(pickup 2010 vol 2 : 23 february 2010)

Fabula Suite Lugano
Christian Wallumrød Ensemble

Christian Wallumrød
(p, harmonium, toy piano)
Eivind Lønning
(tp)
Gjermund Larsen
(vln, Hardanger fiddle, vla)
Tanja Orning
(cel)
Giovanna Pessi
(baroque harp)
Per Oddvar Johansen
(ds, per, glockenspiel)


1. Solemn Mosquitoes (5:10)
2. Pling (7:46)
3. Drum (1:53)
4. Jumpa (3:04)
5. Dancing Deputies (3:04)
6. Quote Funebre (3:55)
7. Scarlatti Sonata (1:53)
8. Snake (3:49)
9. Knit (2:45)
10. Duo (1:50)
11. I Had A Mother Who Could Swim (2:58)
12. Blop (4:07)
13. The Gloom And The Best Man (6:12)
14. Jumpa #2 (2:33)
15. Valse Dolcissima (5:52)
16. Glissando (2:40)
17. Mosquito Curtain Call (2:06)
18. Solo (2:44)


All Composition by Christian Wallumrød
exept
Drum by Per Oddvar Johansen,
Scarlatti Sonata by Domenico Scarlatti,
arranged by Christian Wallumrød,
Duo by Gjermund Larsen / Eivind Lønning
and Mosquito Curtain Call by Tanja Orning / Giovanna Pessi

Recorded June 2009
Auditorio Radio Svizzere, Lugano
Tonmeister: Markus Heiland
Cover Photo: Eberhard Ross
Liner Photos: Daniel Vass
Design: Sascha Kleis
Produced by Manfred Eicher



2009; ECM 2118

現在 Christian Wallumrød Ensemble という名前のアンサンブルは2つあり、1つが Christian Wallumrød (p), Arve Henriksen (tp), Nils Økland (vln, Hardanger fiddle), Per Oddvar Johansen (per, ds) のカルテットで、"Sofienberg Variations” (2003) と "A Year From Easter" (2005) の2枚のリリースがある。一方、形の上ではこのアンサンブルに2人のミュージシャンを足した格好のセクステットでは、"The Zoo Is Far" (2007) のリリースがある。形の上では、というのは両者のフィドル奏者が異なるからで、カルテットのほうは Christian Wallumrød より1回り年上の Nils Økland、セクステットのほうは Christian Wallumrød より10歳年下の若い Gjermund Larsen だ。いずれもトラッド出身のフィドル奏者だが、カラーはかなり異なる。違いは Gjermund Larsen が2008年にリリースした初リーダー作 "Ankomst" (Grappa)、Nils Økland が Rune Grammofon から ECM に移籍してリリースしたソロ作 "Monograph" (2009)、それに 1982 というトリオ名義 (Sigbjørn Apeland (org), Øyvind Skarbø (per), Nils Økland (vln, Hardanger fiddle) でリリースした同名の作品 (NORCD, 2009) の違いに顕著だ。前者はトラッドを伸びやかに、現代的に演奏するはつらつとした作品、一方の Nils Økland の2作品は、表面は穏やかながら、奥深くラディカルな精神が見え隠れする。

セクステットの前作を聴いた時は、カルテットとの「違い」のほうが耳に止まった。長短様々な楽曲は彼のこれまでのカルテット作に比べて分かりやすいと感じられた。そのセクステット作を聴いた後、2009年7月に久しぶりにカルテットをライブで見る機会に恵まれた。最初にこのカルテットを観たのはファーストアルバム "Sofienberg Variations" リリース直後の2003年2月のことなので、5年半ぶりのことである。2005年以降アルバムリリースがなく、セクステットの裏でライブ活動のみ続けていたこのカルテットは、驚くことに5年半前と同じ曲を多く演奏していた。私は、同じメンバーで楽曲を静かに熟成させるという彼の音楽の追求の仕方に、非常に強い印象を受けた。

2008年秋、セクステットから Arve Henriksen が脱退、代わりに一世代若い Eivind Nordset Lønning が加入した。Christian Wallumrød の ECM デビュー作 "No Birch" (1998) 以来、カルテット、セクステットを通して活動を共にしていた Arve Henriksen の脱退は確かに驚いたが、代わりの Eivind Lønning の名前を聞き、なんとなく理解できる流れのようにも感じられた。Eivind Lønning は比較的静かな即興演奏のアンサンブルを得意としており、このセクステットには今の Arve Henriksen より彼のほうが向いているとすら思う。

そして2009年6月にスイスのルガーノで録音されたセクステットによる新作は、リリース待ちの時間が長い のが常の ECM にしては異例の速さで同年秋にリリースされた。先行するカルテットの活動とは異なり、前作から2年で全く新しいマテリアルを一揃えしての新作だ。一聴しての印象は、楽器の構成それを生かす細かなアイディアや短めの楽曲を紡ぐようにつなぐアイディアはそのままに、音楽全体の印象はカルテットの印象に近づいたというものだ。もっとも、それは「美しいが、さらりと聴きやすくはない」ということに他ならないのだが。

18曲(タイトルから想像されるとおり、同一の曲が複数納められている箇所はあるが)の短めのマテリアルは、全体を通してバランスよく配置されている。例えば、比較的きっちりと書かれ、はっきりした輪郭を持つ目立つ楽曲をフルアンサンブルで演奏するトラックは#1、#4、#7、#11、#14に配置され、その間には、ソロやデュオのように楽器の数を絞ったもの、インプロを含むと思われる演奏などアンサンブルの様々な引き出しを垣間見せるトラックが並べられている。曲の並べ方について、ECM のウェブサイトに掲載されたインタビューで Christian Walumrød が興味深いことを述べている(ちなみにこのインタビューは通常のプレスリリースに代わるもので、前作でもライナーノート替わりに同じインタビュアーによるロングインタビューが掲載されていたが、これはミュージシャン本人の希望、もしくはレーベルの意向なのだろうか)。それによると、楽曲の順はコンサートやリハーサルでの曲順をもとに既にかなり確定していたが、"Solemn Mosquitoes" を冒頭に持ってくるというのは Manfred Eicher とのミキシング作業の中で決定されたのだという。確かに、唐突に華やかに始まるこのオープニングトラックは意表を突くものだ。

Christian Wallumrød の音楽は、もう改めて説明するまでもなく、ジャズの範疇を大きく超えている。本作ではこれまでの作品以上にそれを強く感じる。ただし即興演奏の部分は残されており、書かれた部分が多い音楽の割には、個々のミュージシャンに与えられた自由なスペースも結構あるように感じられる。また、それに相反するようだが、音楽はますますアンサンブル志向が強くなり、ソロと言ってもあくまでアンサンブルの一部が鳴っているといった風だ。

音楽は無国籍で多国籍なフリーフォームのチェンバーミュージックといった出で立ちで、現代音楽、バロック音楽、即興音楽、トラッド等々、多くのものがシームレスに融合され、なおかつ「Christian Wallumrødらしい」とでも言うしかない、澄んでいて、ひんやりしているようであたたかく、どこかとても遠くで懐かしいような感覚をわずかに覚える音楽を静かに展開する。それを安易に北欧的、と言うのは簡単だがここではそれを避けておきたい。また、ゆらり、と音が色合いを変化させるかのようにゆらめく瞬間(複数の弦楽器による、音程と音程の間を滑るような音)や、一つ一つの楽器の響きにはっとさせられる場面も多い。

それぞれの曲のタイトルやアイディアについて、前述のインタビューでも触れられているが、そういった情報はなくてもよいかもしれない。背景を知ることはもちろんとても興味深いのだが、知ったところでこの音楽を説明することにならないような気がするからだ。アルバムタイトルは "Fabula Suite Lugano" ー ルガーノ組曲の物語、といったところだろうか。この繊細な音楽に注意深く耳を傾け、自由に物語のイメージを膨らませる、または全くイメージにすら頼らず、音のみに集中してしまうのが、もっともこの音楽をよく捉えられる聴き方ではないかと思う。


>> Christian Wallumrød
>> Christian Wallumrød Ensemble @ MySpace

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