<< 2004 Vol. 8 (2004/09/12) >>

THE NATIONAL BANK The National Bank
[from left to right]
Thomas Dybdahl : vo, ac-g
Martin Horntveth : ds, per, prog, key, harmony vo
Morten Qvenild : syn, p, auto-harp, harmonium
Nikolai Hængsle Eilertsen : b, baritone g, harmony vo
Lars Horntveth : el-g, ac-g, baritone g, key, prog, bcl

The National Bank


1. I hear the sparrow sing
2. Tolerate
3. Hello, my name is Fred
4. A recorder in red plastic
5. Blue as we like it
6. What is left?
7. Look twice
8. The national bank
9. Half blind


All lyrics by Martin Hagfors
01, 02, 04, 05, 06 Written by Martin Horntveth
03, 07, 08, 09 Written by Lars Horntveth
Strings composed and arranged by Lars Horntveth & Martin Horntveth with help from Morten Qvenild on track #6

Produced by Jørgen Træen

Recorded & mixed by Jørgen Træen in Duper, December 2003
Mastered by Ingar Hunskaar at Strype Audio





> live report
> live photos
2004/08/11, Oslo, Norway



link:
>> The National Bank

related links:
>> Thomas Dybdahl
>> Jaga Jazzist
>> BigBang
(@ Warner Norway)

>> HGH / Home Groan
The National Bank という新しいユニットのデビューアルバム "The National Bank" はノルウェーで 2004年8月16日にリリースされた。メジャーレーベルであるノルウェー・ユニバーサルからのリリース、Jaga Jazzist の核である Martin と Lars の Horntveth 兄弟による新しいユニット、国内では人気実力ともに非常に高いシンガーソングライター Thomas Dybdahl の参加…という話題性が先行気味だったが、アルバムは初日で2000枚、月末までの2週間で 22,000 枚を売り、ナショナルチャートのトップを独走という予想以上のリアクションとなった(※人口450万人のノルウェーでこれは大変な数字で、単純計算で日本の人口比に置き換えると2000枚は約56,000枚、22,000枚は約62万3000枚に相当)。

けれどノルウェー各紙によるレコード評とライブ評(あくまでファンではなく評論家筋)はこの数字とちょっと異なっていた。どちらも「かなりよい評価」と「普通」に分かれている。この評価は確かに納得できるものがある。最初にこのアルバムを聴いた時は少し肩透かしを食らった気がした。先行シングルの "Tolerate" が素晴らしい出来だったこともあり、もっと何か凄いものを期待したからかもしれない。でも、アルバムリリースから1ヶ月近くが経ち、私がラッキーにも彼らのライブを見てからちょうど1ヶ月が経った今では、この1ヶ月はこればかり聴いていたという結果になった。


このユニットは2003年夏、Horntveth 兄弟が彼らの地元で行われる Vestfold Festspillene というフェスティバルの委託作品として、「ボーカルユニット」を構想したことから始まる。元 Jaga Jazzist の Morten Qvenild (key) と BigBang というロックバンド(彼らはこちらもメジャーレーベルである Warner Norway からアルバムをリリースしているノルウェーではよく知られたバンド)のベーシスト Nikolai Eilertsen に声をかけ、そして最後のピースとして加わったのがそのころデビューアルバム "... That Great October Sound" (2002) が評判になっていたシンガーソングライターの Thomas Dybdahl だった。その時、Martin Horntveth が前年の年末に既に Thomas Dybdahl をお気に入りのシンガーとして挙げていたことを思い出したが、まさかこんな形で大ヒット作になるとは想像もしなかった。

そういう経緯もあってか、楽曲は Horntveth 兄弟が半分ずつで、作詞をしているのは Martin Hagfors というミュージシャン。 Martin Hagfors は HGH や Home Groan というバンドでの活動で知られるシンガーで、HGH のほうには Motorpsycho のドラマーが参加していたり、Home Groan のアルバムには Horntveth 兄弟をはじめとする Jaga Jazzist の面々が参加しているというつながりだ。プロデューサーは Jaga Jazzist の "A Livingroom Hush" や "The Stix"、Lars Horntveth のソロ作 "Pooka"、他にも Magnet "On Your Side"、シンガーソングライターの Sondre Lerche などのアルバムのプロデュースを手がけ、Sir Dupermann として Smalltown Supersound から自身のアルバムをリリースする他、Jazzkammer とのコラボレーションなどもある Jørgen Træen

メロディーはどの曲のどの部分をとってももろに Jaga Jazzist なのは当然だ。ただ、評判を呼んだ先行シングルの #2 "Tolerate" とその前の #1 "I hear the sparrow sing" の必殺のメランコリックなメロディーは Lars のものではなく、Martin によるものだったというのは少し意外だった。ドラマーである彼の幅広い才能には驚くばかりだ。曲調は予想以上にポップで、その点では Jaga とはかなり異なる。ベタといえばベタ。評価のポイントは、この「ごく普通のポップス」を評価するかしないか、という点にあると思う。

サウンドは、プロデューサーが同じということもあって、かなり Jaga Jazzist を思わせる部分も多い。ストリングスの取り入れ方、細かいエレクトロニクスの散らし方は、Jaga に加えて Lars のソロとの共通点もある。凝った丁寧なサウンド作りだけれど、いろいろなアイディアを曲のアレンジに取り込む Jaga とは異なり、このユニットではあくまで「歌」が主役としたアレンジがなされている。

その「主役」の Thomas Dybdahl は、本来自らギターを弾き(このアルバムでも弾いているけれど、大半は Lars によるもの)、作詞作曲も自らこなすシンガーソングライター。それがこのユニットでは曲も詞もギターも揃ったところへ歌を乗せるという、かえって難しそうな立場だ。「Jaga ポップス」のメロディーに微妙な表情を付けながら繊細に歌いこなす彼の声と歌のおかげで、このユニットはありきたりなものにならないで済んでいる、とすら言えそうだ。Horntveth 兄弟によるメランコリックなメロディーは、彼自身によるメランコリックなメロディーとは少し異なるけれど、なかなかに相性はいい。Horntveth 兄弟が構想した「ボーカルユニット」は、多分現在のノルウェーで考えられる最も適したシンガーによって完成されている。

最後の最後、#9 "Half blind"、アコースティックギターにのせて静かに流れる歌にそっと寄り添うようにあのバスクラリネットの音が聴こえてきたときに少し懐かしいものを聴いているような感覚を覚えた。凝ったインストパートを含む少し謎めいた雰囲気を持つこの曲は、Jaga のアルバムや Lars のソロに入っていても別に不思議ではないような曲だ。


このアルバムは現在ノルウェーのみの発売で、既に国内では大評判、けれどメジャーレーベルゆえにかえって国外には出ないという点で、Jaga Jazzist のセカンドアルバム "A Livingroom Hush" がリリースされた当初を思わせる(※ Jaga Jazzist はその後メジャーの Warner Norway からインディーレーベルの Smalltown Supersound に移籍し、国内向けには Warner Norway に逆ライセンス、イギリス他に向けては Ninjatune にライセンスというややこしいことになっている)。メンバー個々の知名度は国外ではまだまだだけれど、この音楽が受け入れらるのは決してノルウェー国内だけではないと思う。人口450万の国の中に留めておくにはあまりにも勿体無い。

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