winter 2003
"Brother will you pray for me" w/ Kristin Asbjørnsen
2003/02/17
@ Nordre Ål Kirke, Lillehammer, Noway
Kristin Asbjørnsen (vo)
Jostein Ansnes (ac-g, vo)
Sondre Meisfjord (b, vo)
Ingar Zach (bass-dr, per)
w/ Inger Anne Naterstad
"kirke" はノルウェー語で教会の意で、会場の Nordre Ål Kirke
も教会そのまま。ここでオリンピックが開催されたとは思えないほどこじんまりしたスキーリゾートのリレハンメルの町のはずれ、中心部から2kmはあろうかという山の上にある。とりあえずバスは1時間に1本走っているものの、教会の前にバス停があるわけではなく、バスルートからちょっと歩かなければならない。バスに乗って、
Nordre Ål Kirke に行くから降りるべきところで言ってくれるように運転手の人に頼んだら、親切に全くバス停ではない、バスの路線で教会へ一番近いポイントでわざわざ停めて下ろしてくれた。
バスが1時間に1本しかないせいで1時間も前に会場についてしまい、そおっと覗いて見たら、ちょうどリハーサルが終わりかかっているところだった。Kristin
Asbjørnsen がギターをバックにバラードを歌っている。まだまだリラックスしたリハーサルモードだけれど思わず聴き入ってしまった。
"Brother will you pray for me" というのはこの日のプログラムにも入っている曲の一節から取られている。女性の牧師による朗読のようなものを挟みながら、黒人霊歌を歌うという趣向で、すでに去年7月の
Kongsberg Festival で披露されていて、これが2度目の公演となる。リレハンメルの冬のフェスティバル
Vinterspillene のプログラムの1つなのだけれど、これは Kristin Asbjørnsen
がこのリレハンメル出身(だそうだ)だから、というのもあるらしい。
会場の人の紹介で後方から登場した4人のメンバーは、ほとんどが先ほどまでうろうろしていた時からちゃんと着替えている。Kristin Asbjørnsen はブラウンのシースルーっぽいワンピースに裸足(外は氷点下二ケタになろうという気温で、暖房がきいているとはいえ教会の床は冷たいと思うのだけれど)、確かに歌には相応しい雰囲気ではある。Kristin Asbjørnsen と共に Dadafon のメンバーでもある Jostein Ansnes は、さすがに Kristin Asbjørnsen との呼吸もぴったりで、それはまるで Kristin Asbjørnsen がギターの弾き語りをしているようでもある。この日のメンバーの中で恐らく飛びぬけて若い Sondre Meisfjord は、やはり若い女性シンガーを擁するカルテット Come Shine のメンバーとして知られるプレイヤー。彼だけは普段着そのままといった感じで見かけはまるで10代だけれど、歌もののユニットへの参加が多く、サポートにとても安定感がある。それからステージ右側で貫禄のオーラを発し続ける Ingar Zach (2年前に見たときとはかなり風貌が変わっていたせいで開演前に見かけたときは誰だか認識できなかった)は、ノルウェーのインプロレーベル SOFA の共同オーナーで、国内のミュージシャンだけでなく、Derek Bailey とのデュオ作が2枚あるなど30歳過ぎで既にノルウェーを代表するインプロヴァイザー(ジャズミュージシャンというよりこちらのほうが相応しい印象)の1人だ。
女性の牧師による朗読は、もっと宗教的なものなのかと思っていたけれど、終始対イラク戦争の話が出るところを見ると、もっと説教に近いものだったのかもしれない。けれど何しろノルウェー語であまりよくわからない。その牧師による語りで静かに始まり、4人による演奏・歌が続き、以降交互にプログラムは進んでいく。祭壇の左脇で語る牧師と、祭壇の右側、通常は聖歌隊のために用意されているスペースで演奏する4人のミュージシャンは、静かに見えないバトンを渡すようにまったく違う表現方法で一つの空間を作り出していく。
曲は黒人霊歌なので、リズミカルな、言ってみればファンキーなものと、静かに、けれど熱く歌い上げるバラードがある。その両方をソウルフルに歌う
Kristin Asbjørnsen は、ノルウェーのジャズシンガーという形容詞がまったく似合わないタイプのシンガーと言えそう。真っ赤な爆発ヘアスタイル(というと表現が悪いけれどとてもよく似合っている)、小柄でパワフルなルックス、そして彼女の歌も多分北欧ジャズとは全く違うところに根ざしていて、きっとスタンダードチューンを歌うより黒人霊歌を歌うほうが自らの音楽性に合うのだろう。だから彼女の歌う黒人霊歌は単なる歌以上の説得力で響くのだと思う。
このユニットではギターの Jostein Ansnes とベースの Sondre Meisfjord がバックコーラスをつけていたのだけれど、それがとても上手くて驚かされた。声の高さがそれぞれの楽器と同じように違うのを上手く生かしたアレンジがされている。楽しげに、アップテンポな曲ではノリノリで演奏する他の3人に対して、Ingar
Zach はひたすらクールだ。バスドラムを床に斜めにセットしたものと、その他若干の打楽器(足に鈴をくっつけていた)というとてもシンプルなセット。曲のリズムも、タイミングも全てコントロールするその上手さは、決して前面には出ないけれどその存在感とともにとても印象に残った。
構成上、観客は拍手をする機会もなかったのだけれど、Kristin Asbjørnsen
が「どうもありがとう」と言って最後の曲が終わり、温かい拍手が手が起こった。会場の人が何か話そうとするけれど拍手が止まない。この日の観客は前日みたライブとは全く逆に若いミュージシャン(牧師の女性も比較的若かった)に対して、観客はかなり年齢層が高め、女性が多い。車で来ている人が多かったからきっと地元のごく一般の人たちなのだろうけれど、こういう一風変わったコンサートを身近なものとして楽しんでいる人たちがとても素敵に思えた。
(2003/02/19)