winter 2003

Erlend Øye
2003/02/25
@ Blå, Oslo, Norway


ノルウェーのサイモン&ガーファンクルなどという異名をとるデュオ King Of Convenience (KOC) のリードボーカルをとっていないほうの片割れ(もしくは背の高いメガネのほう、ともいう) Erlend Øye が2003年2月に初めてのソロ作 "Unrest" をリリースした。全10曲を1曲ずつ世界各地の10組のアーティストとのコラボレーションで構成するというアイディアで、音はKOCとはまったく異なるエレクトリック・ポップ。Erlend Øye がボーカルをとった同じベルゲン出身の Röyksopp の2曲("Poor Leno", "Remind Me"; 両方ともデビューアルバム "Melody A.M." に収録)での彼のほうがこのソロに近い。そのソロアルバム "Unrest" 、私はKOCのアルバムよりも好きなくらいだけれど、一般的な評価は真っ二つに分かれている。確かにどちらの言い分もわからないでもない作品ではある。

その Erlend Øye のオスロでのリリースライブとなるコンサートが Blå で行われた。ポップスターの登場とあってさすがにぎっしり埋まっている(このそんなに広くないクラブに300人も入ったそうだ)。例によっていつ始まるかわからない Blå のコンサート、10時頃だっただろうか、ふと顔を上げるとステージの真ん中のマイクスタンドの前にジャンパー(という表現がぴったり)をぼさっと着た Erlend Øye が立っていた。写真でみるそのままのメガネでひょろりと背の高い彼は "Hei!" と一言。まだ彼の出現に気づかない観客も多く、"Hei!!" ともう一度。さすがに会場中の注目が前方に集まる。ステージを始める雰囲気ではなさそうだと思ったら、サポートアクトの紹介を始めた。紹介されたのは彼のバンド Full Effect のベーシスト Sascha Steinfurth 。ベルリンからやってきたベーシストは Erlend Øye のアコースティックギターを抱えて英語で自己紹介をした後歌いだした。最初の一瞬はまさしく KOC 系、とも感じられたけれど、後は普通のギターの弾き語り。緊張しているのか、音楽より少々ギターが先走る感じで、MCもかなりぎこちなかったけれど、最後はちょっと開き直り気味でステージをこなした。最前列周辺のちゃんと聴いてあげているファンに助けられた形になった。

メインアクトとして再び登場した Erlend Øye は、さっきからジャンパーを脱いだ以外はそのまま、まるで普段着。ズボンの後ろポケットから紙切れがいっぱいのぞいていたり、シャツの下からTシャツが出ていたり、と朝起きてそのまま来たといういでたち。メンバーはさっきのベーシスト Sascha Steinfurth 以外にフィンランド人が2人、1人はステージ右側、エレクトロニクス/サンプリング担当で 20代後半の Erlend Øye と比べてももっと若いミュージシャン。もう1人は Erlend Øye に負けず劣らず変わったメガネのキーボードプレイヤー、彼のキーボードには "HELSINKI" と書かれている。(※フィンランド人2人の名前はついぞ聞き取れず、残念。)インターナショナルなメンバーはステージ上だけでなく、ミキシングボードにいるサウンドエンジニアにも英語で指示している。

曲は "Unrest" からのものばかり、もちろん(?)KOCのナンバーはなし。サウンドは打ち込みによるビートと Erlend Øye の歌を軸に、そこに彼のエレクトリックギターとキーボードとベースを付け加えている。エレクトリックギターを抱え、飛び跳ねたりしながら気ままに歌う Erlend Øye は、私がアルバムから受けた、「本当に好きな音楽を楽しんで演っている」という印象とぴったりだ。ふわっとしていて、どことなくつかみ所のない声と歌は彼のキャラクターを反映しているようでもある。

1曲終わって改めて会場一杯のオーディエンスと向き合ったベルゲン出身の彼が発したのは「オスロに来れてうれしいよ」だった。気取らない飄々とした彼は、まるで友達にしゃべりかけるようにぼそぼそっと超自然体でMCをとる。それは歌っていても変わらない。

シンプルな構成のバンドで、アルバムの曲をアルバムより少しシンプルにソリッドに再現していく。エレクトロニクス担当のフィンランド人ミュージシャンの作り出す音は、シャープでなかなか心地よい。他の2人は結構ステージ上をうろうろしていろいろな楽器を手にしたり、もう1人のフィンランド人は Erlend Øye とともにびょんびょん飛び跳ねたりと忙しい。途中、そのキーボードプレイヤーがステージの隅にあったつばの広い麦わら帽子(のようなもの)をかぶった。どうしてそんなものがステージ上に置かれていたのか、と思っているうちに、その帽子は次の曲に移るときにベーシストに手渡され、帽子を受け取ったドイツ人はふと帽子をかぶろうとして止めて、それは Erlend Oye に渡され、帽子を覗き込んだノルウェー人は、帽子の中からなんと梨を取り出した。Erlend Øye はそれをいきなりステージ上でかじり始め、そのまま次の曲の演奏を始めた。途中でその梨は椅子のタオルの上にそっと置かれた。

この日のライブは、多分アルバムと同じような評価を得たと思う。熱心に聴いていた人はたくさんいたけれど、たくさんお客さんが入った分、途中で飽きてしまっておしゃべりを始める人もたくさんいた。ステージ上のミュージシャンはぜんぜんそんなことを気にする風もなく、どちらかというと観客に聴かせるというより自分達の好きな音楽を楽しそうに演っている。ライブを聴いて感じたのは、彼の音楽はとても印象に残るメロディーを持ったポップミュージックなのだ、ということ。思ったより彼の歌うメロディーは頭に残るようだ。

気ままにステージを動き回った Erlend Øye は、最後の曲を終えると食べかけの梨を持って他のメンバー達とステージから去っていった。そしてアンコールを求める拍手に答えて出てきたのは、梨をかじりながら出てきた Erlend Øye 1人だった。

ステージ中央に来ると、それまでサポートアクトの演奏の時を除いて一度も使われていなかったアコースティックギターを持って、高い椅子に腰掛けてチューニングをしながら、観客に話しているとは思えない力の抜け方でぼそぼそしゃべる。そしてギターを抱えてマイクに向かう「KOCの片方らしい」スタイルで、ノルウェー語の歌を歌った。ノルウェーの de Lillos というグループの "Livet er en liten dings" という曲。曲と曲の間にはチューニングをしなおしたり、MCというよりつぶやいてみたり、ため息(!)をついてみたりと本当に自然体。同じアコースティックギターを弾きながら弾き語りのスタイルで Lee Hazlewood の "No Train To Stockholm"(この曲は2002年にリリースされた Lee Hazlewood のトリビュートアルバム "Total Lee" にも彼によるバージョンが収録されている)、次は AC/DC の "Bad Boy Boogie" 。そして何も言わずに弾きめた4曲目、歌詞の最初のフレーズで会場が小さくどよめいた。ヨーロッパ中で大ヒット中の Röyksopp "Remind Me" だった。アルバムでも彼が歌っているけれど、この日のバージョンはまるで「1人KOCバージョン」。本編の時よりもアンコールのほうが断然真面目に聴いている人が多かったのだけれど、特に、当然なのか皮肉にも、なのか、オーディエンスがこの日一番ステージに集中したのはこの曲だった。

もう1曲最後に演奏してから、彼はギターを置き、黙って彼の前方、会場の後方を遠い目で見つめ、そこからまっすぐそちらへ向かうように、ぎっしり満員オールスタンディングのオーディエンスの中へ消えていった。

(2003/04/09)


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