(pickup 2006 vol 8 : 20 November 2006)
![]() |
Eyewaterlillies - Slant of Light |
| 1. Intro 2. The Sun just touched the Morning 3. Draw me a Robin 4. The Bee 5. Again his voice is at the door 6. The drop of Anguish 7. Life's Bouquet 8. One so shy 9. He touched me 10. There's a certain Slant of light 11. Going to Heaven! Lyrics by Emily Dickinson (The complete poems of Emily Dickinson) Track 5, 6 and 10 written by Petter Vågen, Track 9 written by Ingrid Lode, Track 2, 3, 4, 7, 8 and 11 written by Petter Vågan and Ingridk Lode, Track 1 by Eivind Nordset Lønning and Andreas Amundsen. Recorded at Musikkloftet in Oslo 18.-20. April 2006. Mixed and mastered by Reidar Skår at 7 Etage. Produced by Eyewaterlillies and Jon Klette. Sleeve design and photos by Andreas Paleologos. Photos of Ingrid Lode (cover and inlay) by Frode Sørskaar. 2006; Jazzaway JARCD 028 >> Eyewaterlillies @ Myspace.com >> Eyewaterlillies @ musiconline.no |
Ingrid Lode (vo) Petter Vågan (g, effects, lapsteel) Eivind Nordset Lønning (tp, effects) Andreas Amundsen (b) ノルウェーはもともとネット先進国で、音楽シーンの事情もおおかたネット上で入手することができるのは以前から変わらない(ただしその大半がノルウェー語だが)。ただここ1年ほどで大きく変わったのは MySpace の流行だ。国外でも名前を知られるアーティストからまだ学生のミュージシャンまで様々なアーティストの音源が聴ける他、注意深く見れば彼らの人脈を伺い知ることもできる。その MySpace がノルウェーで流行る前まではノルウェーの国営放送 NRK の Urørt というページが音源、スケジュール、友達リスト、メッセージボードなどを備え、ちょうど MySpace と同じ役割を果たしていた。昨年そのページを眺めていて偶然見つけたのがこの Eyewaterlillies だ。目を留めたのはそのバンド名、クラシカルでちょっと文学的な雰囲気を漂わせたグループ写真、そしてギタリストの名前、と直接音楽とは関係ないことばかりだったが、何か特別な印象を受けたことだけは確かだ。 私がそのグループをマークし始めてから1年で、若いメンバーたちは次々にシーンの表舞台に浮上してきた。まずは紅一点のヴォーカリスト Ingrid Lode が NOR-CD から Kobert というグループで一足先にデビュー。キーボード奏者 Daniel Formo とスウェーデン出身でノルウェーを拠点に活動するドラマー Erik Nylander という注目のミュージシャンと組んだポエティックなトリオだ。 次に彼らが注目されたのは Jazzintro という、ノルウェーの若いジャズグループを対象としたコンペ(2006年度)の最終8組に選出されたことだ。残念ながら彼らはベスト8止まりだったが、むしろそれにより勝ち残ったグループのレベルの高さを知ることになった(尚、Ingrid Rode は先の Kobert で2004年度のベスト4に残っている他、Andreas Amundsen も複数のグループで両年度のベスト8に残っている)。 一方、早くも日本に来て演奏する機会を掴んだメンバーもいる。2006年9月に行われた東京JAZZ 2006で Chick Corea と共演するために Trondheim Jazz Orchestra が来日したが、オリジナルのラインナップで唯一都合がつかなかった Mathias Eick の代役として参加したのが Eivind Nordset Lønning だ。彼は最近のいくつかの別の編成での TJO のメンバーでもある。Eyewaterlillies と同じく Jazzaway から今年リリースされたこちらも女性ボーカルを擁するクインテット Florebius で音を聴いていたはずだが、東京JAZZ のステージのアンコール、"Spain" でのほんのわずかの見せ場でのインパクトは大きかった。Erlend Skomsvoll / TJO バージョンの "Spain" の肝であるスローパート(この部分は psalm、「賛美歌」と呼ばれている)でとてもノルウェー的なブラスアンサンブルをリードした印象的なフレージング、具体的には美しい音色による高音のパートの大胆な「崩し方」が、いかにも彼らしいものだというのは、直後にリリースされたこのアルバムで分かることになる。 アルバムは静かでフリースタイルながら美しい音響セッション "Intro" から始まり、その後は全て Emily Dickinson (アメリカ、1830-1886)の詩にメンバーが音楽を付けたものが並ぶ。詩人の詩作に楽曲をつける試みをするノルウェーの若いジャズシンガー(特に女性シンガー)は多く、スタンダードナンバーを歌うケースより目立つくらいだ。彼らの母国語が英語でないことにも一因があるだろうが、他国、特にアメリカのジャズシンガーと比較しても興味深い傾向だ。 Eyewaterlillies の音楽もまたそれぞれの楽曲が一遍の詩のようである。ボーカルは詩を朗読するように静かにメロディーをなぞり、ギター、トランペット、ベースはいずれも相当に音数を絞り、それぞれの絡みも最小限。ただし重なる箇所はそれぞれの楽器の響きの差すら感じないくらい見事にその跡を合わせてくる。基本的にアコースティックな楽器の音色を重視しており、録音もその手触りを残すよう配慮されており、クレジットされているエフェクト類は最小限だ。しかしこのように書き表すと、何かとっつきにくい難しさを感じるかもしれないが、決してそうではない。彼らの音楽は、分かりやすいメロディーと美しい音による、ポップといってもいいほどの親しみ安さも持ち合わせている。 グループは2002年に結成され、当時はボーカルとギターのデュオだったそうだ。先に「ギタリストの名前に目を留めた」と書いたが、Petter Vågan はその名前から推測されるように、Motif などで知られるベーシスト Ole Morten Vågan の実弟だ。彼は既にに自身のグループも率いており、そちらは Ingrid Lode 以外の3人のメンバーに先の Kobert のドラマー Erik Nylander を加えた顔ぶれだ。この Petter Vågan とベーシスト Andreas Amundsen にとってはこのアルバムが初めての本格的なレコーディング作品となる。 1980年代生まれのメンバーは、結成時は20歳そこそこ、今でも20代半ばととても若いが、トロンハイムの音楽院出身ということで既に技術力云々というレベルでない表現力を持ち、しかもそれぞれの演奏は極めて控えめで、静かで音数の少ない音楽をまとめるセンスも見せる。静かで詩的な雰囲気、ということで、個人的には決して安易には使わない「ECM を思わせる」という表現が何度も頭を過ぎったが、Ingrid Lode のボーカルが素直なチャーミングさを湛えている点で、ポジティブに ECM とは異なる。 彼らが今後も Emily Dickinson の詩に音楽をつけるスタイルを続けるのか、それぞれのメンバーがこの先、例えば5年程の間にどれくらいシーンで注目される存在になるのか、また既に幅広いスタイルの音楽に取り組んでいる若い彼らが、どの方向性に焦点を絞っていくのか、後々彼らのごく初期のアルバムとしてこのアルバムはどのような位置づけとなるのか。この作品は、まだ誰も、恐らく彼ら本人達も知らないであろうこれからの様々な可能性を期待させるデビュー作である。 |