(pickup 2006 vol 2 : 6 March 2006)

Heidi Skjerve Quintet
Coming Home
01. Have You Forgotten?
02. Travel
03. Coming Homve
04. The Gypsy
05. Sunny Side
06. Legend
07. Hush Now
08. Subway Song
09. Solitude
10. Love's Philosophy
11. Spring


Heidi Skjerve (vo)
Espen Reinertsen (bcl, fl, ts)
Erlend Slettevoll (p, Fender rhodes)
Roger Arntzen (b)
Truls Rønning (ds)


Music and lyrics by Heidi Skjerve
Lyrics on 1 by Christian Rossetti
Lyrics on 9 by Ella Wheeler Wilcox
Lyrics on 10 by Percy Bysshe Shelley
Lyrics on 4 by Cuillaume Apollinaire, translated by Robert Chandler
Arrangements by Heidi Skjerve
Horn arrangements on 2 and 6 by Espen Reinartsen

Recorded at Fagerborg Studio by Per Sveinson, Octover 2nd-4th 2005
Mixed and mastered at Fersk Lyd by giert Clausen, December 2005, Januay 2006
Produced by Heidi Skjerve Quintet
Cover design and photos by Daniel Formo



2006; Curling Legs; CLPCD 96
例えば、このアルバムに収録されていない曲がラジオから流れてきたとする。果たして、それを聞いてすぐに声の主に思い当たるか、私は正直なところ自信がない。けれど、きっとどうしてもその声をもう一度聞きたくなり、何とかしてアーティスト名を調べることになるだろう。Heidi Skjerve はそんな声の持ち主だ。どちらかというとクールな佇まいだが、静かな芯の強さと、穏やかな温かさを感じる、微妙な色合いを持っている。


1979年生まれ、今年27歳になるシンガー Heidi Skjerve の声を初めて聴いたのは彼女がまだトロンハイム音楽院に在学中の2002年にリリースされた S.Møller Storband というビッグバンドの自主制作セカンドアルバム "Blokk 80" だった。アルバムの最後で Björk の "Army Of Me" を歌うその声は滑らかで繊細という印象で、その後不思議なくらい忘れることはなかった。

彼女の名前を見かたのはそれより前、2002年に行われた若いミュージシャンを対象としたジャズコンペ Jazzintro の最終8組の発表だった。Heidi Skjerve (vo), Kjetil Eide (p), Ole Morten Vågan (b), Truls Rønning (ds) というメンバー、まだカルテットだった彼女のリーダーグループは結局最終4組にまで残ることになる(ちなみにこの年グランプリを取ったのは Heidi Kjerve のグループのドラマーの別のグループ Solid! だった)。

2003年2月には by: Larm という、こちらはノルウェーの業界向けショーケースフェスへ出演している。このフェスティバルは主としてロック/ポップ系の若いアーティスト(とゲスト参加の有名アーティスト)が対象でジャズグループは本当に数えるほどだ。その by: Larm 出演の時のデモ音源を国営放送のサイト (>>) で今でも聴くことができ、今から聞き返すと彼女と彼女のグループの変化がよくわかる。

1999年に結成されたカルテットは2003年以降しばらく見かけない間に少しメンバーが入れ替わり、クインテットとなってようやくファーストアルバムのリリースとなる。


バスクラリネットとフルート、それにボーカルが短いフレーズをユニゾンでコーラスしてアルバムは始まる。途中ソロも挟まれるバスクラリネットの静かで深い音色は、カルテットからクインテットに替わったこのグループで決定的な大きな要素になっている。その Espen Reinertsen は Heidi Skjerven と同じくトロンハイムのジャズコース出身の若いプレイヤーで、最近は自身のカルテットでも活動している。

アルバムに収録されているのは11曲、全て Heidi Skjerve による作曲・アレンジ。曲によって楽器の編成を変えたりといったことはなく、アーティスト名どおりクインテットによる演奏という色合いが強い。しかし楽曲はとてもバラエティーに富んでおり、このグループの音楽を一言で言い表すのはとても難しい。#02、#04や #06はジャズというよりジャジーなテイストのポップスであり、#08 はそれをもっとジャズ寄りのものだ。#10 のようにアップテンポでスウィンギーな曲もある。一方冒頭の曲は静かなワルツ、#03 は静かなバラード、#05 は詩がメロディーに飛び乗ったかのようなフリースタイルなスローテンポの曲。いずれもナチュラルな美しいメロディーが一度聴いたらしっかり耳に残る。

最近のノルウェーのボーカルものは、その多くがジャズという狭い範疇に留まらない。Heidi Skjerve による楽曲も良質なポップスとして多くの人に聴かれるという意味で「越境」しているが、比較的ジャズらしさを残していると言えるだろう。楽曲やボーカルではなく、ドラマーの Truls Rønning のドラムが時折ほんの少しちらりとロック色を覗かせるのが面白い。彼はこの Heidi Skjerve Quintet より一足先にデビュー作をリリースした先述のオルガントリオ Solid! のメンバーとして知られる。

ボーカルに一番近いところにおり、とても控えめに澄んだ音を聞かせるのは Erlend Slettevoll。カルテット The Core ではモーダルなジャズでひたすらグルーヴを追求するエネルギッシュな演奏を見せるが、ここでは全く違うサイドを見せる。

リード奏者が入ったことと並んで、ベースが前任の Ole Morten Vågan から Roger Arntzen に替わったこともとても大きなポイントだ。Ole Morten Vågan はダイナミックな音で、Roger Arntzen はもっとオーソドックスな音ながら、両者ともにバンドの音全体を動かせるフレーズを得意としている。Roger Arntzen はボーカル入りのSubtonic や歌心のあるピアノトリオ In The Country のメンバーでもあり、この Heidi Skjerve Quintet が部分的に、In The Country にボーカルが入ったらこんな感じか、と思わせるのはきっと彼のセンスによるところだろう。


演奏と歌以外に、歌詞もこのグループのユニークなポイントだ。#01 ではイギリスの詩人 Christina Rosetti (1830-1894)、#04 はイタリアの詩人/作家 Guillaume Apollinairre (1880-1918) の詩を英訳したもの、#07 は新約聖書マタイ伝の一節にインスパイアされたもの、#09 はアメリカの詩人 Ella Wheeler Wilcox (1850-1919)、#10 はイギリスの詩人 Percy Bysshe Shelley (1792-1822) に楽曲を付けたものだ。残りの6曲は Heidi Skjerve の自作、全て英語。それらは全く違和感なくならんでおり、例えば意外にも一番「詩」を感じる #05 などは自作である。


素晴らしい声の持ち主、詩に対するセンス、そして優れたソングライティング能力に加え、バンドによるセルフプロデュースでここまで高いレベルにまとめ上げられたファーストアルバム。4年前に彼女の声を耳にした時は、2年くらいで知られるようになるだろうと思ったが、少し遠回りするように結成から7年の歳月を費やしてのデビューとなった。多くの、そしてできれば幅広い人に聴かれてほしい、と思う。
>> Heidi Skjerve
>> Heidi Skjerve Quintet @ myspace.com
>> "Coming Home" @ musiconline.no
>> Curling Legs



more with Heidi Skjerve:

S.Møller Storband
"Circular Movements"

(2001; S.Møller Storband;
SMØP - 2001/01)

S.Møller med Ståle Storløkken og Tor Yttredal
"Blokk 80"

(2002; S.Møller Storband;
SMØP - 2002/02)
S.Møller Storband (storband はノルウェー語で「ビッグバンド」) は1974年にトロンハイムで結成された歴史あるビッグバンド。メンバーは流動的で地元のジャズコースの若いミュージシャンが中心、ゲストで有名なミュージシャンが参加することもある。学生といっても名門だけあり演奏はレベルが高い。音楽はかなりモダンな感覚のもので面白い。

Ståle Storløkken がシンセで参加し、Tor Yttredal がリーダーを務める "Blokk 80" のほうはこの2人の趣味が出たジャズロック作。Tor Yttredal のオリジナルの他、Weather Report の "Mt. Gone" や "Gibraltar"、"Mysterious Traveller" などを演っており、最後は Björk の "Army Of Me"。Heidi Skjerve の声はさすがに今から聴くと若い。他にドラマーの Truls Rønning も両アルバムに参加している。

尚、2人は参加していないがバンドは2004年に結成30年記念となる "Urban Ghost" (Sonor) をリリースしており、こちらは自主制作でないため比較的手に入りやすい。


Flukt
"Spill"

(2002; 2L; 2L8)
Sturla Eide Sundli (fiddel), Øivind Farmen (accor), Sondre Meisfjord (b) によるトラッドトリオ Flukt のファーストアルバム。Sondre Meisfjord は Come Shine のメンバーだが、同じく Come Shine のリーダー格 Erlend Skomsvoll がハーモニウムで参加している。Heidi Skjerve は14曲中3曲のみの参加で、トラッドな歌唱を聞かせる。彼女のオフィシャルサイトには比較的新しいトラッドの音源(サーミの音楽ヨイクまである)が置かれており、自身のクインテットではほとんど表に出ないものの、トラッドをきちんと押さえているシンガーであることがわかる。彼女の祖父による歌詞に彼女自身が曲を付けるという試みも行っており、そのうちの1曲である最終トラックは 2002年のノルウェー王女の結婚式で採用されたという。歌唱こそトラッド寄りのこぶしが入るスタイルだが、彼女のクインテットにもつながる発想のコンセプトだ。

尚、Flukt は Sondre Meisfjord が抜け、トラッド畑のドラマーが入りセカンドアルバム "Drufiacc" (2004; 2L) をリリースしている。ジャケットも中身も面白いが、やはり完全にトラッド側にシフトしてしまっている。

other projects: - Northeran Alliance: フィンランド、ドイツ、アイスランド、アルゼンチン/スイス、それにノルウェー人である Heidi Skjerve を含むインプログループ。

- Trondheim Voices: その名の通り、トロンハイムを拠点にする、またはトロンハイムで学んだなどゆいかりの女性シンガー15〜20人によるユニット(+数人の楽器隊)で、有名なところでは Live Maria RoggenSolverg Slettahjell なども参加している。多くのフェスティバに出演。

- Trondheim Jazz Orchestra: バンドリーダーによりメンバーと編成、それにコンセプトが変わる、かなりの実力派メンバーが揃う国内有数のプロのビッグバンド、今年はニューヨーク公演まで行っている。これまでに Chick Corea / Erlend Skomsvoll による "Live In Molde" (2005; MNJ Records) と Eirik Hegdal による "We Are?" (2005; Jazzaway) がリリースされているのみで、Heidi Skjerve が参加している編成の時のレコーディングはない。

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