winter 2003
"Senzo-Kuyo"
2003/02/19
@ Bjerke Gård / Lillehammer, Norway
Jon Balke (key, per, electronics)
Arve Henriksen (tp)
Helge Norbakken (per)
Kenneth Ekornes (per)
Harald Skullerud (per)
オリンピックで有名になったリレハンメル Lillehammer の街は Mjøsa
という川の東岸の小さな街で、ビェルケ・ゴール Bjerke Gård はその対岸にある。タクシー(それしか交通手段がない)で対岸に渡ると、ぐっと温度が下がり、雪は深くなり、住んでいる人も少ない。来た方向を振り返ると予想外の夜景、それに加えて澄みきった満天の星空に圧倒される。
会場は外、山の斜面。今朝到着したミュージシャンやスタッフ以外は誰もしばらくこの雪の斜面に足を踏み入れていなかったようなところ。その中腹の薄暗がりに人影が見え、そちらのほうから妙にこの風景に似合わない南方系のパーカッションの音が響いてくる。写真を撮っている人に、Arve
Henriksen はどれ(どの人影)?と訊いて、言われた方をよーくみた時に、その人影が抱えていたもの(毛布だったのだけれど)の中からすっとトランペットを取りだし、静かに吹き始めた。マイナス15度位のピンと張った空気の中に浸透するように響くその柔らかい美しい音にしばらく聞き入ってしまった。
この Jon Balke のパーカッション・ユニットは Batagraf という名前が付けられていて、Magnetic North Orchstra のサイドプロジェクトとして 2002年夏にスタートした新しいユニット。本来はもう1人 Ingar Zach がパーカッションで加わっているはずなのだけれど、この日はツアーで不在。ソロイストは最初の公演ではサックス奏者 Torben Snekkestad 、ユニット結成2回目となるこの日のライブでは特別にトランペットで Arve Henriksen
が参加。
メンバーはいったんシェルター(リレハンメルオリンピックの際にCBSが使ったスタジオだそうだ)に入って暖をとり、予定通り夜8時にコンサートは始まった。山の斜面の高い側にミキシングボート、その前に観客、ステージ左の低い氷の台にセットされたキーボード、エレクトロニクス、パーカッションの側に
Jon Balke、ステージ手前右側の低い氷のステージに Arve Henriksen 、後ろの一番谷側、少し高い氷のステージの上パーカッションの3人。観客は雪の上にライト(光るホース状のもの)で描かれた円の、その輪の中に立つことになる。その輪の中に立つ理由はサラウンドになるように大きなスピーカーがセットされているからで、サウンドエンジニアの
Asle Karstad (この系統のコンサートのエンジニアとしてはとても有名なエンジニア)が苦心したという、見事な音響効果を堪能した。
この日のプログラム "Senzo-Kuyo" は Lillehammer Viterspillene
(Lillehammer Winter Arts Festival) の委託作品で、なんとインドネシアのパーカッション、ガムランを全面的に用いたもの。パーカッション類は全部ガムランの類で、薄暗い雪山に赤い派手な打楽器がなんとも違和感。この寒いのに指なし手袋でキーボードを弾く
Jon Balke 、それに Arve Henriksen の尺八トランペット…。曲は、東南アジアの打楽器を使っても、気温がマイナス15度になってもなお
Jon Balke らしい音楽で、とても緻密に構成されている。ゲストソロイストである
Arve Henriksen のトランペットは、空気が漏れる音までも音楽の一部にしてしまい、さらにそれに緩急をつける。彼は緻密に構成された楽曲の中でもかなり自由にスペースが与えられていて、それをしっかり捉えている
Jon Balke が楽曲全体をコントロールしていて、そこへかなり複雑なリズムパターンのパーカッションが絡んでくる。
途中、Arve Henriksen はトランペットを毛布に包んで置き(この温度の低さはとても楽器に悪いそうで、かなり気を使っていた)、足元に立てられていたアイストランペットを抱えた。この日のサウンドチェック中に自分で氷を削って作ったというその楽器は、ペットボトル位の氷の塊で真中に縦に穴が開けられている、ただそれだけのもの。それ以上手を加える時間がなかったというそのシンプルな管楽器にトランペットから外したマウスピースを付け、そしてそこから出てきた音は紛れもなく
Arve Henriksen の音だった。それにしてもやっぱりアイストランペットは珍しいのだろう、観客はもちろん、その場にいたカメラマンも、ステージ上の他の4人のメンバーもみんなその楽器に一斉に注目した有様はちょっとおかしかった(あまりに写真を撮られまくった本人は、後で、ちょっと気に障ったと冗談めかして言っていたけれど)。
ふと気がつくと音楽から「寒い」という考えに気がとんでいたりする中、50分・1曲という短いステージは終わった。
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この日のコンサートには、ガムランを借りるのに協力してもらったとのことで在ノルウェーインドネシア大使館の紳士が2人招待されていた。フェスティバルの主催者からそのお礼が述べられた後、会場のすぐ側にある歴史的な建物(今は宿泊もできる)の女主人により、その場にいる人全員が家に招待され、温かいスープや食べ物が振舞われた。これが典型的ノルウェーか、といわれるとそうでない(とノルウェー人は言っていた)らしく、珍しいことだったそうけれど、なんとも心温まるもてなしで寒い寒いコンサートは締めくくられた。
(2003/03/11)