| Holon | Nik Bärtsch's Ronin |
![]() 1. Modul 42 2. Modul 41_17 3. Modul 39_8 4. Modul 46 5. Modul 45 6. Modul 44 Compositions by Nik Bärtsch Recorded July 2007 Studios La Buissonne, Pernes-les-Fontaines Engineer: Gérard de Haro Prodeced by Mafred Eicher Ritual Groove Music 8 2008; ECM 2049 |
Nik Bärtsch (p) Sha (bcl, as) Björn Meyer (b) Kasper Rast (ds) Andi Pupato (per) Holon (Wikipedia より引用): 2006年7月、オランダ・ロッテルダムでの North Sea Jazzfestival の会場で Nik Bärtsch と初めて話をした。プレスセンターで私の前に座った彼が、開口一番に私に訊いたのが、どうして彼の音楽を知ることになったか、ということだった。もちろん、彼は私がノルウェー音楽好きだということを知っているからこそ、そう訊いてきたのだ。 Nik Bärtsch の音楽に遭遇したのは2005年10月、Mobile での来日公演だった。直前に来日公演を行っていたこちらもスイスのグループ Koch-Schutz-Studer の来日公演の情報を求めて在日スイス大使館のサイトを見たのだが探していた情報は見当たらず、その代わりふと目にとまったのが Nik Bärtsch の来日公演の記事だった。全く知らない名前だったが、直感的に面白そうだと思った。それだけでライブを見に行ったため、ライブまではサンプル音源程度しか聴いていない。普段はCDを十分聞き込んでからライブに臨む私としては珍しい出会い方だった。 ロッテルダムで会った Nik Bärtsch は、先の質問の後、こちらが予想もしない名前を出してきた。「Christian Wallumrød は知ってる?」音楽を知っているかどうかではなく、知り合いかどうかを訊いているのだ。ちょうど2日前にオスロで会って話をしてきた、というと、Nik Bärtsch は、Christian Wallumrød の音楽が大変好きで、本人とコンタクトを取っているのだという。どちらかというと物静かな Nik Bärtsch だが、Christian Wallumrød の音楽についてはやたら熱く語りだし、ECM で最高のピアニストだ、とまで言う。この2人は、ともに1971年生まれの同い年だということ、ECM に所属するピアニストだ、ということ以外は、あまり音楽的な接点は見当たらない。あえて言うなら、どうにもジャンル分け不可能な独自の音楽を追求している、ということくらいだろうか。この両者は 2007年にはダブルビルでスイスツアーを回り、また Nik Bärsch は Christian Wallumrød とも深い関連がある同じく1971年生まれのノルウェー人サックス奏者 Trygve Seim とも共演しているなど、結構同世代 ECM 系ノルウェー人ミュージシャンとは関わりがある。 ECM からの1作目 "Stoa" で世界的に注目を集めるようになり、その後比較的早いテンポで製作されたのがこの "Holon" で、Nik Bärtsch のリーダー作としては8作目、Ronin 名義では5作目となる。前作に引き続き哲学用語がアルバムタイトルに付されている。曲にはいつものように Modul 番号が振られており、今回の作品には40番台のものが並んでいる。複数の番号が"_" で繋がれているものは複数の Modul を掛け合わせたものだが、今回使用されている「既存のネタ」 Modul 17 は "Live" (2003) に収録されている他、前作 "Stoa" (2006) にも "Modl 38_17" として含まれている。また、"Modul 8" は単独での録音はないが、過去には "Randori" (2002) 、"Live" (2003)、それにソロ作 "Hishiryo" (2002) に "Modul 8_9" が、Mobile 名義の "Aer" (2004) に "Modul 8_11" が収録されており、それだからだろうか、最初に "Modul 39_8" を聴いた時、どこかで聴いたことがある、と強く感じた。 レコーディング・スタジオ、スタッフ、プロデューサーなどは全て前作と同じで、メンバーチェンジもない。そのことが、逆に Ronin というグループのこの2年を浮かび上がらせる。 毎週月曜日に地元チューリヒのクラブで行われるコンサートは、実際のところ結構な長尺のライブで、それを毎週こなすだけでもかなりの演奏回数だが、それに加え ECM からアルバムをリリース後はヨーロッパ、日本、そしてアメリカへと積極的に長いツアーに出かけ、新しいリスナーの前で演奏した。Ronin はライブバンドとしてトリオ編成でスタートし、クインテットになった今でもそれは変わらない。人数が増え、アルバムを重ねる毎に音楽のつくりは複雑になってきているが、それでも、単純に心地よいビートを持つ音楽でありつづけている。この "Holon" の最初の印象は、よりライブの感覚に近くなったのではないか、ということだった。もちろん、ライブではさらに「ならでは」が付け加えらるであろう余地はたくさん見受けられるが、ECM というレーベルのカラーを考えると、異例の印象だとも言える。その印象を具体的に裏付けるのが、Nik Bärtsch が演奏中にかける「掛け声」だ。前作では全く聴かれなかったが、本作ではその声が聞こえる。繰り返し記号で囲まれた異常に長い小節を繰り返し演奏し続け、そこから外れて次に進む前に発せられる合図だ。 ライブの感覚が取り入れられたという印象とやや相反する2つ目の印象が、これまでより滑らかなフレーズや展開が多くなったということだ。正確には、滑らかに聴こえる、というほうがよいかもしれない。あまり変拍子ぽく聴こえないビートで、軽やかに流す場面もある。彼らの変拍子の面白さは、ギクシャクしないところにある。本作ではシンプルとさえ感じられるが、実際は多くのライブをこなしてきた彼らの演奏によるものだからこそ、複雑なものがシンプルに聴こえるのだろう。ミニマルと表現されることも多い彼らの音楽だが、部分的には以前よりミニマルである。 3つ目の印象は、鮮やかなまでのコントラストだ。この点は1つ目の印象と重複し、2つ目の印象と相反する。アルバム全体を見ても、比較的静かな#1と4、軽やかな #2と6、そして #3と5ではそれぞれのトラックの中でダイナミックな場面転換が見られる。これまでの作品で全く見られなかった要素が #5 (Modul 45)で聴かれる。この曲ではこれまで Ronin の音楽には持ち込まれなかったアルトサックスが大きくフィーチャーされている。そのアルトサックスが奏でるフレーズがあまりにエキゾチックで、彼らの音楽には、こんな風に全く別の色合いを加えることが出来るのかと驚かされる。もう1つ、この曲の前の数曲にこの要素の伏線のようなフレーズもいくつか聴き取れるのが面白い。 私にとって、今までは、Nik Bärtsch の音楽そのものが驚きの発見だったが、"Holon" は、これからもアルバムで、そしてライブで、聴き手に新しい驚きを聴かせてくれるだろう期待を持たせる作品だ。 |
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