<< 2006 Vol.1 (2006/03/13) >>

NIK BÄRTSCH


Nik Bärtsch's RONIN
STOA
Ritual Groove Music 7

1. Modul 36
2. Modul 35
3. Modul 32
4. Modul 33
5. Modul 38_17

All compositions by Nik Bärtsch
Recorded May 2005
Studios La Buissonnes, Pernes-les-Fontaines
Engineer: Gérard de Haro
Prodeced by Mafred Eicher


2006; ECM 1939

Nik Bärtsch (p, fender rhodes)
Sha (contrabass cl, bcl)
Björn Meyer (b)
Kasper Rast (ds)
Andi Pupato (per)

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スイス・プロ・ヘルヴェティア文化財団と駐日スイス大使館などによるプログラム "0406 Swiss Contemporary Arts In Japan" の一環として行われた2005年10月の Nik Bärtsch's Mobile の来日公演(これは初来日公演ではなく、2005年1月にもソロで来日公演を行っている)は、2005年に私が聴いた中で「最も面白い音楽」だった。この音楽が何に属するか、きっと多くの人がいろいろと論じるだろう。ミニマルミュージック、ジャズ、現代音楽、もしかしたらテクノなどの言葉が並べられるかもしれない。"Ritual Groove Music" と Nik Bärtsch 自身が称するこの音楽は、それらの音楽の様々な要素を持ち合わせているが、とんでもなく心地よく、わくわくさせられるビート/グルーヴを湛えた新しいアナログ音楽、ということを強調したい。

Nik Bärtsch (ニック・ベルチュ)は1971年生まれ、今年35歳になるスイス・チューリヒ出身のピアニスト/作曲家。ECM によるプレスリリースで非常に詳細に彼のバックグラウンドについて触れられているが、それによると彼は最初にジャズを、16歳になってからクラシックを学び、作曲へと傾くにつれ、ジャズへの興味がなくなっていったという。確かに彼の音楽は完全に書かれた音楽であり、そういう意味では彼の音楽は全くジャズ(=即興演奏)ではない。Nik Bärtsch の音楽の持つスリリングさはジャズのそれとは異なり、完全に考えられたものだということになる。

Nik Bärtsch のこれまでの7作品の全ての楽曲はそれぞれ Modul (モーデュル、綴り字そのまま英語の module に当たる)とされ番号が振られている。シンプルだが面白いアイディアだ。若い番号の過去の楽曲と比べると、30番台の新しいマテリアルはより複雑な構造を持っており、彼の音楽の発展の仕方がよくわかる。また、Modul と Modul を重ね合わせることも可能で、今作でも最終トラックの "Modul 38_17" でその試みがなされている。古いほうの "Modul 17" は2003年リリースのライブアルバムに収録されているが、一聴しただけではそれとは分からないほど複雑に構成し直されている。また同じ番号でもかなり違ったバージョンも存在するので、Modul といえども単純ではない。

Ronin は2001年に結成されたグループで、結成当時は Nik Bärtsch 、ドラマーの Kasper Rast 、それにスウェーデン・ストックホルム出身のベーシスト Björn Meyer のトリオで、2002年にパーカッショニスト Andi Pupato が加入、そして ECM からアルバムをリリースするにあたり、Nik Bärtsch のもう1つのバンド Mobile (モービレとドイツ語読みする)のバスクラリネット/コントラバスクラリネット奏者 Sha (本名 Stefan Haslebacher の省略形、彼は Nik Bärtsch の教え子に当たり、一回りも若い)を加えてクインテットとなっている。カルテットの Mobile 、カルテットからクインテットになった Ronin のメンバー中3人までが重複するとあって音はかなり Mobile に近くなっている。これまでの印象ではより ECM に向いていそうな音だったのはむしろ Mobile や Nik Bärtsch のソロの方で、Ronin はエレクトリック・ベースがファンキーなうねりを作り出す、より動きがあり、少しポップですらあるユニットだった。2003年に ECM と接点を持つようになり、ECM へのアルバムを構想し、Ronin に新しいメンバーを加えた結果、サウンドはやはり ECM 向きの音にシフトしている。

Ronin (浪人)というバンド名 、過去には「乱取り」とか「非思量」(普通の日本人にとってローマ字からこの漢字に到達するまでの難しさは「作庭記」並ではないだろうか)などというタイトルのアルバムがあり、また Ronin の音楽を「禅ファンク」と表現し、全ての作品のスリーブ(裏ジャケ)に北斎のサムライのモチーフ(サムライというよりチャンバラだが)を載せることから明らかなように、Nik Bärtsch の思想には日本の文化への傾倒がある。彼は2003年9月から2004年3月の間、チューリヒ市の援助を得て日本に滞在しており、その時に神戸で書いたのがこのアルバムに収録されている曲だと知り、そんなに近くでこの音楽が書かれていたとは、ととても驚かされた。彼の音楽が日本的だとはさほど思わないが、なるほど確かに木魚でもポクポクと叩けば似合いそうな雰囲気のパートもあり、まさしく Ritual Groove Music なのかもしれない。

ECM 盤のスリーブにこそ書かれていないが、過去のアルバムには "No Overdubs, No Loops, No Additional Electronics" または "All Sounds Are Purely Acoustic" と必ず注意書きがされている。今やいちいち書かなければならないほどオーヴァーダブが普通になっており、また彼ら自身が、彼らの音楽が生身の人間による演奏であることを強調しているということでもある。バスクラリネットのかすれを伴う音とパーカッシブなブレスの使い方、あまり尖らないパーカッションやドラムの音、エレクトリックベースの暖かみのある音、そしてフェンダーローズはもちろんピアノの音までもどこか丸みを帯び、柔らかだ。それらから紡ぎ出されるのもまた、よく言われる表現を使えば「オーガニック」な音楽だ。

それにしても聴き飽きない。小さなビートのずれのようなものが、ここまで面白く響くとはと、何度聴いても思わせられる。冒頭にも書いたようにそのずれはあまりに心地よく、その催眠効果によりもしかしたらうとうとするかもしれない。

これまで彼の音楽は、レーベルがドイツ語圏に若干のディストリビューターを持つのみだったため、ほとんど他では知られることがなかった。ECM という同じドイツ語圏でも大きな影響力を持つレーベルから紹介されることにより、より多くの人に「発見」されることになるだろう。

尚、アルバムタイトルの "Stoa" は古代哲学の「ストア派」を指す。

>> www.nikbaertsch.com
>> www.ecmrecords.com
>> www.tonus-music-records.com


Nik Bärtsch's RONIN
since 2001


1. Modul 15
2. Modul 8_9 I
3. Modul 8_9 II
4. Modul 8_9 III
5. Modul 10
6. Modul 13
7. Modul 14
8. Modul 11
9. Modul 15_9

RANDORI
Ritual Groove Music 2
2002; Tonus-Music Records TON 004


Björn Meyer (b)
Kasper Rast (ds, udu)
Andi Pupato (shaker, india bells)
Nik Bärtsch (p, fender rhodes DX-7, ds #2, 9)

ジャケットには日本刀を構える手元、アルバムタイトルは『乱取り』。2001年12月の録音で Ronin としての最初の録音。既にあった Mobile とは異なる音使いが(恐らく意識的に)強く出ている。音の面で目立つのはその Mobile にはないエレクトリックベースで、スラップなども絡め"禅ファンク" さながら。また、Nik Bärtsch 自身の演奏もアコースティックピアノよりフェンダーローズのほうが中心になっている。Andi Pupato も楽器のクレジットにあるように風変わりな打楽器を使っており、エキゾチックな雰囲気も挟まれる。"Modul" は多様ながらそれぞれはまだまだシンプル。



1. Modul 14
2. Modul 17
3. Modul 11
4. Modul 16
5. Modul 8_9
6. Modul 15

LIVE
Ritual Groove Music 4
2003; Tonus-Music Records TON 009

Björn Meyer (b)
Kasper Rast (ds)
Andi Pupato (per)
Nik Bärtsch (p, fender rhodes DX-'7)

最初の1曲はベルン、他の5曲はチューリヒでの、いずれも2002年5月のライブ録音。即興演奏の余地の少ない非常に緻密に計算された音楽が、ライブでひときわ鮮やかに再現される様子を捉えたもの。これを聴くと Ronin がクラブでよりパワフルに演奏するために結成されたという説明にも納得がいく。演奏は緊張感はさほどなくいくぶん開放的で、アップテンポな曲では疾走感を加えつつも、肩の力が上手く抜けた軽やかさが保たれている。エレクトリックな音使いも含めて透明感と明るさを感じる。編成は異なるが、2005年秋の Mobile のライブで受けた全体的な印象は Mobile のスタジオ盤よりこのライブアルバムのものに近い。



1. Modul 27
2. Modul 22
3. Modul 18
4. Modul 26
5. Modul 23

REA
Ritual Groove Music 5
2004; Tonus-Music Records TON 015


Björn Meyer (b)
Kasper Rast (ds)
Andi Pupato (per)
Nik Bärtsch (p, fender rhodes)
guests:
Sha (bcl M27, 26)
Thomy Geiger (ts M26)
Michael Gassmanin (tp M26)

2003年5月、ECM との邂逅より後の録音。ライブ盤の後ということもあるが、音はよりシャープかつシンプルになり、音楽にはよりクールで淡々とした美しさが加わっている。ゲスト参加のホーンセクションも含め個々の楽器は音楽の「部分」に徹した役割を演じており、曲により楽器編成が変わるのもほとんど気づかないかもしれない。冒頭に前作までの路線を大きく残したエレクトリックでファンキーな曲を置き、半ば以降は前述のような新しい局面を見せる曲が続く。繊細で完成度の高いアルバムであると同時に、アコースティックピアノの響きとホーンが添えるわずかな色合いの変化が次作 "Stoa" に繋がる。

Nik Bärtsch's MOBILE
since 1997


1. Modul 5
2. Modul 11
3. Modul 4
4. Modul 12
5. Modul 4II
6. Modul 2
7. Modul 12II

RITUAL GROOVE MUSIC
Ritual Groove Music 1 RE
2001/2005; Tonus-Music Records TON 013


Kasper Rast (ds)
Don Li (bcl, as)
Mats Eser (marimba, per)
Nik Bärtsch (prepared p)

2000年9月の録音で、表題となっている自身の音楽の初レコーディング作品。Mobile は基本的にアコースティックな楽器編成で、本作では楽器の音色そのもの、特にピアノの音が際立つ。ミニマルさよりもむしろアンサンブルによる演奏、楽曲それにアルバムのダイナミックな構成のほうが表に出ている。最終トラックはピアノソロで、緊張感を保ちながら間隔を空けて置かれる和音の響きが果てしなく美しい。Mobile の初代リード奏者(で作曲家でもある) Don Li は一連の作品をリリースしているベルンのレーベル Tonus-Music Records のオーナー。



1. Modul 29
2. Modul 16
3. Modul 18
4. Modul 20
5. Modul 26
6. Modul 8_11

AER
Ritual Goove Music 6
2004; Tonus-Music Records TON 016


Kasper Rast (ds)
Sha (bcl, as)
Mats Eser (marimba, per)
Nik Bärtsch (p)

2003年8月の録音。この作品から Don Li に替わって加入した Sha のバスクラリネットの柔らかい音が、この後 Ronin にも持ち込まれるため、今となっては Mobile の最新作というより ECM 盤 "Stoa" の前作といった印象の作品。鋭い音やビートなどでシャープに締めつつ、全体的にはむしろ随分リラックスした感すらある柔らかなビートが支配している。Mobile の前作 "Ritual Groove Music" からのアコースティックな楽器の音色を活かす特色はそのままに、ダイナミックさを少し押さえアンサンブル志向をやや押し進めている。不規則なビートなどは計算されたものには違いないのに、とても感覚的な表現となっているところが彼らの音楽の面白いところではないだろうか。

Nik Bärtsch SOLO


1. Modul 8_9
2. Modul 13
3. Modul 14
4. Modul 4
5. Modul TM
6. Modul 5
7. Modul 6
8. Modul 11

HISHIRYO
Ritual Groove Music 3
2002; Tonus-Music Records TON 005


Nik Bärtsch (prepared p, per)

アルバムタイトルは『非思量』。2002年1月の録音で、この作品に限ってはいくらかオーヴァーダブ(多重録音というほどのものではない)がされているようだが、基本的にはピアノソロ。Nik Bärtsch の一連の作品の中で最もダイナミックで鋭い音が刻まれる。演奏されている "Modul" は Ronin や Mobile での録音もあるため、他の作品を聴いていればその記憶にある音楽がたった1台のピアノで鮮やかに再現されることにはっとさせられるだろう。5曲目の "Modul TM" は Lennie Tristano の "Turkish Mambo" (1955 年録音) をベースにしたもので、このNik Bärtsch のバージョンのほうが進行がやや明快。アンサンブルによる音楽とはまた異なる魅惑的な「音」だ。
der Schlagzeuger: KASPER RAST


1. Part 52
2. Part 52
3. Part 52
4. Part 52
5. Part 52
6. Part 52
7. Part 52
8. Part 52
9. Part 52
10. Part 52
11. Part 52
12. Part 52
Tonus-Music Labor Research Result Part 52
2003; Tonus-Music Records TON 010

Kasper Rast (ds)

Kasper Rast (カスパー・ラシュト、1972年生まれ)は、ドラマーとして小学生のときから Nik Bärtsch と音楽活動を共にする一方、家業のヴァイオリンメーカーの一員という顔も持つ。Nik Bärtsch の音楽 "Ritual Groove Music" はもちろん Nik Bärtsch 自身のアイディアと作曲、それに演奏による部分が大きいが、Kasper Rast のドラムも相当に大きな役割を果たしている。Ronin と Mobile においては直接的にアイディアを具体化しているのは実は Kasper Rast のドラムである、というのは来日公演を見た際に強く感じた。

このソロアルバムは文字通りのドラムソロ、曲のタイトルは全て "Part 52"、かなりスローな変拍子を淡々と叩き続けている。ソロドラム作にありがちなパーカッショニスト的手法は全くなし。しかも全てのトラックは即興ではなく、レーベルオーナーでリード奏者の Don Li の作曲によるもので、Don Li と Kasper Rast によるアレンジとクレジットされている。不規則で先の読めないリズム、シャープで全くブレのないアナログで柔らかな音によるミニマルな作品で、Ronin が禅ファンクならこちらは禅の修行のような音楽とでも言えるだろうか。

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