winter 2003
Frode Gjerstad Trio w/ Peter Brötzmann
2003/02/20
@ Blå, Oslo, Norway
Frode Gjerstad (sax, bcl)
Peter Brötzmann (sax, bcl)
Øyvind Storesund (b)
Mark Sanders (ds)
オスロのクラブ Blå は2003年冬で5周年を迎えた。最近の元気なノルウェー音楽の中心地であるこの場所の5周年を祝うちょっと特別なプログラムが約10日間に渡って組まれ、この日のライブはその最初のプログラムになる。
実はこの日には当初サポートアクトのプログラムが組まれており、それが Håkon Kornstad × Ketil Møster というノルウェーの若いテナーデュオで、私はむしろこちらのほうが、というと語弊があるかもしれないけれど、この2組のリード奏者バトル(?)を楽しみにしていた。ところが若い方のバトルが、Håkon Kornstad が別のグループ Tri-Dim のツアーに出てしまったことでキャンセルになった。
5周年を祝う、というにはいささか少なめの観客だけれど、みんな座ってテーブルに飲み物を置いてライブを聴けるからこれも悪くないかもしれない。Blå
は8時に開場になる、というのが大抵決まっているだけで、あとは何時始まるかはわからない。この日は、どちらかというとかなり早い部類に入る、9時半を大分まわったところで4人がぞろぞろ登場。ここはジャズ専門のクラブではないので、ジャズを聴くにはややステージが高い。ラフな格好をした
Frode Gjerstad がマイクを使わずに(それくらいの広さと観客だった)挨拶をした後、演奏は始まった。
ステージ左にドラムの Mark Sanders、その右中央左寄りの奥にベースの Øyvind
Storesund、右に2人のベテランリード奏者 Frode Gjerstad と Peter Brötzmann。横に並ぶでもなく、斜めというかなんだか不思議な並び方。その2人が最初からいきなり揃ってアルトで飛ばしたのでこれは大変だと思ったけれど、その後は結構どちらかが吹いていて、なんとなく自然に入れ替わり、待っている間に楽器を持ち替える、というパターンが目立った。
Frode Gjerstad と Peter Brötzmann 、どちらも私はあまりたくさん聴いているとは言えないけれど、この日見た限りでは、はっきり違うカラーも持っているけれど、それほど違わない演奏をしているように感じた。一番違うのは面構えではないかと思った位だ(Peter
Brötzmann はあの見かけが近くで見るとさらに迫力)。フリーインプロヴィゼーションというような、割と典型的な前衛即興演奏をしているのだけれど、リズムセクションが落ち着いているせいかどしゃめしゃ感はあまりなく、2人のリード奏者が雄叫びをあげている、といった感じだ。Frode
Gjerstad Trio に Peter Brötzmann を迎えたという形で、ゲストにちゃんとフェアにスペースを与えているという印象。2人は、火花を散らしてバトルを繰り広げるでもなく、アンサンブルの妙を聴かせるわけでもない。出てくる音はテンションが高いのだけれど、どこか淡々としている。
1曲−ワン・セッション終わったところで、Frode Gjerstad が数は少ないけれど熱心に聴いている観客に、またもやマイクなしで話し掛ける。もちろんノルウェー語なのだけれど、マイクを使わないのと、Frode
Gjerstad の発音が非常にわかりやすい発音だったため、何を話しているかは不思議とわかる。まずドラマーの
Mark Sanders を紹介。Frode Gjerstad Trio のメンバーとして初めて一緒に演奏するという彼は、Peter
Brötzmann の筋の人で、こちらのベテランとは何度も共演があるらしい(ということを言っていたと思う…何しろ言葉が言葉なので)。そして−短く一息ついて、次に
Frode Gjerstad は、やはり予想通り、このステージにいない人の話を始めた。Frode
Gjerstad Trio のレギュラードラマーは本来 Paal Nilssen-Love で、彼は現在癌で療養中だと述べた。観客の中にはその病名にとても動揺した人もいたけれど、ほとんどの人は恐らくその事実を知っていたのだろう、じっと静かに聞いていた。そしてこの日の演奏を彼に捧げる、ととても丁寧な口調で続けた。Frode
Gjerstad にとって、Paal Nilssen-Love というのは単に自分のトリオのドラマーというだけでなく、同郷で、恐らく
Paal Nilssen-Love がまだ子供だったころから知っていて、彼が18歳の時から自分のグループメンバーとして一緒にレコーディングしている…ということで、演奏を彼に捧げると言った意味と込められた思いの大きさは計り知れない。それから
ステージ右の Peter Brötzmann を紹介し、そしてちょっと気を取りなおすようにもう1人の同郷の若いミュージシャン、Øyvind
Storesund を紹介した。
その「代役」のイギリス人(多分)ドラマー Mark Sanders は、この日見た限りでは、どちらかというと
Paal Nilssen-Love と似たタイプのドラマーと言えると思う。手数は多く、重さより鋭さを感じさせる音で、ポリリズミックに叩く。見に行く前に私が過剰なまでに意識した「Paal
Nilssen-Love の不在」はあまり感じなかった。Frode Gjerstad Trio のメンバーとしては初めて、ということは恐らくベースの
Øyvind Storesund とも初めてだと思われるけれど、終盤のベースソロにぴたりと合わせたドラミングは素晴らしかった。ただ、2人のベテランを煽るというシーンは1度もなかったことは確かだ。
他のメンバーよりちょっと後ろにいるベーシスト Øyvind Stroresund は、予想したよりもさらに大柄な若いミュージシャンだった。とにかく大きなベースがまるでチェロのように小さく見える。ベースがもうふたまわり位大きかったらちょうど彼の体格に合うのでは、と思った位だ。まるでその分の余裕を感じさせるかのように、Øyvind
Storesund はぶんぶんと迫力の音でベースを鳴らす。その音と存在感、それに
Frode Gjerstad Trio のようなフリージャズから Cloroform のようなロック/ジャズ/ポップスをミックスしたバンドまで幅広くこなすノルウェー的ワイドレンジな音楽性はとてもユニークだと思う。
その Øyvind Storesund と Frode Gjerstad は、レギュラーメンバーというだけあってやはり息が合っている。そして
Peter Brötzmann と Mark Sanders の間にも同様のものが感じられる。そしてベーシストとドラマーは、先のベースソロのときを始め、それなりに合っている。しかし
Frode Gjerstad と Peter Brötzmann の間に流れる音楽は不思議だ。この2人は音楽を共有しているのだろうか、それともいわゆるフリージャズなんてこういうものなのだろうか、という、ライブに行ってあまり感じたことのない疑問が残った。
最後に Frode Gjerstad は、もう1度念を押すように「Paal Nilssen-Love に」と言ってからメンバー紹介をして、演奏は終わった。
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追記:
2003年1月末に、別の話のついでにこの日2月20日のライブのことを Håkon
Kornstad に振ってみたら、結果としてそれは Håkon Kornstad が出ないということを確認することになってしまった。で、その時の「別の話」は
Kornstad Trio の話で、彼によると Paal Nilssen-Love は順調に回復していて、医者の判断次第だけれど、と注釈つきながら、本人は今年の半ばまでには復帰を目指しているとのこと…!
(2003/03/18)