがあるが、同じオスロ音大出身(在学中)の Pål Hausken とともに2003年にトリオを結成、このグループは程なくして in the country という名前になる。グループが注目を集めるにはさほど時間はかからなかった。ノルウェーで1年おきに行われる Jazzintro というコンペで優勝したのが2004年7月、彼らのライブを見た Rune Grammofon のオーナーRune Kristoffersen が気に入り、異例の速さでデビューアルバムリリースにこぎつけた。 2004年8月、その Jazzintro 優勝の副賞としての Oslo Jazzfestival (> ライブレポート) への出演の直前、Rune Kristoffersen に彼らがどんなグループなのか訊いてみた。Rune Kristoffersen はアコースティックなピアノトリオとしか言わない。ただ、「Rune Grammofon はジャズレーベルだと思っている人もいるみたいだけれど、実際彼らがレーベル初めてのアコースティックジャズのリリースになるね」、とニヤリとした。 Rune Grammofon のプレスリリースにはわざわざ「Keith Jarrett 系でないと言う意味で、in the country はありがちなピアノトリオではない」などと書かれている。影響を受けたとされているのは Paul Bley とノルウェーの Svein Finnerud で、もう1つ付け加えるなら、Morten Qvenild はオスロ音大在学中に Misha Alperin に師事したということだろう。鋭角的で硬質なタッチで切り込んでくる場面は確かにその影響を感じさせる。もっとも、ジャズというより現代音楽にも近い雰囲気ではあるが。 しかしそれよりも、「普通のピアノトリオ」とは全く発想が違う点のほうに注目すべきだ。in the country は、というより Morten Qvenild はシンガーソングライターから大きな影響を受けたと発言している。Susanna and the Magical Orchestra で(アルバムには収録されていないが) Leonard Cohen の曲を好んで取り上げ、アルバムでも Dolly Parton の "Jolene" に独創的な解釈を見せている。この in the country のアルバムで彼がピックアップしているのは Ryan Adams の "In My Time Of Need"。Ryan Adams のソロ1作目 "Heartbreaker" (2000; Bloodshot) に収録されている曲で、「もしもの時には僕を励ましてくれないか」という歌詞を持つ。アルバム中唯一のピアノソロで弾かれるこの Morten Qvenild のバージョンは原曲よりはるかにせつない。しかもぽつりぽつりと弾かれる素朴なピアノはまるでリビングで何気なく弾いているみたいにぱたりと止んでしまう。 "In My Time Of Need" 以外のオリジナルでも、バンド名さながらの牧歌的なメロディーが顔をのぞかせる。ストーリーを感じさせるその素朴なメロディーを丁寧に綴る。若いプレイヤーによるピアノトリオで、それぞれ実力派のミュージシャンだというのに、極端なまでに楽曲志向が強く、個々の演奏はそれらの楽曲を演奏するためだけにあるかのようだ。それぞれ素晴らしい演奏をしているし、特に一番若い Pål Hausken の自由でかつポイントを押さえた演奏は特筆に価すると思うが、このアルバムにおいては個々の演奏について長く述べることに意味はないと思う。 このアルバムを Arve Henriksen がプロデュースした、と聞いた時、驚くと同時に、この事実はこれまで in the country について気づいていなかった、厳密には無意識に気づいていたことをはっきりさせてくれた。両者に共通するのは「澄んだ空気」。もう少し突っ込んだ表現をするなら、「音楽の持つ澄んだまなざし」。同じ Rune Grammofon からソロ、Food、そして Supersilent として多くのアルバムをリリースする Arve Henriksen なだけに、レーベルの意向もあるのかと確認したところ、Arve Henriksen をプロデューサーに立てたのはグループの意向だとのことだ。 Arve Henriksen はこれまで、私の記憶にある限り他のアーティストの作品はおろか、自身のソロ作ですらプロデュースしたことはない。この in the country のファーストアルバムの収録曲の中で、レコーディング前の夏のライブの時の演奏と随分異なる、つまり Arve Henriksen が大きく関係したと思われる1曲が #10 の "Viggo" だ。ライブでは Pål Hausken と Roger Arntzen が静かに歌いだすその趣向は確かに新しかったが、曲そのものは特に目立つものではなかった。それがこのアルバムでは終盤のハイライトの1曲になっている。曲はライブよりもライブ感覚を強くしたラフな演奏にアレンジし直され、このトリオの若々しさや躍動感が伝わってくる。ボーカルでその Arve Henriksen が参加しているのはちょっとしたワンポイント程度だ。Morten Qvenild のダイナミックなピアノと素晴らしいメロディー、そして歌が共存するこの曲は、ジャズというより、ロック的なスピリットを感じる曲になっている。 そして最後はヘンデルの "laschia ch'io pianga" (意味は「私を泣かせてください」)。詰め物(ライブでは弦にガムテープを貼っていた)をしたピアノは簡易ハープシコードのような音をたて、美しいメロディーを奏で、アルバムは静かに終わる。 尚、アルバムタイトル"This Was The Pace Of My Heartbat" がどうして "This is ..." と現在形でなく "This was ..." と過去形なのかについて、Morten Qvenild 本人によると「アルバムタイトルはパーソナルなものにしたくて、このアルバムの音楽が生まれた瞬間を反映しているんだよ」とのことだ。 |