winter 2003
Jim Black's AlasNoAxis
2003/02/21
@ Copenhagen Jazzhouse, Copenhagen, Denmark
Jim Black (ds)
Hilmar Jensson (g)
Skuli Sverrisson (b)
Chris Speed (sax, cl)
アメリカ人ドラマー Jim Black のグループ AlasNoAxis のヨーロッパツアーは、2003年2月19日〜3月12日というかなりの長丁場。レーベル
Winter & Winter のお膝元ドイツのミュンヘンでのライブが初日(メンバーによるとこの初日のライブはお客さんの入りもイマイチで、最悪だったそうだ)、そこからご一行様は荷物を担いで電車でヨーロッパを縦断、コペンハーゲンまでやってきた。
コペンハーゲンで一番有名なジャズクラブ Copenhagen Jazzhouse は、コペンハーゲンの市街地の真ん中、観光客のショッピングエリア
Strøget から少し入ったところにある。人口約140万人、北欧一の大都会のクラブに集ってくる人達は、なぜかどうもお互いお知り合いの人が多いのか、やあやあ〜と挨拶を交わしてグループになって賑やかにお喋りをしている。
少しでも前で見ようと開場前から真面目に並んだファンは開場と同時にどっとなだれ込み、座る場所を確保してからビールを調達する。詰め掛けたという表現がぴったりで、想像したよりも少し大きな会場いっぱいに身動きがとれないほど椅子が並べられ、フロアはあっという間に若いファンでいっぱいになり、はみ出た人は隣のバーとの境目のところから立って見物。始まる前から会場中ロックコンサートかサッカースタジアムみたいな熱気に包まれている。
ステージ奥のカーテンの向こうからメンバーが登場。ドラムと椅子と譜面台しか置かれてなく、誰がどこにポジションを取るのかわからなかったステージにつく。ドラムは中央やや左よりに置かれ、左端はサックス/クラリネットの Chris Speed 、ドラムの右にはベースの Skuli Sverrisson、置かれていた譜面台と椅子は彼のものだった。そして右端はギターを3本もケースごと背負って出てきた Hilmar Jensson。ギタースタンドはなく、ステージの一番右端に邪魔っけによけられたカバーをかけたグランドピアノの蓋の上にギターを載せる。
Jim Black がにこやかに挨拶をして、この日のノリのいい観客が歓声を上げ、さて1曲目という時に、突然の大音響。Hilmar
Jensson のギターストラップが外れギターが落下して、会場は一瞬唖然とした後大爆笑。Hilmar
Jensson も手を上げて、やぁどうもどうも〜と答え、Jim Black は「普通ロックバンドはギターを壊してライブを終わるんだけど、僕たちはギターを壊して始めるんだよね」と突っ込み、この日はトラブルさえ盛り上がる要因になってしまう。
丁寧にギターのチューニングをしなおして、ようやくライブが始まる。曲はほとんど2枚のアルバム
"AlasNoAxis" と "Splay" から。特にアレンジが大きく変更されたりすることはなく、誰かが長いソロを取ることもなく、コンパクトな長さの耳慣れた曲が次々と演奏される。けれどアルバムにはない特別な「何か」がこの日のライブにはあった。
Jim Black のドラムは、見る機会はこれまで何度もあったけれど、私はこの日初めて見た。演奏していないときの無邪気とも言えるキャラクターと、全身全霊を傾けて叩き出されるそのドラミングは全く別物かと思ったけれど、もしかすると全く同じなのかもしれない。ただ直感の赴くままに叩いているようで、それはスリリングではらはらさせられ、その一瞬の「Jim
Black にしか叩けないビート」が何のフィルターも通さずに目の前に放たれる様は圧倒的としかいいようがない。
Hilmar Jensson (ヒルマル・イェンソンと発音するのが多分本来の発音に近いと思うのだけれど、Jim
Black はお構いなし(?)にアメリカンな発音で「ヒルマー・ジェンソン!」とコールしていた)は、冒頭のハプニングも含め、Jim
Black に次ぐこの日の危ない人ナンバー2だった。ものすごく普通な見かけで轟音をかき鳴らす。ヴァイオリンの弦を使った音響は同郷アイスランドの
Sigur Rós をちょっと思い出させたりした。
その危ない人の間に挟まれた Skuli Sverrisson は大柄で(特別背が高いわけではなく、横幅があるのだ、という事実には後で彼と話をしたときに初めて気付いた)、このユニットにどすっとしたバランス感覚を与えている。横でとんでもないビートを叩く
Jim Black を正確に捉え、かつテクニカルにフレーズを決めるこの人のおかげで、このユニットがどこかへすっとんで行かずにまとまっているのかもしれない。
そして、本来この楽器編成なら一番目立つはずの左端の Chris Speed は、Jim
Black の書いたちょっとすっとぼけたメロディーをやはりちょっとすっとぼけた感じで吹いている。アルバムでもライブでも、個人的にはテナーサックスよりクラリネットのほうがいい感じに聞こえる。どうも端っこの彼だけれど、彼がいなければ多分このユニットは完全にロックバンドだ。
とてもバランスよく組まれたセットリストは2部にわかれていて、休憩から戻ってきた時に
Jim Black が自分のサンプリングマシンから移動遊園地の音楽みたいな音楽を流した。そのとつぜんのいたずらみたいな音楽に観客がはっとし、なにより
Jim Black 自身が楽しそうで、そしてちょっとなごんだ瞬間 Hilmar Jensson が大音響で、今度はちゃんとギターを鳴らしてその雰囲気を一変させ、Jim
Black はマシンを止めてドラムを叩き第2部に突入した。この演出自体はほんのちょっとしたことだったのだけれど、Jim
Black のキャラクター、このバンドのカラー、そして雰囲気をぶっ壊した(悪い意味ではない)
Hilmar Jensson のギターを強力に印象づけた。
アルバムから演奏された曲の中、一番異なったアレンジがされていたのがセカンドアルバムの最後に収録されている
"Blissed" だった。アルバムのバージョンはリミックス(?)バージョンなので、ひょっとしたらライブバージョンのほうがリリースされていないオリジナルに近いのかもしれない。12分を越えるアルバムバージョンからすると短くアレンジされたライブバージョンは、バンドの演奏と
Jim Black のソロを短く交互に繰り返すパートが含まれ、Jim Black のドラムに会場中がくぎづけになった。
この日のセットの後半に聴いたことのない曲が演奏された。セカンドアルバムの路線を進めたようなこのとても格好いい曲に、みんな始めて聴く曲なのにとてもいい反応を送った。曲が終わってから
Jim Black が、今の曲は次のアルバム(2003年4月に録音予定だそう)に入る予定で、この日初めて演奏したと説明。新曲への上々の反応に嬉しそうだ。
会場にこれ以上入らないというくらいびっしり入った、熱狂的で、クレイジーで(会場で売っていた
Pachora の新作を Jim Black のところへ持っていって、サインをもらうのかと思いきや「かじって下さい」とリクエストするファンもいたり)、なおかつお行儀よく熱心に聴くファンの大歓声に後押しされてアンコールに答えた後、再度登場した彼らはカーテンコールのように揃ってお辞儀をして、そして去っていく前に
Jim Black はまたサンプリングマシーンをいじって別の遊園地音楽をかけた。さっきのは2部の幕開けを知らせる音楽で、今度のは楽しい遊園地の最後の音楽だった。
観客も大満足で会場を後にし、それからメンバーもみんな今日はほんとうに素晴らしかった!と言っていた。
ライブ終了後に会った Jim Black は握手をするのにごめんね、と言って左手を出してきた。握手もできないほど右手を痛めていたからだ。ライブ前からなのかライブでおかしくなったのかはわからないけれど、それはこの日のパフォーマンスを見た後ではちょっと信じられない事実だった。
(2003/03/22)