<< 2004 Vol. 5 (2004/03/23) >>
![]() Jon Anders Halvorsen: vo, harmonium Tore Bruvoll: g, banjo, vo w/ Arve Henriksen: tp Per Oddvar Johansen: ds, per Gjermund Larsen: vla 1. Ungjentdraum A young girl's dream 2. Liten Kirsten som stalldreng Young Kirsten as a stable boy 3. Ingers Hevn Inger's revenge 4. Unge Stig fanebærer Young Stig the banner-bearer 5. Jeger The hunter 6. Skippar Valivan Skipper Valivan 7. Ridderen The knight 8. Rikarodius og ørna Rikarodius and the eagle 9. Jon Remarssons død på havet Jon Remarsson's death at sea 10. Svein Håkenson Svein Håkenson 11. En rose jeg har sett Producer: Frode Haltli All arrangement by Tore Bruvoll and Jon Anders Halvorsen Recorded in Lydlab, Oslo, November 2003 with Ulf W.Ø. Holand as engineer Mixed in Lydlab by Ulf W.Ø. Holand Mastered in Cutting Room, Stockholm, by Björn Engelmann 2004; Heilo / Grappa; HCD 7194
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Tore Bruvoll & Jon Anders Halvorsen "nattsang" 私がこのデュオのデビューアルバムとなるこの作品を聴くことになったきっかけは、結構邪道だったのかもしれない。Arve Henriksen と Per Oddvar Johansen がゲスト参加していて、しかもプロデュースが Frode Haltli 。この顔ぶれだったらトラッドでも何でも楽しめそうだ、と思っていた私は、聞き始めてすぐに、ゲストよりこのアルバムの主役の2人が奏でる音楽に魅了された。 Jon Anders Halvorsen、28歳のトラッドシンガー。ジャケット写真では左の人物。Telemark (テレマルク)という地方の出身。日本ではテレマークスキー(かかとを板に固定しない種のスキー)の発祥地として知られるこの地方は、オスロからずっと南東のほうへ下ったところに位置し、フィヨルドによる湖が点在する、トラッドの盛んな地方だという。 一方の Tore Bruvoll は北ノルウェーの街 Tromsø (トロムセ)出身のギタリスト、23歳。写真を見ても映像をみてもちょっとトラッドとは異なる雰囲気の持ち主だ。デュオを組むことになる Jon Anders Halvorsen とはテレマルクのトラッドフェスティバルで出会ったという。 デビューアルバムリリース以前から彼らは積極的に外国で公演を行っている。素材がノルウェーのトラッドということを考えればちょっと不思議な気もする。その中の1つ、2003年2月にニューヨークのケネディーセンターで行ったコンサートの模様がネットで見れるようになっている。ステージ右側、Jon Anders Halvorsen は高めの椅子に腰掛けてまっすぐ前を見据えて語り部のように静かにノルウェーのトラッドを歌う。左側の Tore Bruvoll は低めの椅子にギターを抱えて座り、時にエモーショナルにギターをかき鳴らす。ステージでもアメリカのポップソングなどからも影響を受けたと語っているように、このデュオの音楽をトラッドでありつつトラッドから開放しているのは彼のギターによるところが大きい。 そして届けられた "Nattsang" (="nightsong") とタイトルされたアルバムは、そのライブとはまた違った、いい意味できちんと作品として焦点を絞ってプロデュースされた作品だった。 Jon Anders Halvorsen は、あまり癖がつよくないけれどノルウェーのトラッドの歌唱法で歌う。声はあまり低くなく、伸びやかで、ビブラートはなくトラッド特有のこぶしが少し入る。言葉の発音は非常に明確で、そのためだろうか、分からないはずの歌詞を聴き手の奥深くまで投げかけてくるような気がする。その彼が歌うのはノルウェー語の歌詞、厳密に言うとテレマルク地方の方言で、標準ノルウェー語とは大分異なる。Tore Bruvoll は、このアルバムでは1音1音の響きに心を込めるかのようにアコースティックギターを弾く。トラッドというよりポップスに近い感覚の持ち主なのは相変わらずだ。 このアルバムに収録されている曲は、Jon Anders Halvorsen が故郷テレマルクのトラッドシンガー、というより民俗音楽の歌い手、というほうがしっくりくるだろうか、彼よりずっと年上の歌い手から直接教わったものも含まれるという。歌詞も曲も、彼らなりに手を加えられているそうで、多分、現代の20代の彼ら自身が少なからず反映されているだろう。一言ずつを丁寧に語っていくボーカルと、素朴で意外なほどポップなメロディーライン、それにぴたりと合わせる美しいギターの音によるこの音楽は、北欧の国の一地方の音楽でも現代に普遍的に受け入れられうることを感じさせる。 * * *
このアルバムのプロデュースは ECM New Series からのソロデビュー作 "Looking On Darkness" (2002) の評価も高い注目のアコーディオンプレイヤー Frode Haltli (b. 1975) 。No Spaghetti Edition の即興音楽からソロ作での現代音楽、またトラッドもこなすなどとても守備範囲の広い音楽家だ。プロデュースを手がけたというのは私が知る限り初めてだけれど、脇役に徹して見事な手腕を発揮している。歌と曲を聞かせるところにポイントを絞り、シンプルで瑞々しいアルバムになっているのは彼によるところが大きいだろう。また、ゲストミュージシャンの選択も彼ならではなのはもちろんだ。 Arve Henriksen (b. 1968) と Per Oddvar Johansen (b. 1968) は現在のノルウェーのジャズシーンを代表するミュージシャンであり、この2人とプロデューサーの Frode Haltli は、サックス奏者 Trygve Seim のグループで長く共演している。Arve Henriksen は尺八に影響を受けた柔らかな音の持ち主で、一方では即興音楽家らしい一瞬にして聴き手の耳をひきつけて離さないプレイヤーでもあり、ここではぎりぎりのところで押さえ気味にその音を披露している。Per Oddvar Johansen のドラムは、ひょっとすると気をつけていないとアルバムを聞き終わっても彼が叩いていたことすら気づかないかもしれないくらい実にさりげない。けれどしっかりと要所でトン、と心地よくなっていたり、ブラシがスネアドラムをこすっていたりする。こういう演奏に関しては恐らく現在この国で彼の右に出るプレイヤーはそういないだろう。 もう1人のゲストミュージシャン Gjermund Larsen は1981年生まれととても若いトラッド畑のフィドル奏者。2つ年上の兄 Einar Olav Larsen とともに兄弟でコンビを組んでフィドルを弾くという音楽一家の出身。ここで弾いているのはフィドルではなくヴィオラ。その華やかさを抑えたつややかな音は、アコースティックギターの弾ける音と好対照を成している。 * * *
ここで歌われる歌詞は、それぞれ1曲ずつが小さな物語の形をとっている。寓話的でない、つまり説教くさくないところが面白い。主人公は若い人物が多い。 若い男性は養母に、自分はいかにして死ぬか尋ね、その養母は、病気でも戦争でもなく、青い波で亡くなると予言する、やがてそれは的中し、彼は海で亡くなる。 若い女性は若い男性に出会い、最初はコーヒーをご馳走され、次は強いアルコール、そして彼女は彼の腕の中で眠ってしまい、ウェディングドレスを作る夢を見る。 また別の女性は見知らぬ若い男性に言い寄られ、婚約指輪を渡される。それをどう養母に申し開きしようか悩む彼女に、彼は拾ったと嘘をつくようアドバイスするが、彼女は嘘をつくことを拒否する。そうして話しているうちに、彼女は自分の身の上話、亡くなった両親の他に国を離れた兄がいると打ち明ける。そしてその話を聞いた彼は、自分がその兄だということを告白する。 アルバムで最も印象的なメロディーを持つ曲は、若い女性のエピソードだった。昔の恋人の結婚式に、招かれないのに一張羅の赤いドレスを着て出かけ、客にアルコールを振舞う。新郎はやがて眠ってしまい、彼女は復讐に打って出る。たいまつで彼の髪を燃やして殺してしまうのだ−彼の腕の中で眠っていた新婦も同様に。 |