<< 2004 Vol. 4 (2004/03/16) >>

1991-2001, the first decade of deathprod

Helge Sten。トロンハイムの南東、スウェーデンの国境に近い Røros という町の出身、33歳。箱もブックレットもデジパックのケースもそしてディスクも全て真っ黒なこの4枚組ボックスセットは彼の 1991 年から 2001年までの音源を集めたもの。

reference frequencies

1991-2001

1995


1997
"reference frequencies #3, 5, 7, 8" (1991), "6.15" (2001), "la luna", "a shortcut to the stars" (ともに1995年), "dora 3" (1997) を収録(曲順はこのとおりではない)。レアトラック集。

"reference frequencies" は初めて "deathprod" という名前でリリースされた音源で、当時は彼のカセット音源をリリースするレーベルの名前だった。4曲のうち "#5" のみ未発表曲。アメリカ出身の詩人 Matt Burt が詩の朗読をする "6.15" は意外にも新しい音源。現在の彼のスタイルに最も近いと言える、揺れるような音像を描き出すのが "dora 3" 。間に挟まれる 1995年の音源2曲は Helge Sten が以前に参加していたロックバンド Motorpsycho のアルバム "Blissard" (1996) のレコーディングセッション中に録られたもの。名義は The Jürg Mager Trio で、顔ぶれは Deathprod の他、Motorpsycho のギタリスト Hans Magnus "Snah" Ryan (ここではハモンドオルガンとドラムを担当)と同じくベーシスト Bent Sæther (ここではドラムとパーカッションを担当)。クリスマスプレゼントとして 500枚限定でプレスされた7インチシングル。音はハモンドオルガンとドラムをメインにした不思議な音楽で、この2トラックのみアンビエント度は極端に低い。
treetop drive

1993-1994

1994
1994年10月、Voices Of Wonder という北欧では大手のインディーレーベルのサブレーベル Metal Art Disco からリリースされた Deathprod 名義での初ソロアルバム。"treetop drive 1, 2, 3" (1993年録音)と "Towboat" (1994年録音)の4トラック。オリジナルはジュエルケース(普通の透明CDケース)に、半透明の紙に両面刷りの凝ったアートワークのジャケットが入れられている。500枚限定でリリースされた。

1992年(だったと思うのだけれど、確かではない)から Helge Sten はトロンハイムの芸術アカデミーで学ぶようになり、その頃から Motorpsycho のメンバーとしても活動、ヘビーだった頃の Motorpsycho の名作 "Demon Box" (1993) をリリースする。その後現在に至るまでプロデューサーなどでバンドへは貢献するものの、メンバーとしてはすぐに脱退。その直後にレコーディングされたのがこのソロアルバム。

その Motorpsycho のギタリスト Snah こと Hans Magnus Ryan がギターではなくヴァイオリンで参加している以外は全て Helge Sten による音(ただし "treetop drive 3" で恐らく事前に録音されると思われる Matt Burt の朗読が入る)。静かなストリングの短いモチーフで始まり、それが何度も繰り返されるようでいて、実はらせん状に進み、少しずつ変化していく。音響系とかアンビエントといった種類の音楽でとても寒々とした幻影が浮かび、ムンクの「叫び」を彷彿とさせるような(特にヴァイオリンの音)、静かな狂気がだんだんと広がってくる。"treetop drive" の3曲は芸術アカデミーでのコンサートをDATに録音したもので、そのとてもライブとは思えない音に驚かされる。
imaginary songs
from tristan da cunha


1996

1996
1996年夏、オスロの DBUT というレーベルからリリースされた Deathprod 名義でのセカンドアルバム。"burntwood", "stony beach", "hotentott gulch", "boatharbour bay, "the contraceptive briefcase II" の5曲を収録。オリジナルはダンボール紙の中紙のような紙ケース(手作りだそうだ)で、中に、曲名やクレジットを表記した厚紙が1枚入っている。盤は真っ白で何も書かれていない。500枚限定で、中の紙にナンバリングされている。

1996年3月9日、オスロの Rockefeller という大きなホールでのライブ録音を収めたもの。Helge Sten の、トロンハイム芸術アカデミー卒業制作でもある。

トータルで40分弱、全5曲のうち最初の4曲はいずれも2分弱程度の短いスケッチ風の短編で、乾いた手触りの無国籍でミニマルな音楽。メインとなる5曲目 "The Contraceptive Briefcase II" は Helge Sten らしいアンビエントで、ゆらりゆらりとした音響の中、女性ボーカルもまるで「音」の1つのように響く。どこまでも深く底が見えない淵を覗き込んでいるかのような感覚を覚える。揺れながらも静かに盛り上がったり、またすうっと引いていく、それが30分以上も緊張感が途切れず、時間が経つのを忘れた頃にどっと拍手と歓声が沸き起こる。
1997年、Rune Kristoffersen が Helge Sten を彼のスタジオに訪ね、新しいレーベルについてのアイディアについて相談を持ちかけた。そこで Helge Sten が話したのがベルゲンで行われる Nattjazz というフェスティバルへ出演についてだった。トロンハイム音楽院で 1989年に結成され、アルバムも1枚リリースしていたインプロトリオ Veslefrekk の3人 − Ståle Storløkken, Arve Henriksen, Jarle Vespestad − との共演によるセッションは "Veslefrekk with Deathprod" という名義で 1997年5月31日に行われ、その演奏を目撃した Rune Kristoffersen はその場で彼らと契約、翌年、新しいレーベル Rune Grammofon は、 Supersilent と名づけられたそのグループのスタジオライブ3枚組という大胆な作品で第一歩を踏み出すことになる。

Helge Sten は Rune Grammofon から Supersilent のメンバーとして、もう少し付け加えるなら最も若いメンバーながら明らかにリーダーとして、 "1-3" (1998) , "4" (1998), "5" (2001) そして "6" (2003) という4枚の作品をリリースしている。さらにノルウェーアンビエントの先輩ともいうべき Biosphere こと Geir Jenssen と、ノルウェーエレクトロニカ/現代音楽のさらに先駆者 Arne Nordheim のエレクトロアコースティック作品をリミックスしたスプリットアルバム "Nordheim Transformed" (1998) を発表している。

Rune Grammofon のカタログの中では他に2枚のコンピレーションアルバム "Love Comes Shining Over Mountains" (1999) と "Money Will Ruin Everything" (2003) への参加、Supersilent のメンバー Arve Henriksen のソロ作 "Sakuteiki" (2001) のプロデュース、その Arve Henriksen も参加するカルテット Food の "Veggie" (2002) ではプロデュースの他、1曲 Food の音源をリミックスした彼らしいトラックを提供している。最近では Susanna and Magical Orchestra (シンガーの Susanna Wallumrød は Helge Sten のパートナーでもある)のデビュー作 "List of Lights And Buoys" (2004) の共同プロデュースも手がけている。

他のレーベルへの重要な作品は Jazzkammer の2人 John HegreLasse Marhaug とのスプリットアルバム "The Comfort Of Objects" (199; OHM Records)、Sidsel EndresenChristian Wallumrød のデュオユニットに加わった "Merriwinkle" (2004; Jazzland) など。

morals and dogma

1994-2000
"tron" (2000年秋録音), "dead people's things" (1994年録音), "orgone donor" (1996年9月録音), "cloudchamber" (2000年秋) の4曲収録。基本的にはリリースされていない音源ばかりだが、"cloudchamer" は 2001年、イギリス The Wire 誌 211号 (2001年9月号) 付属の Rune Grammofon レーベルのコンピレーションCD "Runeology" に収録されたもの。

一番古い録音の "dead people's things" は、Motorpsycho の Hans Magnus "Snah" Ryan の弾くヴァイオリンと Helge Sten 自身の "audiovirus" による 18分を超える大作。Helge Sten らしい荒涼とした、けれど映像的な音響の中、ヴァイオリンの弦のこすれる音と人の声のようにも聞こえる音がゆらゆらと漂う。"orgone donor" は作曲・演奏とも Hans Magnus Ryan と Ole Henrik Moe の2人のクレジット。元々 Hans Magnus Ryan のハーモニウムソロとして録音されたものに後からヴァイオリンが加えられている。同じ揺れるような音響物でも、この曲はかなり暖色系。どこかノスタルジックな響きもある。この2曲を挟むように配置されている "tron" と "cloudchamber" はともにダンスパフォーマンスのために作曲されたもの。特別にミニマルなアンビエントで、ダークな、潜在意識の奥底から呼び覚まされたような静かな音が広がる。

"Deathprod" という名前についてとともに、彼があらゆるインタビューで訊かれているのが彼の楽器として書かれている "audio virus" というクレジットについて。これは彼が使うリングモジュレーターやループ、それに手製のギアの総称だ。いわゆるエレクトロニクスというのとは異なり、アナログな物が多いようだ。

あちこちのインタビューで公言しているように、Helge Sten が最も影響を受けたのは Led Zeppelin と The Residents 。彼のお兄さんが持っていたレコードがきっかけだったという。前者は、特に Jimmy Page のギターが好きだそうで、最近のステージではギターを弾いたりもするが、この2つのグループの音が一体彼の音楽のどこに反映されているのか、それは結構謎だ。

Helge Sten = Deathprod の音楽はこうやって10年分の音源を並べてもどこか一定の方向への変化は見られない。それは彼の作品1曲ずつとっても同様で、一旦現れた音は決して繰り返されたり、規則性を持ったりはしない。アナログな機材から作り出されるこの世のものとは思えない音は、寒々としているという意味で多分北方的で、どこまでもミステリアスで、そして決してはっきりとは正体を現さない。だからこそ耳をすましてその音とその向こうにあるものを聴き取ろうとさせられられるのかもしれない。

2004; Rune Grammofon; RCD 2035 "Morals And Dogma"
2004; Rune Grammofon; RCD 2036 "Deathprod" (4CD Box)

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